Case.80 予想外の要求
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──Case.80 予想外の要求
俺たちはかつて熊本県警本部があった場所にある憲兵隊司令部にやって来た。
「ああ。阿賀野さん。そちらの方で進展は?」
憲兵隊司令部では石川大尉が俺たちを出迎えた。
「少しだけ。そっちは? 犯人からの要求は?」
「まだそのような連絡はありません。これからメアリーさんが家族と暮らしている家に向かいますが、どうします?」
「一緒に行こう。何かしら手伝えるかもしれん」
俺はそう言い、石川とともにメアリーの家族がいる家に向かう。
メアリーの暮らす家は地獄戦争ののちに整備された新興住宅地であった。
空高くそびえる高層マンションがいくつか立ち並ぶ場所である。
以前、猫のミントを探しに行った住宅地が企業の人間向きの住宅地だとすれば、こっちは悪魔向けの住宅地だ。
それも金を持った悪魔向けの住宅地だ。
俺たちはそんなマンションのひとつに入ると最上階のペントハウスへ。
「大尉殿」
ペントハウスにはすでに数名の憲兵がいて、日本陸軍曹長の階級章を付けた女性下士官が俺たちの方を見る。
それからメアリーの家族だろう吸血鬼の男女もいた。
その吸血鬼の男女は明らかに動揺した様子であり、おろおろとしている。
「曹長。状況は?」
「犯人側からの要求は依然としてありません。家族から聴取をしましたが、狙われる理由に心当たりはないと」
「そうか……」
石川は曹長の報告を聞き、僅かに唸る。
要求がないというのは最悪の場合、殺害が目的である可能性もあるのだ。
「家族から話を聞いてもいいか?」
「……失礼ですが、そちらは?」
「便利屋だ。軍政局から捜査協力の依頼を受けている」
「はあ」
曹長は俺の言葉を訝しげに思いながらも、メアリーの家族を俺たちに紹介した。
「こちらはメアリーさんのご兄弟のルシアンさんとオフィーリアさんです」
「どうも。事件解決に協力しているものです」
曹長が家族を紹介し、俺はそう挨拶。
金髪をウルフヘアにした長身の男がルシアンで、同じく金髪を長く背中に流しているのがオフィーリアのようだ。
「ああ。妹を探してくださっているのですね」
ルシアンがそう言い、俺の方を見る。
「ええ。そうです。その上で協力してほしいことがあります。まずご職業についてお伺いしても?」
「私は大井医療技研でアドバイザーを。魔獣や悪魔の研究に対する助言をする職です」
「なるほど。オフィーリアさんは?」
俺は今度はオフィーリアの方を見てそう尋ねた。
「わ、私は……その……通商代表部の職員として地獄の国のひとり王マモン様と地球を繋ぐのが仕事で……」
「つまりは外交官?」
「そ、そうなります」
俺の問いにこくこくと小さく頷くオフィーリアだが、どうにも不審なところがある。
確かに肉親を誘拐されて動揺しているのだろうが、俺の問いに対する答えに何かを隠しているかのような反応があった。
そこでオフィーリアのスマートフォンがバイブした。
オフィーリアはスマートフォンの画面を見て、僅かに表情をこわばらせた。
「どうしました? 犯人側からの要求ですか?」
「そ、そのようです。今、家にいる憲兵を全員外に追い出してから交渉を始めるというメッセージが……。どうしましょう……」
「どうやら監視されているようですね……」
オフィーリアが狼狽えながら言うと、石川は渋い表情を浮かべる。
「石川大尉。お前たちは一度引き上げろ。俺たち便利屋は憲兵じゃないから、このまま捜査を続行する。犯人も憲兵の制服を着ている連中がで行けいけば、安心するだろう」
「……分かりました。お任せします」
俺は石川にそう言い、石川たち憲兵は一度ペントハウスから退室した。
「さて、犯人からの要求の続きは来ましたか?」
「は、はい。今、新しいメッセージが……。『妹はファルコンと交換だ』と……」
「ファルコン?」
俺たちはよく分からない犯人側の要求に首を傾げる。
「ファルコンと言うのに心当たりは?」
「私は全く。君はどうだ、オフィーリア?」
俺が尋ねるとルシアンは首を横に振り、オフィーリアの方を見る。
「わ、私も何のことか……」
オフィーリアがそう言う中でカリギュラが鼻を鳴らした。
「お前から嘘の臭いがする。何かを隠そうとしているような臭いだ。お前、実はファルコンというものについて知っているな? 隠さず話せ!」
はったりか、それとも確信があったのかは分からないがカリギュラはオフィーリアに対してそう言い放つ。
その言葉に明らかにオフィーリアが動揺するのが分かった。
「オフィーリア。何を隠しているんだ? ファルコンについてか? それとも君の職業についてか?」
俺はそうオフィーリアに問いを重ね、彼女の様子を慎重に観察する。
「……ファルコンは地獄側に拘束された地球のスパイの暗号名です……。それから、私は、その、通商代表部の外交官として地球の情報を……マモン様に報告する仕事があって……」
「はあ。つまり、お前もまたスパイというわけか」
「そうなります……。け、けど、私の仕事には違法性はなくて……!」
俺が溜め息交じりに言うとオフィーリアが弁解するように言葉を続ける。
なんてこった。
身代金目的の誘拐かと思ったが、スパイの奪還のためだったとは。
こうなると誘拐をサンドマンに依頼したのは、地球の諜報機関か?
「オフィーリア。そのファルコンは今どこに?」
「それは私も……。ファルコンというスパイが拘束されたという情報は入ってきていたのですが、そこから先のことまでは……」
「じゃあ、知ってるのは誰だ?」
「私の上司なら知っているかもしれませんが、教えてくれるかどうかは……」
そもそも引き渡しに応じるかどうかも分からないというオフィーリア。
「そんな! 家族の命がかかっているんだぞ、オフィーリア! 君の上司に協力するように言ってくれ!」
「そ、それは頼んでみるつもりだけれど……。絶対とは約束はできない……」
ルシアンがそう言い、オフィーリアは困り切った表情を浮かべる。
オフィーリアは地獄の諜報員としてはそこまで立場が上ではないのだろう。
捕虜をどうこうする決定権は彼女にはないようだ。
「とりあえず、その上司とやらに会おう。上司の居場所は?」
「え、えっと、通商代表部のオフィスです。案内します」
こうして誘拐事件は一層の混迷を深めていった。
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