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Case.85 猫の道は猫に

……………………


 ──Case.85 猫の道は猫に



 花子と名乗るゴーストの少女。


「……私、最近地獄からこっちに来て……」


 その花子が今どうしてここにいるかの事情を話し始める。


「最初は家族と一緒だったんです。お父さん、お母さん、お兄ちゃん、そしてタマと。だけど……」


「だけど?」


「私がタマを探して家を出たら、道が分からなくなって帰れなくなっちゃった……」


 そう言ってますます俯く花子。


「なあなあ、そのタマってのは何だ?」


「……ペットの猫。こっちに来てからお父さんが拾ってきたの」


「ふうん。ゴーストも猫を飼うんだな」


 カリギュラが花子の言葉に感心したようにそう言う。

 悪魔がペットを飼うというのは、確かに珍しい。

 地球の文化が広がったのを感じる。


「分かった。俺たちの質問に答えてくれたら、お前の家族を探そう」


「タマも……?」


「ああ。タマもだ」


 またしても猫探しだが、今回はサンドマンの手がかりが手に入るかもしれないチャンスである。

 花子から報酬を貰わずともサンドマンの情報は軍政局が高く買ってくれるだろう。


「何日前からここにいる?」


「7日くらい……。タマを探しながらうろうろとしていたけれど……」


 人間が7日間こんな場所で過ごすのは無理だろうが、花子はゴーストだ。

 食事は基本的に必要ないし、睡眠なども必要としない。

 しかし、7日間も娘が行方不明なのに親御さんは探さなかったのか?

 それだけが疑問である。


「では、聞くがこの学校に妙な連中はいなかったか?」


「妙な……?」


「そうだ。銃で武装したり、明らかに学校の関係者じゃなかったりする人間か悪魔は見なかったか?」


 ここは廃墟だ。

 近づくのは廃校で肝試しをするような人間か、廃墟と化した学校の再建を考えている人間か、あるいは──サンドマンだ。


「……変な悪魔はいました。私がここに最初にタマを探しに来たときに、体育館の前に車が止まっていて、そこに銃を持った悪魔が何名か……」


「間違いないか? 悪魔が何名いたか思い出せないか?」


「暗かったので詳しくは……。すみません……」


「……そうか」


 サンドマンは数名の悪魔である可能性がある。

 本当にその数名の悪魔がサンドマンかどうかは分からないのであくまで可能性だ。

 軍政局に売れそうな情報じゃないな。


「お前、その連中が出ていくのは見たか?」


「は、はい。その日のうちに車に乗ってどこかに行きました」


「つまり、誘拐を実行したその日に拠点から逃げたのか……」


 カリギュラはそう言って考え込みながら、俺の方を見る。


「なあ、阿賀野。これは連中が用心深いのか、それとも……」


「……どこから情報が漏れていた、か」


 サンドマンと思われる悪魔たちは憲兵が踏み込むより先に逃げていた。

 憲兵はメアリーの安全が確保されるまで動かなかったので、憲兵の動きを察知したにしては早すぎる動きだ。


 となると、情報が漏れていた可能性がある。


 しかし、どこから?

 ここがサンドマンの拠点だったことを憲兵や俺たちが知ったと把握している人間は少ないだろうに。


「あの……」


 俺たちが考え込んでいると、花子が不安そうに声を掛けてくる。


「すまん、すまん。情報に感謝する。じゃあ、タマを探そう」


「はい!」


 次は猫探しだ。

 約束した以上、大した情報が得られなくともやらないとな。


「しかし、どうやって猫を探すんだ? 俺様、ここからは猫の臭いを感じないぞ」


「俺に考えがある。知り合いを頼ろう」


「知り合い~?」


「いるだろ。猫の専門家が」


 俺たちにはちょっとした知り合いがいるのだ。

 そう、まさに猫の専門家が。



 * * * *



 そうしてやってきたのは、新興住宅地の一角にある古びた建物。


「ああ。なるほどな。ミントを頼るのか!」


「そう、猫の王様であるミントなら何か情報を持っているだろう?」


 俺たちが来たのは猫の王になったというケットシー──ミントがいる猫屋敷だ。

 蛇の道は蛇に、猫の道は猫に、だ。


「お邪魔しまーす」


 俺たちは猫屋敷の門を潜り、玄関を潜る。


「ミント~! 手を貸してくれ~!」


 カリギュラがそう言うと屋敷の奥から猫又が出てきた。

 以前にもいた着物姿のキジトラの猫又だ。


「何だ、あんたたちか。ミント様は上にいるよ」


「おう、助かる」


 顔を洗いながら猫又はそう言い、俺たちは上階に上がる。

 上階には猫座敷が存在し、その主人の席にミントはいた。


「やあ、阿賀野さん、カリギュラ様。どうしたのだい?」


「探している猫がいるんだ。手を貸してくれないか?」


「ふむ。また猫探しを?」


「ああ。タマという猫をこの子が探している」


 そう言って俺は花子をミントに紹介する。


「花子。タマとはどんな猫だい?」


「白い毛に黒いぶちがある子で、これぐらいの大きさの……」


「ああ。その子ならばここにいるよ。ここで修行をしていたんだ」


「修行……?」


 ミントの言葉に花子が首を傾げる。


「そう、猫又になる修行だ。ついてきなさい」


 そう言ってミントは俺たちを連れて裏庭に向かう。

 すると、裏庭から音楽が聞こえてきた。

 穏やかな三味線の音色だ。


「おお? これは……」


 裏庭では猫が三味線を弾き、その音色に合わせて猫たちが踊っていた。


「タマ!」


 その中に黒いぶちのある猫がいた。

 その猫を見て花子が名前を呼ぶと、黒ぶちの猫はとととっと花子の元へ。


「にゃあ」


「まだ修行中だから喋れないけれど、いずれは立派な猫又になるだろう。そうすれば君と喋れるようになるよ」


 タマが可愛らしく鳴くのをミントがそう説明する。


「タマを連れては帰れないの?」


「修行中だからね。もう少し待ってあげておくれ」


「そうですか……」


 花子は寂しそうにタマの頭を撫でてやる。

 タマは気持ちよさそうにぐるぐると喉を鳴らしていた。


「なあ、こういうことが始まったのって地獄戦争のあとからだよな……?」


「さあ? 俺様は猫の神様じゃないから知らん」


 う~ん。俺は猫のことをふわふわで可愛いハッピーな生き物だと思っておきたいのだが、どうにも謎が多い。


「まあ、ともあれタマは見つかった。次は君の家族を探そう、花子」


「……はい。またね、タマ」


 猫は見つかっても花子は迷子のままだ。

 次は花子の家族を探す必要がある。


「しかし、熊本がいくら混沌としていると言っても家に帰れないほど迷うだなんてな」


「私の家は特別な場所にあって……普通の手段では辿り着けないんです……」


「特別な場所~?」


 カリギュラが花子の言葉に怪訝そうにする。


「はい。迷い家という場所に私の家はあるんです」


 そんなカリギュラの疑問に花子はそう言った。


……………………

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歌川国芳
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