Case.11 ラプラスの悪魔
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──Case.11 ラプラスの悪魔
俺とカリギュラは軍政局に向かった。
今回は魔獣対策課のカウンターではなく、かつて熊本県警本部があった場所に設置されている憲兵隊の本部に向かう。
「石川大尉に会いたい。彼から依頼を受けていて、それについて進展があった」
俺がそう受付カウンターにいた軍人に告げると、暫くして石川が姿を見せた。
「調査に進展があったとか? お聞きしますので私のオフィスへどうぞ」
それから俺たちは石川と一緒に彼のオフィスに向かう。
オフィスは個室であり、なかなかに立派なものだった。
「こいつを見てくれ。若者を襲った女夢魔がいたキャバクラの前のオーナーの資料だ」
「……五十嵐イズラエル。ヘルファイア・カルトのメンバーですね」
「ああ。そしてこのオーナーは冷蔵庫で腐乱死体になっていた。頭に9ミリ弾を撃ち込まれてな」
「銃での殺害。人間の犯行ですか?」
「そう決めつけるのは早い。ここ最近じゃあ、悪魔たちも銃の利便性に気づいているからな」
石川が尋ねると俺は首を横に振る。
「それで、だ。これは仮説だが聞いてくれ」
俺はそう前置きして話し始める。
「ヘルファイア・カルトが女夢魔を援助している可能性がある。連中は悪魔に疎い県外の人間──この前襲われた若者のような手ごろな男を見つけ、女夢魔にそいつらを襲わせているかもしれない」
「何のために?」
「ヘルファイア・カルトの目的は地獄による地球の支配というイカレたことだった。女夢魔の腹を膨れさせ、やつらを強力にすることで今の秩序を破壊するテロでも企てているのかもしれない」
低位悪魔である女夢魔でも精気を吸い続け強力になれば、今のカリギュラが使うような魔法を操れるようになる。
俺が恐れているのは、それだ。
「ふむ……」
俺の推測に石川は小さく唸りながら俺たちがまとめた調査資料を見つめる。
「それを証明するには何が必要ですか?」
「若者はSNSで親切な悪魔にバーを紹介され、そこで女夢魔に狙われた。こいつが怪しいと俺は思っている。これまでの被害者のSNSアカウントを調べてくれないか?」
「……分かりました。調べてみましょう。我々はこれまでこの件を単一の事件として扱っていたため、そこまで調べていませんでしたから」
石川はそう言うとスマートフォンを取り出し、恐らくは憲兵隊所属の鑑識係と会話を始める。
「そうだ。遺留品のスマートフォンを調べて被害者のSNSアカウントに妙なメッセージが残っていないか調べてほしい」
そう言って石川が指示を出し、俺たちの方を見る。
「正直なところ、こんな短時間でここまでの成果を出してくれるとは思ってもみませんでした。あなた方に依頼したのは正解だったようです」
「おいおい。これで再調査は終わりでいいのか?」
「いいえ。今から鑑識の方に行って、SNSアカウントの調査結果を聞きます。それであなた方の推理が当たれば調査は終了ですが、そうでないならば引き続き黒幕についての調査をお願いします」
「了解だ。俺たちとしてもどういう結果になるのか気になっている」
「では、向かいましょう」
石川はそう言って椅子から立ち上がり、鑑識が遺留品のスマートフォンを調べている部屋まで向かう。
「進捗は?」
「ロックは解除しました、大尉。今、SNSアカウントの方を調べています」
鑑識の軍人たちは破損していたスマートフォンを修理し、ロックを解除して、今は中身を調べているところだった。
パソコンに繋がれたスマートフォンのデータが総ざらいされていき、被害者に共通する不審なメッセージを探す。
「これでしょうか。ラプラスというアカウント名の人物から、被害者全員に熊本市内の歓楽街の店について紹介するやり取りが残っています」
そこにはラプラスというアカウントからの歓楽街の店の案内が記されていた。
被害者全員に共通するアカウントはそれだけだ。
ラプラスのプロフィール欄には『熊本在住の女悪魔にして夜の街を知り尽くした遊び人。熊本のナイトライフに役立つ極秘情報をあなただけにご紹介します』とあった。
そしてプロフィール画像には顔を隠した長髪でグラマラスな女の写真だ。
これだけならば、ただの胡散臭いアカウントで終わっただろうが、こいつの紹介を受けた店で被害者が女夢魔に狙われている。
「そのラプラスの身元は特定できそうか?」
「難しいですね。このSNSはロシア系企業が運営しているもので、高度な匿名性が売りのものですから」
「そうか……」
捜査はここで行き詰まってしまった。
「俺たちの仮説が正しいかどうかは証明できそうにないな」
「ええ。SNSから追うのは難しくなりました。他に何か手がかりがあればいいのですが」
「そうだな。俺たちはもう一度被害者が襲われたラブホテルを調べてみる。何か残っているかもしれない」
「分かりました。お願いします」
刑事ドラマでもよく言われるが、捜査に行き詰まったら現場に戻れ、だ。
現場に見逃しがあるかもしれない。
「カリギュラ。ラブホテルに行くぞ」
「ふふっ。お前が俺様をラブホテルに誘うとはな」
「馬鹿。そういうのじゃない。捜査だよ、捜査」
それにラブホテルと言ってもとっくに廃墟になってるぜと呆れたように俺は言う。
「さあ、さっさと行くぞ。善は急げだ。キャバクラの件が口封じだとすれば、ラブホテルの方でも証拠隠滅をされているかもしれないしな」
「合点だ」
そして、俺たちは再びあのラブホテルの廃墟を目指した。
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