Case.83 犯人の行方は……
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──Case.83 犯人の行方は……
俺たちはまずメアリーを自宅に連れ帰った。
「メアリー!」
メアリーの自宅には彼女の無事を聞かされた家族のルシアンとオフィーリアだけではなく、エリザベスとロザリアという友達も来ていた。
「大丈夫か? 酷いことをされなかったか?」
「私は大丈夫、ルシアン兄さん。ちょっと怖かったけど……」
ルシアンが妹の心配をし、メアリーはようやく家族に会えて落ち着いた様子だ。
「阿賀野さん。今回も助かりました」
「石川大尉。感謝の言葉もいいが、報酬の方も貰うぞ」
「ええ。もちろんです。あとでお支払いします」
石川は、まあ、ちゃんと報酬を払ってくれるだろう。
だが、問題は別にある。
「ところで、石川大尉。サンドマンの方はどうだ?」
「人質確保の知らせを受けてから、問題の廃校に踏み込みましたがもぬけの殻でした」
「そうか……。またしてもやつには逃げられたな……」
俺はサンドマンが拠点としている廃校の住所を石川に教えておいた。
人質となっているメアリーを確保したら憲兵が踏み込むことになっていたのだが、憲兵が踏み込んだときにはすでにサンドマンは行方をくらましていた。
「この街ではあまりに多くの犯罪が起きますが、サンドマンのようなプロの犯罪者が起こす犯罪は厄介です」
「俺としてもそれには同意見だし、すぐにでもサンドマンを探しに行きたいが、あいにく先約が入っている」
まさか今の毎日がホリデイでスケジュールは真っ白なのが常の俺が『先約がある』と言って仕事を断ることになるとは、俺自身も信じられない感じだが、事実先約はある。
「エリザベスの護衛の仕事があと5日残っている。悪いがサンドマン探しはそのあとでいいか?」
「ええ。分かりました。5日後にお願いします。我々は引き続き捜査を進めておきます」
「ああ」
エリザベスの護衛の仕事は契約した以上、やり遂げなければならない。
途中で依頼を放棄するのは便利屋としての信頼に関わるからな。
まあ、流石にもう誘拐だの、スパイだのの騒ぎはないと思うが……。
「阿賀野様!」
そんな話をしていたら、エリザベスがやってきた。
友達が無事に戻ってきて安堵した様子だ。
「メアリーを助けてくれてありがとう! あなたは流石だわ!」
「お前の護衛の仕事がえらい展開になっちまったな?」
「私もまさかこんなことになるとは思わなかったわ……」
本来はエリザベスを護衛する仕事だったのだ。
しかも、そのエリザベスはでっち上げの脅迫で仕事を依頼している。
本来ならばほとんど何の脅威もないはずの仕事が、こうなったのだ。
「あと5日、お前に付き合わないとな、お嬢様」
「ええ! けど、今回の件で阿賀野様にますます惚れこんじゃったわ。ねえ、阿賀野様、私の専属の護衛にならない? 報酬は弾むわ」
そう言って熱っぽい視線を俺に向けてくるエリザベス。
エリザベスの専属の護衛になれば、安定した高収入が約束されるのだろうが……。
「いや。それは断る。俺たちはお前の専属の護衛にはならない」
頭ドピンクの吸血鬼の護衛をずっとやるというのは、正直ぞっとする。
俺は対魅了訓練を受けているが、毎回ちゃんと魅了に対して抵抗できるという自信はないのだ。
条件が揃えば魅了は恐ろしい力を発揮する。
通商代表部に尋問されたファルコンがぼろぼろになっていたのは、決して暴力だけが理由ではない。
やつらは魅了も使ったと言っていた。
魅了は諜報機関の工作員であったファルコンが自白してしまうほどのポテンシャルを秘めたものなのだ。
俺はあくまで人間の女性とお付き合いしたいのであって、トラブルまみれの吸血鬼の女とはうっかりでも付き合いたくはない。
「契約したからと5日間だけは付き合ってやるが、次からはでっち上げの脅迫なんぞを理由に護衛を依頼してきたら覚悟してもらうぞ」
「も、もちろん」
俺が脅すように言うとエリザベスはこくこくと頷いた。
「じゃあ、これからは何も起こらないことを祈ろう。今日の予定は?」
「メアリーが無事に戻って来たから、そのお祝いよ!」
「そのお祝いはまさか歓楽街でやるわけじゃないよな?」
「流石に昨日の今日で危ないところにはいかないわ。メアリーの家でよ」
「それならいい」
こうして俺たちはエリザベスの護衛を継続した。
まあ、5日間に何か起きたかと言われれば答えはノーで、俺とカリギュラは実に楽な護衛の仕事をこなした。
メアリーの無事の帰還を祝うパーティ、エリザベスの相変わらずの金持ちらしいショッピング、それから若干の熊本観光。
それらに付き合って仕事は終わった。
それで得た報酬は前金70万に加えて成功報酬70万というのだから素晴らしい。
またそれとは別に憲兵隊から誘拐事件解決の100万が支払われている。
これでしばらく家計は安泰だぜ。
「じゃあね、便利屋さん! また何かあればお願いするわ!」
「ああ。何もないことを祈るよ」
エリザベスと別れ、俺とカリギュラは熊本の繁華街に繰り出した。
「さあ、今日はパーッと飲むぞー! 今までは護衛で酒抜きだったからな!」
「おーっ!」
護衛の仕事中に酔っ払うわけにはいかなかったので、この7日間は酒抜きだった。
その仕事も終わってようやく酒が飲める!
俺たちはいつもの焼き肉屋に入り、早速生ビールのジョッキで乾杯して飲み始める。
「しかし、次はサンドマンの捜索か、阿賀野?」
「ああ。サンドマンを探す。と言っても、手がかりはないが……」
俺たちが掴んでいた廃校の情報は空振りに終わった。
今のところ、サンドマンに関する手がかりはない。
「なら、俺様たちの手には余るんじゃないのか? これまで一度も尻尾を掴ませなかったプロの犯罪者をふたりだけで追うなんて」
「だけど、見つけたらきっと軍政局から大金が貰えるぞ」
「おおーっ! それは魅力的だな!」
「まあ、見つけられたらの話だけどな」
今のままでは捕らぬ狸の皮算用だ。
「とりあえず今度暇を見て廃校の様子を調べて、それから──」
「今回の事件の雇い主に話を聞いてみるか?」
「できればそうしたいが、やつらは情報軍に拘束されたからな。難しいかもしれない」
情報軍に拘束されている今回サンドマンを雇った連中から話が聞ければ、サンドマンについての新しい情報も出てくるかもしれない。
だが、情報軍が今はただの民間人に過ぎない俺にやつらと話す機会を与えてくれるだろうか?
難しいかもしれない。
「まあ、今晩はサンドマンやら何やらは考えずに、飲み食いしようぜ。なんたって240万も金が入ったんだからな」
「わははは! そうだな!」
それから俺とカリギュラは散々飲み食いし、ほろ酔い気分で帰宅したのだった。
サンドマン──。
熊本に潜む誘拐請負人は未だ捕まっていない。
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