Case.8 信用は大事
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──Case.8 信用は大事
俺たちの抱える大きな問題のひとつ。それは──。
クレジットカードが作れないこと。
クレジットってのは信用って意味である。
支払い能力があるとカード会社が信用した人間にのみカードは発行される。
その信用が俺たちには欠けていた。
そりゃそうだろ。
収入が不安定なその日暮らしの人間に金を貸すのは、犯罪組織ぐらいだ。
で、クレジットカードがないとネットサービスの支払いなどで面倒くさくなる。
まあ生活に響くようなことはないが、やっぱり不便だ……。
せめてもっと収入が安定すればと思うのだが、こればかりはどうにもこうにも。
今日は家賃の取り立てのような少額の仕事すらなく、俺はただ事務所のソファーでカリギュラとだらだらしているだけだ。
「わははは! このアニメ、面白いな!」
カリギュラはテレビを見て爆笑している。呑気なやつだ。
と、そんなことを思っていたときに事務所のチャイムが鳴った。
仕事を欲していたときに、まさに仕事が舞い込んだのかと思い、俺はドアに向かう。
しかし、ドアの前で待っていたのは──。
「やあ、阿賀野篤さんですね?」
憲兵の腕章を付けた、陸軍の軍人だった。
30代前後のひょろりとした男性で、階級章は大尉。
来たのはひとりだけで、部下などの姿は見えない。
軍服のネームプレートには石川とある。
そして腰のホルスターには日本陸軍正式採用のSFP9自動拳銃が突っ込んであった。
「憲兵が何の御用で?」
俺はちょっと警戒してそう尋ねる。
「少しお話をよろしいですか?」
「……どうぞ」
熊本ではほぼ機能していない警察業務を担う憲兵とはいえ、憲兵が権力を持っていないわけではない。
むしろ軍政下の熊本では憲兵はかなりの権限を有している。
それ故に敵に回すと面倒くさいので、俺は下手に出ておくことにした。
俺は憲兵を事務所の応接間に通し、テレビを消す。
「ああ! 俺様が見ていたのだぞ!」
カリギュラが不満の声を上げるのを無視して、俺と石川はソファーに腰掛けた。
「で、話って?」
「あなた方の噂は軍政局でもよく聞きました。ちょっと個性的な便利屋が活動している、と」
「個性的、ね」
いい意味やら悪い意味やら分からないが、石川はにこにこと笑っている。
「ええ。暴力団の事務所を爆破したり、歓楽街で銃を乱射したりと精力的に活動されているようで」
「おいおい。どれも正当防衛だぜ。憲兵さんに怒られるようなことはしてない」
「そうですね。あなた方が暴力を振るった相手は悪魔とつるんだ犯罪組織か、深刻な犯罪を犯していた非登録悪魔です。我々がとやかく言うことではありません」
「なら、何の件でここに来たんだ?」
俺は疑問に思ってそう尋ねる。
「私が心配しているのは、これからのことです。あなた方の仕事がこれからも自衛の範囲に収まるのか。それとも……」
そこで口元では笑みを浮かべたまま、視線は警戒の色を見せる石川。
カリギュラはその様子を見て実に不満そうにする。
「要は貴様は俺様たちに釘を刺しに来たというわけか?」
「ええ。まずは忠告を。あなた方は暴力団をひとつ壊滅させるほどの力をお持ちだ。その暴力が国の統制下にないのは非常に危うい」
「ふうん」
まあ、確かに俺たちは最終戦争に備えるアメリカ人みたいに山ほどの銃と爆薬を持っている不死身の男と大悪魔だ。
憲兵にとってはいつ爆発するか分からない核地雷みたいなものだろう。
気になる気持ちは分かる。
「じゃあ、これで用事は済んだな。帰った、帰った。俺様はアニメの続きを見るんだ」
「おっと。待ってください。それから仕事を依頼しに来たのです」
「それを早く言え! 稼げる仕事か?」
カリギュラは石川の話にそう尋ねる。
「先にあなた方が解決した女夢魔による誘拐殺人事件ですが、その再調査を依頼したいのです。我々はこの事件の背景に、もっと大きな事件が隠れているのではないかと思っています」
「ふむ。犯罪組織とかか?」
「その通り。地獄から出てきたばかりの女夢魔がここまで巧妙に動けていたのは妙です。誰かが女夢魔に犠牲者たちを紹介し、そして隠蔽手段を教えた。その誰かを突き止めていただきたいのです」
石川はそう俺たちに依頼した。
「分かった。報酬だが……」
「軍政局もいかんせん予算面で苦しいもので着手金に20万、報酬金に50万でどうでしょうか? 経費などはこちらで負担します」
「分かった。引き受けよう」
石川のその申し出に俺は頷いて返し、書類を準備しに向かった。
契約のサインが行われ、石川から着手金20万が支払われる。
「それでは無事に黒幕が見つかることを祈っています」
石川はそう言って頭を下げると事務所を出て行った。
「久しぶりに稼げる仕事だな、阿賀野!」
「ああ。万札の香りが香ばしいぜ」
俺たちは封筒から覗く20万の札束を眺めてうっとりする。
「さて、それじゃあ早速仕事にとりかかろう。誰が女夢魔に入れ知恵をしたか、だ」
「おう!」
俺たちは女夢魔事件の調査のために動き出す。
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