Case.86 住宅地のマヨヒガ
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──Case.86 住宅地のマヨヒガ
花子が口にした迷い家という言葉。
「迷い家ってのは東北の方にある伝承だったっけ? 茶碗を持って帰ると裕福になるとか言う……」
「俺様は聞いたことないな~」
迷い家と書いてマヨイガと読む。
東北や関東に伝わる伝承。
文字通り、山の中で迷い込むようにして到達するような場所であり、そこを訪れると裕福になったり、ならなかったりする話だ。
しかし、伝承があるのは東北や関東であり九州じゃない。
それに迷い家があるのは山の中だ。
花子がいた廃校付近は都市部であり、山の中には程遠い。
「は、はい。私の家は迷い家にあるんです。だから、家に帰るのは難しいんです……」
「俺様は迷い家はよく知らないが、最近はこういう地図アプリという便利なものがあるんだぞ。それで分からないのか?」
カリギュラはそう言って地図アプリを開き、熊本の地図を表示する。
しかし、それを見た花子は首を横に振る。
「地図には表示されない場所にあるんです。この地上とは異なる場所にあって……」
「確かに迷い家っていうぐらいだから、地図アプリでは検索できないだろうな」
迷い家が地図アプリに表示されて、レビューが付いていたら笑うしかない。
それだけ神秘的で、未知の場所なのだ。
「お困りのようだね、阿賀野さん」
「ああ、ミント。お前、迷い家への帰り方って分かるか?」
ミントがそこで声を掛けてくるのに俺たちは困り果ててそう尋ねる。
「私は知らないが1階にいる猫又は知っているよ。彼女に聞いてみるといい。案内してくれるかもしれない」
「おお。ありがとう、ミント」
ここで手がかりがひとつ。
俺たちは裏庭から屋敷に入り、そこから猫又のいる部屋を目指す。
「おーい。猫又、ちょっといいか?」
「にゃんだい?」
「お前、迷い家への行き方を知っているって聞いたんだが、案内してくれないか?」
「ほうほう。迷い家かい?」
猫又は俺が頼むとにゃにゃっと笑うように鳴いた。
「知っているけど、ただでは教えられないね。報酬を貰わないとにゃあ?」
クソ。こいつも可愛い猫の姿だけど一応は悪魔なんだよな。
「分かった。報酬は何が欲しい?」
「これを買ってきておくれ」
「これって……」
猫用の液状のおやつだ。とても有名なやつ。
「あたしはお金は持ってないし、猫がこの手のものを扱っている店に入ろうとすると締め出されるからね。代わりに買ってきてほしいにゃあ」
「猫又もこれ、食べるんだな」
「病みつきになる美味さだからね~」
猫又も味覚は猫と同じなのかと俺は妙に感心した。
「分かった。じゃあ、俺はペットショップに行って買ってくるから、カリギュラはここで花子と待ってろ」
「合点」
そして、俺は猫のおやつを買いにペットショップに向かった。
* * * *
それから俺はたっぷりの猫用おやつを買ってきた。
チキンとかビーフとかマグロとか思ったよりフレーバーがいろいろあったので、とりあえず手あたり次第だ。
「おお! 待ってたよ!」
そう言って早速おやつの袋を器用に開けて中身を貪る猫又。
「俺たちは約束を果たしたぞ。次はお前の番だ」
「分かっているよ。ついておいで」
猫又は着物を脱ぎ、ただの猫の姿になる。尻尾はふたつに分かれているが。
それはさておき、それから猫又は猫屋敷の外に出て俺たちを先導していった。
「お前、この街には詳しいのか?」
「それなりにはね。けど、地獄戦争のあとであたしは猫又になったから、詳しいのは地獄戦争のあとのこの街についてだね」
「そうか」
「それにあたしらには猫たちの情報網もあるしね。この前は吸血鬼が誘拐されたってニュースを聞いたよ」
「マジか」
どうやら猫というのは高度な情報網を持っているらしい。
「さて、ここからが迷い家に行くための重要なステップだよ」
猫又はそう言い、一見して民家が立ち並ぶだけの通りを見渡す。
「はぐれないようにあたしについておいで」
「ああ。了解だ」
俺たちは猫又のあとをぴったりとついていく。
路地で曲がり、路地裏にある鳥居をくぐり、何度も何度もぐるぐる回るみたいに道を回り続けること20分。
まるで迷路を移動しているような気分になってきたときだ。
「ああっ!」
不意に光景が変わった。
広い和風の邸宅が広がる敷地が見え、花子が目を輝かせる。
その邸宅はまるで蜃気楼みたいに突然現れたかのように感じられた。
「あれがお前の家か?」
「はい! あそこです!」
花子は喜び勇んで家に向かって駆けていく。
そしてインターホンを押すと、すぐに邸宅の中からゴーストの女性が出てきた。
白いワンピースに黒髪、目はちょっと怖いホラー映画に出てきそうな女性である。
「花子! やっと戻ってきたのね!」
「ごめんなさい、お母さん。タマを探していたら迷子になって……」
「無事に帰ってきたのだからいいのよ」
花子を抱き締めるゴーストの女性。
「あの人たちは?」
「私がここに帰ることを助けてくれたの」
「それはお礼をしなければいけないね」
ゴーストの女性はそう言ってにこりと笑うが、その笑みが微妙に怖い。
「お名前は?」
「こ、こういうものです」
俺はそう言って名刺を差し出した。
ここでいきなりジャンプスケアはないだろうが、何か怖い。
「便利屋さん? 娘を連れて帰ってきてくれたのだから、お礼をしないとね」
そう言うと花子の母は一度邸宅に引っ込み、それから封筒を持ってきた。
「見合ったお礼になればいいけれど」
「十分です。また何かあれば、我々にご依頼ください」
しかし、疑問が残る。
「7日間も娘さんは行方不明だったわけですけど、気にならなかったので?」
「そんなことは。とても心配したわ。だけど、迷い家は一度出たら戻るのが大変だから探しに出られなくて……」
「それは……確かにですね」
ここに来るまで俺たちは相当苦労した。
毎度あんな苦労をするとなると、冗談抜きで大変だ。
「けど、花子の兄が探しには出ていたのよ。だけれど見つからなくて……」
「お兄ちゃんが?」
「ええ。無事に戻ったって知らせてあげなさい」
「うん」
そう言い花子は母親とともに邸宅の中に消えた。
「さて、事件解決だな」
「ああ。無事に迷い幽霊を元の場所に戻した」
しかし、俺には聞かなければいけないことがある。
「猫又。お前、猫のネットワークがあるって言ったよな? そのネットワークにサンドマンやラプラスって言葉は引っかかっていないか?」
俺は猫又にそう尋ねたのだった。
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