Case.12 不気味な空間にて
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──Case.12 不気味な空間にて
俺たちは若者が女夢魔に襲われていたラブホテルの廃墟までやってきた。
「なあ、阿賀野。一応聞くが、ここはもう軍政局が調べたんじゃないか?」
「憲兵の仕事は雑だからな。それに石川大尉が言っていたように今まで憲兵はこれを単独の事件として扱い、連続した事件とは見ていなかった。そういう点でも見落としがあるかもしれない」
「ふうん」
俺の説明に納得したのかしなかったのかは分からないが、とりあえずカリギュラは俺についてきた。
「犯人が現場に戻っている可能性もある。一応警戒しろよ」
「任せておけ」
俺はタクティカルライトで、カリギュラは魔法の炎で周囲を照らしながら、俺たちはラブホテルの中を調べていく。
ラブホテルは一度憲兵が調査しており、連中の軍靴の跡が残っている。
それ以外は特に何もないかのように思えたが……。
「阿賀野」
「どうした、カリギュラ? 何か見つけたか?」
「ああ。悪魔の気配がする。近くにいるぞ」
すんすんと鼻を鳴らすカリギュラの警告に俺は腰のホルスターから素早くHK45自動拳銃を抜く。
「数は?」
「1体。低位悪魔だな。それこそ女夢魔の類だ」
「まさかマジで犯行現場に戻ってきたのか……」
まだ関連する事件の犯人と決まったわけではないが、女夢魔が何人も殺した場所に現れた女夢魔というのは警戒すべきだ。
「こっちだ、阿賀野。ついてこい」
カリギュラは先頭を進み、俺は彼女を援護して前進する。
カリギュラが向かった先は従業員用の部屋で、予備のベッドシーツなどを保管している場所だ。
「何もいないぞ」
俺は部屋を素早くクリアリングしたが、悪魔の姿は見えない。
悪魔どころか人間もいない。
「いいや。この下だ。この部屋の地下にいる」
「地下、か……」
カリギュラはそう言い、俺とカリギュラは地下に続く道を探す。
カリギュラの鼻は信頼できる。
これまでやつは何体もの魔獣や悪魔を事前に見つけてきた。
下手な軍用犬より鼻が利く。
「あったぞ。この棚をどかせば……」
「待て待て。手を貸す」
俺たちはベッドシーツの詰まった金属の棚をゆっくりと横に押す。
すると、そこに金属製の扉が隠れていた。
「ふはははっ! これは憲兵も見逃したようだな!」
「ああ。お前の方が憲兵より優秀だ。だが、どうにも臭いぞ。気を付けて探ろう」
「合点」
俺は金属の扉にブービートラップの類がないことを確認したのちに、音を立てないように慎重に扉を開く。
扉の先には地下に続く階段があった。
恐らくは最初から備品の保管庫として作られていたものなのだろう。
劣化具合は地上の建物と大差ない。
俺たちは剥き出しになったコンクリートの階段を降りていき、タクティカルライトで周囲を照らす。
やはり備品の保管庫と言うことで当たりだったようだ。
地下には空の金属ラックがずらりと並んでいる。
「阿賀野。10時の方向から悪魔の気配だ」
「オーケー。見に行こうぜ」
カリギュラから警告を受け、俺たちはその方角に向かう。
「あれは……」
俺たちがタクティカルライトで照らした先には──。
「ヘルファイア・カルトのシンボル……」
歪んだ五芒星と燃え盛る炎の意匠。
それはヘルファイア・カルトのシンボルだ。
「臭いからして血で描かれているぞ。ここは連中の拠点だったっぽいな」
「ああ。大当たりだ。だが、悪魔はどこだ?」
「──気を付けろ、阿賀野! 上だ!」
俺が天井にタクティカルライトを向けると、牙を剥き出しにした女夢魔が天井に張り付いていた。
「死ね、人間!」
蛇が威嚇するような声を上げて女夢魔が俺たちに襲い掛かる。
「クソ!」
俺は素早く地面を転がって上空からの奇襲を回避。
自動拳銃の銃口を女夢魔に向けて引き金を引く。
乾いた銃声が地下室に反響するが、女夢魔は素早い動きで銃撃から逃れる。
「カリギュラ!」
「任せろ!」
女夢魔の退路を断つべく、カリギュラが炎を生じさせる。
それを見た女夢魔の顔が憎悪に歪む。
「貴様、悪魔のくせに人間どもの味方をするのか?」
女夢魔はそう言い、カリギュラを睨む。
「ああ。悪いか? 俺様は今は人間の味方だ」
「連中の犬に成り下がって悪魔としての誇りはないのか」
「ふははは! 人間が俺様に利益を与えてくれるからな! 俺様は人間からとても大事なことを学んだ……」
カリギュラは胸を押さえてそっとそう言う。
「そう──肉は焼いてタレを付けた方が美味いということを!」
凄くシリアスそうにそう宣言するカリギュラ。
これには女夢魔も何も言えなかった。
「女夢魔。誰にここを教えられた? ヘルファイア・カルトの連中とつるんでいるのは分かっているんだぞ」
俺はそんなカリギュラを放っておいて、女夢魔に銃口を照準したまま尋ねる。
ヘルファイア・カルトが女夢魔どもの食事を世話してるというのは、俺の中ではただの推測のひとつだったが、ここにきて証拠が集まり始めている。
俺は今回は女夢魔をすぐ殺さず、尋問する必要があると判断した。
「貴様に教えることなど何もない。その悪魔とともに死ね!」
しかし、女夢魔は問いには答えず、牙と爪を剥き出しにして俺たちに襲い掛かってくる。
「ちっ!」
俺は突き出された鋭い爪を回避し、女夢魔の足を狙って発砲。
しかし、獣のように動き回る相手を殺さずに無力化するのは容易なことではない。
1発、1発を慎重に発砲するが、未だ女夢魔の肩を掠めただけで、無力化には程遠い。
「援護するぞ、阿賀野!」
ここでさらに女夢魔の行動を制限するためにカリギュラが炎を生じさせる。
完全に檻のように周囲を取り囲んだ炎を前に女夢魔がたじろぐのが俺にも分かった。
「さあ、ゲームオーバーだ、お嬢さん。黒幕を吐け」
「……言えない。言えない。言えない」
がくがくと震えながらそう繰り返す女夢魔。
死人のように青ざめ、視線も震えている。
「様子が変だぞ」
「ああ。とりあえず、ここに憲兵を──」
カリギュラと俺がそう言葉を交わしたとき、女夢魔が無造作にカリギュラが生じさせた炎の中に突っ込んだ。
「なっ……!」
カリギュラの炎が女夢魔を焼き、女夢魔は悲鳴を上げながら灰になっていく。
「カリギュラ! 炎を止めろ!」
「……手遅れっぽいぞ」
カリギュラが炎を止めたとき、すでに女夢魔は半身が灰になり、この世から硫黄の臭いを残して消え去りつつあった。
「どういうことだ……?」
その灰の中から見つかったものはなく、俺たちは不気味なものを感じた。
謎は残った。
ヘルファイア・カルトは本当に女夢魔に餌やりをしていたのか?
女夢魔はどうして自殺したのか?
だが、それらを究明するのは俺たちの仕事じゃない。
俺たちは今回の事件の再調査を行い判明した、以下のことを正式に軍政局の石川大尉に報告した。
まず被害者にはSNSで共通した人物──ラプラスと接触していた。
次に女夢魔たちが狩場にしていた地下にヘルファイア・カルトのシンボルがあった。
このことから事件は偶発的なものではなく、背後に黒幕がいる可能性がある。
今、言えるのはこれだけだ。
「ご苦労様でした」
俺たちは石川大尉からそう言われ、報酬金50万円を無事に受け取った。
「また何かあればよろしくお願いします」
「おう。稼げる仕事なら引き受けるぞ」
石川がそう言い、俺たちはそう返すと軍政局の建物を出た。
「うひょ~! 万札の束を見るとテンション上がるぜ~!」
「ははははっ! 今日こそは焼肉に行くぞ!」
「たまにはラーメンもよくないか? トッピングマシマシでさ」
「やだ! 俺様は焼肉がいい!」
俺たちは気楽に報酬で何を食べるかの話をする。
ヘルファイア・カルトのような地獄崇拝の秘密結社をどうこうするのは、流石に憲兵の仕事だろう。
俺たち一般市民の仕事じゃない。
俺たちはアメコミに出てくるようなスーパーヒーローじゃないのだ。
ただ、この件がこれで終わりではないということだけは俺たちにも分かっていた。
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