Case.9 サキュバスの足跡
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──Case.9 サキュバスの足跡
俺とカリギュラは女夢魔事件の再調査のために行動している。
まず調べたのは、先日被害に遭った若者が女夢魔に引っかかった場所だ。
それは市内の歓楽街にあるバー。
前に来たときは銃撃戦になったように歓楽街にはトラブルがつきものだが、今回の件はどうなることやら。
「俺はバーの従業員と常連客からもう一度話を聞く。カリギュラ、お前はいつもの方法で頼むぜ」
「合点だ」
俺はバーの中に入り、カリギュラは裏手に回った。
からんからんとドアベルが鳴り、上品な雰囲気が漂う店内が見えた。
黒と白、そして赤で整えられた色調。
ミニマリスト好みの最低限のものだけが置かれた調度品。
「バーテンダー。ギムレットを頼む」
「……畏まりました」
俺がカウンターのスツールに腰かけて注文するとバーテンダーが静かに応じる。
「お客さん。前に探していた若者は見つかりましたか?」
「ああ。見つかったが、もう一度あのときのことを教えてくれるか?」
「何が聞きたいんです?」
「お前が言っていた魅力的な女性ってやつはいつもここで男を漁っていたのか?」
「いいや。あの日が特別だ。常連客じゃない」
「では、たまたま若者は女夢魔にここで出くわしたというわけか?」
「前にも話したでしょう。私はそれ以上のことは知りませんよ」
バーテンダーはうんざりしたように俺の質問に応じる。
「……そうか。もう1杯ギムレットを頼んでも何も思い出さないか?」
俺はそう言ってバーテンダーの方を見た。
「……そうですね。若者は紹介で来たと言っていましたよ。SNSで知り合った親切な悪魔にいい店があると言われて」
「親切な悪魔、ねえ……」
「胡散臭いのは分かりますよ。けど、この街の快楽に詳しいのは、人間より悪魔ですからね。たまに性質の悪い男夢魔や女夢魔に出くわすのは、まあ、運が悪いとしか言いようがないですが」
誰かが狩場をコントロールしている。
精気に飢えた女夢魔の待つ場所に若い男を追い込んだ。
あるいはこれは全てただの偶然なのか。
だが、黒幕がいるとすればSNSで知り合った悪魔とやらだろう。
「ありがとう。助かった」
俺は提供された情報を手にバーを出た。
バーを出るとカリギュラが向かった裏手の方に回る。
「カリギュラ。どうだ?」
「うむ。ここら辺の低位魔獣から聞き取りをしていたところだ」
カリギュラの周りには猫ぐらいのサイズがあるドブネズミが群がっていた。
こいつらも地獄から流入した魔獣の類だが、人は襲わない。
「成果は? 若者はSNSで親切な悪魔とやらにこの店を紹介されたらしいぞ」
「詐欺みたいな代物に引っかかったんだな、そいつ」
「詐欺みたいというか、詐欺そのものだな」
俺はカリギュラが魔獣から情報を得るのを待つ。
カリギュラは元とはいえ地獄の軍勢を指揮していた大悪魔だ。
これぐらいの魔獣ならば手懐けることは容易い。
「ん。分かったぞ。馬鹿な男を襲った女夢魔がどこからやってきたかについて」
「オーケー。まずはそっちから当たろう」
俺たちはカリギュラの案内で俺が撃ち殺した女夢魔がどこからやってきたかを辿る。
歓楽街を物騒な用心棒が目立ってくる方向に進み続けると──。
「ここだ」
そこは1軒のキャバクラがあった。
どうにも賑わっている雰囲気ではなく、夜だというのに店は閉まっている。
「怪しいことこの上なしだな」
「ああ。踏み込もうぜ、阿賀野」
「分かった。3カウントで踏み込むぞ」
俺がHK45自動拳銃を抜き、構えたときだ。
「おいおいおい! そこで何やってんだ、おら!」
慌てた様子で黒スーツの男4名がやってくる。
そいつらの顔には見覚えがあった。
「お前ら、アビス・ファミリーの……」
「あああっ!? この前の頭がおかしい便利屋コンビじゃねえか!」
豚鼻の膝にサポーターを巻いている男が恐怖に表情を歪ませる。
こいつ、もう歩き回れるようになったのか。悪魔はやっぱり頑丈だな。
「ここもお前らの店か?」
「そ、そうだが……ま、また借金の取り立てか……? だ、だとしたら、穏便に行こうぜ……? ……こ、こっちも前みたいに銃を抜いたりしないから、な?」
豚鼻の悪魔が恐る恐るそう言う。両手を半分上げて抵抗しないのを示している。
「借金の取り立てじゃないんだが、ここはどうして閉まっている?」
「しゃ、借金だよ。つい最近、借金で潰れたからうちの傘下に入ったんだが……」
「前のオーナーは?」
「よ、夜逃げしたって話だ。言っておくが俺たちは匿ってないぞ! 本当に!」
豚鼻の悪魔がそう言い、やつの部下たちがうんうんと必死に頷く。
「そうか。一応中を調べてもいいか?」
「あ、ああ。カギを開けさせよう」
豚鼻が命じ、アビス・ファミリーの連中が潰れたキャバクラのカギを開ける。
「さて、何が出るかね……」
「わくわくの瞬間だな」
俺たちはカギの開いたキャバクラの廃墟に踏み込む。
内装はまだ綺麗だ。
だが、照明が落ちていて暗いのでタクティカルライトを使って周囲を照らす。
埃っぽい空気が漂っているが、それ以外のものも俺は感じていた。
何か物騒なものが隠されている雰囲気だ。
「カリギュラ。何か感じるか?」
「ああ。この臭いは──」
カリギュラが俺の問いに小さく笑う。
「腐った人間の死体の臭いだ」
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