Case.89 国王の影
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──Case.89 国王の影
俺たちは骨董品店から続く妖狐の臭いを追っている。
「こっちだ」
カリギュラが前を進み、俺たちは骨董品店から西の方に進んでいく。
骨董品店の西には花岡山という山があるのだが、臭いはそっちに続いているようだ。
花岡山には地獄戦争の最中に観測所が設置された記憶がある。
ここから熊本市街の悪魔に対して砲兵や航空機の攻撃を誘導したのだ。
もちろん地獄の側もそれを把握していたから、この花岡山では両軍が激突した。
俺たちも一部の作戦に参加したが、人間も悪魔も大勢が死んだ場所だ。
「すんすん」
ここでカリギュラが鼻を鳴らす。
「別の悪魔の臭いが混じった。同じ妖狐のようだが……」
「数は?」
「4体だな。間違いない」
「低位魔獣に探らせられないか? 不意打ちは受けたくない」
「任せろ」
カリギュラは周囲にいる低位魔獣を統制すると、俺たちのいる花岡山近辺の情報を集めさせ始めた。
「見つけた。だが、向こうもこちらを見つけているようだ。注意しろ、阿賀野」
「了解」
俺は腰のホルスターからHK45自動拳銃を抜いた。
カリギュラのその警告の直後に炎が俺たちに飛来した。
そう、ファンタジー映画に出てきそうな炎の弾が俺たちに飛んできたのだ。
しかし、そんな光景を見るのは初めてじゃない。
「カリギュラ! 向こうさんはやる気らしいが、できれば生け捕りを狙うぞ!」
「合点!」
むやみやたらに発砲するとまた石川大尉から市街地での発砲云々について苦情が来るし、殺してしまったら黄金の招き猫の行方を聞き出せない。
俺たちは飛んでくる炎を回避しながら、炎を放っている悪魔を探る。
地獄戦争中も悪魔がこの手の魔法を使うのは幾度も見てきた。
今さら驚くことじゃない。
「見えた」
俺たちに向けて炎を放っているのは、狐耳と尻尾を生やしたジャージ姿の女だ。
手の中に炎を形成して、それを俺たちに向けて叩き込んでいる。
あれが妖狐で間違いなさそうだ。
「攻撃を止めろ! さもないと撃つぞ!」
俺はそんな妖狐に向けて叫ぶ。
カリギュラの方もS&W M500拳銃を抜き、いつでも撃てるようにしていた。
「黙れ! あれは我々のものだ! 渡さないぞ!」
妖狐はそう言い、さらに炎を放ってくる。
炎そのものの弾速は遅く、回避するのは難しくないのだが、そんな物でも距離が縮まれば当たる可能性は上がる。
そして、俺はここで火達磨になって服を台無しにしたくなかった。
「カリギュラ。死なない程度に焼いてやれ。その隙に取り押さえる」
「了解~!」
それからカリギュラは妖狐の尻尾に炎を放った。
「あつっ! あつつつっ!」
尻尾を押さえてのたうち回る妖狐。
俺はそこに突撃し、妖狐を取り押さえた。
「やめろ! 放せ!」
「黙れ。脳天をぶち抜くぞ」
妖狐はばたばたと暴れていたが、俺が銃口を突きつけると抵抗を止めた。
「さて……。黄金の招き猫を知っているな? あれはどこだ?」
「お前らに渡すものか! あれはもう我々のものだ!」
“あれ”と言っているだけで招き猫とは言っていなかったので、確認する意味でそう尋ねたのだが、どうやらビンゴらしい。
「カリギュラ。この付近に他に妖狐の臭いは?」
「逃げたらしいな。周囲に散っている」
「そうか……」
黄金の招き猫はこの場にないとすれば、こいつの仲間が持ち逃げしたことになる。
黄金の招き猫の窃盗にこいつらが関わっているのは、さっきの言葉でほぼ間違いないからな。
「お前ら、どうして招き猫を盗んだ?」
「あれは我々のものだからだ!」
「さっきからそればっかりだな。あれはお前らとは別の悪魔が、金元さんに売ったものだ。もしかして、その悪魔がお前たちから盗んだっていうのか?」
「そうだ! あれは本来は我らが主人のもの!」
「主人ってのは誰だ?」
「地獄の国王のひとりマモン様だ!」
ここでまた名前が出てきたマモン。
俺は本人を見たことはないが、強欲を司るリッチな悪魔らしい。
「不届きな悪魔がマモン様の宝物庫から盗み出したのだ!」
「待てよ。じゃあ、あれは地獄で作られた招き猫ってことか? 地獄で招き猫を作ってるのか?」
「……それは知らない」
地獄で悪魔の職人たちがせっせと招き猫を作ってるのを想像するとちょっと笑えてしまうのだが……。
「地球に侵攻した際に略奪したものじゃないのか~?」
「そ、そうだとしてももうマモン様のものだ!」
カリギュラも怪しむが、妖狐はそう主張を続ける。
地球で作られた招き猫が紆余曲折あって地獄の国王の手に入り、それからまた紆余曲折を経て金元の元へ?
ややこしくなってきた。
そもそも金元の元から盗まれたという証拠はあるのだが、マモンの元から盗まれたってのは完全に一方的な主張だしな。
「で、マモンの元から盗まれたという証拠は?」
「招き猫の底に刻印がある! マモン様のシグネットリングの刻印だ!」
「あったか、そんなもの……?」
俺たちは現物を見ていないので、何とも言えない。
「阿賀野。マモンは敵に回すと厄介だぞ。やつの部下は多いからな」
「招き猫は諦めろと?」
「そうすべきかもしれない」
カリギュラが珍しく真剣な表情でそう言う。
俺も流石に地獄の国王とは交戦したことがない。
地獄の国王は大君主であり悪魔たちの長サタンを含めて7名存在すると聞いている。
そのような強力な悪魔の王のひとりがマモンなのだ。
「しかし、そう簡単に諦めると評判に響く。追跡を可能な限り続け、その上でリスクが高いようならば諦めよう」
「分かった。で、次はどうする?」
「複数方向に逃げた妖狐たちを追うのは難しい。ここはこの手の品に詳しい人間を当たってみよう。骨董品に詳しい知り合いがいるだろう?」
「あいつか。それなら手がかりになりそうだな」
というわけで、俺たちは妖狐を結束バンドで拘束し、憲兵に通報してから一度花岡山を下りた。
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