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Case.10 現場検証

……………………


 ──Case.10 現場検証



 俺とカリギュラは倒産したキャバクラの建物を調べている。


 カリギュラの嗅覚を頼り、俺たちはブービートラップの類にも警戒しながらキャバクラの中を進んでいく。


 うっかり進んでワイヤーに繋がれた手榴弾がドカンとなると、死にはしないが気持ちがいいものでもないからな。

 不死身と言っても痛みを感じないわけじゃないし。


「こっちだ」


 カリギュラは小さな炎をタクティカルライトの代わりに使っており、俺のタクティカルライトの光源とカリギュラの炎の光源で辺りを照らす。


 辿り着いた先はバックヤードで、金属ラックや大型の業務用冷蔵庫などがそのまま放置されている。


「この中からだ」


「ああ。ここまでくれば俺にでも伝わってくる」


 俺たちが目の前にしたのは、すでに電気の通っていない冷蔵庫。

 腐臭はこの中から漂ってきている。


「開けるぞ」


「合点」


 俺が冷蔵庫を慎重に開くと、中には人間の腐乱死体が詰め込まれていた。


「おい、豚鼻。こいつが夜逃げしたっていう前のオーナーだったりしないか?」


「あ、ああ。確かにこいつは夜逃げしたはずの前のオーナーだ……!」


 俺が確認を取るのに豚鼻の悪魔が驚いた様子を見せる。

 その驚愕のリアクションに怪しいところはなく、アビス・ファミリーの連中は本当に冷蔵庫に死体が詰まっているとは思っていなかったようだ。


「さて、どう解釈するかだな。借金取りに殺されたのか、あるいは……」


「お前が問題の女夢魔(サキュバス)を殺ったことで、ここにも捜査の手が及ぶと考えた何者かによって口封じされたか。こっちの方が俺様好みの展開だな。わはは!」


 俺たちはそう言葉を交わしながら、死体をもっとよく調べるために冷蔵庫から引きずり出す。

 冷蔵庫の電源が落ちてから腐り始めたのだろう死体はまだ腐りかけという程度だ。


「致命傷になったのは、恐らくこの頭の銃創だろう。脳天に9ミリ弾を一発だ。他の外傷は見る限りでは死後のものだし、干からびてないところを見るに女夢魔(サキュバス)に絞り殺されたわけでもない」


「ふむ。力のある悪魔ではないようだな。力のある悪魔ならば、こんな小男相手にわざわざ証拠が残る銃を使うはずがない」


「そう思わせるためにわざわざ射殺したのかもしれない。決めつけるにはまだ早い」


 力のある悪魔──かつてのカリギュラのような悪魔ならば確かに銃は必要ない。

 超自然的な炎で焼き殺したり、あるいは精神を操って自殺させることもできる。


「しかし、豚鼻ども。お前ら、冷蔵庫に死体が詰まっているのにこれまで気づかなかったのか?」


「い、いや。まだうちのファミリーが買い取って2日ぐらいしか経ってないんだよ……。冷蔵庫なんて調べてなかった……。あ、あと、俺の名前はオルガンです……」


「そうか。オルガン、この死体の身元に関する情報があったら提供してくれ。前のオーナーなんだから、お前たちも情報はあるだろ?」


「え、ええ。準備させる」


 それから俺とカリギュラはオルガンが死体になっている前のオーナーの資料を準備するまでの間、キャバクラの中を調べて回った。


 前のオーナーがどこで射殺されたのかは分からないが、キャバクラの中には血痕はない。

 死体には射出口がなかったので、現場には弾痕もないだろう。1発でオーナーを仕留めたのならば、だが。


「持ってきました!」


 走ってきたオルガンの部下がそう言って俺たちに資料を渡す。


「山田邦彦。高校中退でボーイとしてキャバクラで働き始めて、そのときの貯蓄を資金源にしてこのキャバクラを立てた、と」


「なんてことはない経歴だな。つまらん」


「待て。こいつに出資した人間の中に興味深い人間がいる」


「ん?」


「五十嵐イズラエル。こいつはヘルファイア・カルトのメンバーだったはずだ」


 ヘルファイア・カルト──。


 地獄戦争中に人間でありながら、地獄に魅了されて悪魔たちの味方をした連中だ。

 やつらは悪魔による地球の支配こそが、人類にとっての救済になると信じていた。

 そういう危険なカルトだ。


 五十嵐はその創設メンバーのひとりだ。

 俺たち情報軍は連中も暗殺の対象にしていたので間違いない。


 戦争が終わって、ヘルファイア・カルトも潰れたと思っていたが……。


「どうにも怪しくなってきたな。しかし、ここで得られる情報はもうなさそうだ」


 殺人を繰り返した女夢魔(サキュバス)がいたキャバクラ。

 そのキャバクラの冷蔵庫から出てきた死体。

 その死体──前のオーナーに出資したヘルファイア・カルトのメンバー。


 嫌な予感がしてきた。

 これはしょうもない事件で終わらない予感がする。


「阿賀野、次はどうする?」


「若者がSNSで知り合ったっていう悪魔を探すべきだろうな。他の被害者にもその悪魔が接触してれば、そいつが黒幕かもしれない」


「それはどうやって調べるんだ?」


「軍政局に協力してもらうのさ」


 俺はカリギュラにそう言い、キャバクラを出る。


……………………

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