Case.81 通商代表部
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──Case.81 通商代表部
メアリーの姉であるオフィーリアの案内で、俺たちは地獄の事実上の大使館である通商代表部のオフィスに向かっている。
通商代表部は熊本市内に位置する熊本城ゲートのそばにあった。
「俺様も知らないうちに、こんなものが出来たんだな」
「ああ。地獄側の大使館とはね。変な感じだ」
俺たちは最近建てられただろう立派な建物を見上げて、そう言葉を交わす。
地獄の大使館というとやっぱり変な感じである。
一方的に地球に攻撃を仕掛けてきた地獄が、いつの間にか大使館を日本に設置しているというのは、どうにも。
ただ日本と地獄の間でこうした外交チャンネルが存在することは、歓迎すべきなのかもしれないが……。
「こっちです」
俺たちはオフィーリアの案内で通商代表部の建物の中へ。
民間軍事会社のコントラクターか地獄の兵士か分からないが、武装したリザードマンが建物を警備しており、俺たちは通商代表部の中を進む。
そして俺たちはある部屋までやってきた。
そこではノートパソコンを前にした女夢魔がおり、俺たちが来ると警戒するような視線を向けてきた。
「ラグナヴァルトさんに面会をお願いしたいのですが……」
「アポイントメントはお持ちですか?」
「い、いいえ。ただ緊急の要件なんです。妹の命がかかっていて……」
「少しお待ちを」
どうやらこの女夢魔はラグナヴァルトという悪魔の秘書らしい。
内線電話で連絡を取り、少しやり取りすると女夢魔は再び俺たちの方を見た。
「お会いになるそうです」
「助かります。では」
それから俺たちはオフィーリアとともにラグナヴァルトの執務室へ。
「オフィーリア君。私に何の用事だね?」
そこにいたのは老齢のワーウルフだった。
白みがかった体毛をした大柄な人狼で、老眼鏡の向こうから俺たちの方を訝しむように見てくる。
「ラグナヴァルトさん。その、妹が誘拐されて、犯人がファルコンを引き渡せと言ってきているんです……」
「君の妹が誘拐されて、要求がファルコンの引き渡し……?」
オフィーリアが言うとラグナヴァルトは頭痛を覚えたように頭を押さえる。
「その前に、そこの人間は憲兵かね?」
「いいえ。便利屋さん、だそうです。事件解決に協力してくれていると……」
ここに来る途中で俺たちはオフィーリアに名刺を渡している。
すでに俺たちが民間人なのは確認済みだ。
「便利屋……? ほう、もしや君は竜殺しの人間ではないか?」
「だとしたら?」
「君の噂はいろいろと聞いている。熊本の暗黒街が恐れる不死身の便利屋がいると。そしてその便利屋の君がかつて情報軍に所属していたこともね」
「暗黒街がビビっているかは知らんが、確かに俺は元情報軍だ」
ラグナヴァルトの言葉に俺はそう返す。
「あの、ラグナヴァルトさん。ファルコンは……」
「彼はこの通商代表部の建物に侵入し、破壊工作を画策していた。それをあっさりと何の罰もなく引き渡せと?」
「で、ですが……」
「君は少し感情的になっているようだ、オフィーリア。外で頭を冷やしてきたまえ」
暗に席を外せとラグナヴァルトはオフィーリアに言った。
やつは俺たちと話がしたいようだ。
オフィーリアは上司の言葉にすごすごと退室し、部屋には俺とカリギュラ、そしてラグナヴァルトだけが残る。
「で、俺様たちに何の話だ?」
「我々の尋問に対してファルコンは中国籍の人間で、中国国家安全部なる諜報機関の雇われだと自白した。しかし、解せないのはただの末端の工作員に過ぎないだろうファルコンをどうして取り戻そうとするのかだ」
この手の作戦で捕まった末端の人間は大抵は見捨てられるとラグナヴァルトは言う。
「そうだな。大抵末端は使い捨てだ。お前たちはどう考えている?」
「二重の意味でのスキャンダルになるからだと見ている。ひとつは中国の工作員が日本国内でスパイ活動に従事していたこと。もうひとつは地獄に対してもスパイ行為を試みたこと。彼らは二重の裏切りを働いている」
ラグナヴァルトはそう言って続ける。
「我々はある程度ファルコンが回復したら、このことを公にするつもりだったが、どうやら向こうはそれが気に入らないらしい。我々が公開する前に手を打って来た」
「ほうほう。それは愉快な話だが、どうするつもりだ?」
「困った話になったと思っているところだ。公開すれば同胞の命が危ないが、このままスパイに対してお咎めなしというのは気に入らない」
ラグナヴァルトはそう言い、胸の前で腕を組む。
「俺たちはお前らの事情には興味ないんだが、お前は俺たちにやってほしいことがあるみたいだな?」
「話が早くて助かる。私が求めているのは落としどころだ。できれば我々が利益を得られるような落としどころがほしい」
「……考えてみよう」
ラグナヴァルトの言わんとすることは理解できた。
俺たちにはやつの問題を解決する伝手がある。
俺たちはラグナヴァルトの執務室を出てオフィーリアに合流。
オフィーリアは俺が出てくると、慌てた様子で俺たちの元に来る。
「ど、どうでしたか?」
「解決の手は打てそうだ。俺たちの伝手に頼ってみる。あまり頼りたくない伝手ではあるのだが……」
これ以上のスパイ行為に対する抑止がほしい地獄側とスパイ行為が発覚することを避けたい中国側。
ファルコンが中国側に引き渡されてそのままというのは地獄が納得しない。
しかし、地獄側がファルコンを憲兵に突き出したり、メディアにスパイ行為を公開したりすれば中国側が報復にメアリーを殺害する恐れがある。
落としどころを手に入れるには、俺のコネを活用する必要があった。
「カリギュラ。昔なじみに会いに行くぞ」
「誰だ?」
「お前も知っている人間だよ」
俺はそう言い、通商代表部の建物を出た。
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