Case.73 エスコートサービス
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──Case.73 エスコートサービス
俺たちはエリザベスの護衛という仕事を引き受けた。
「で、早速今日からか?」
「もちろん。いつ黒獄が報復しにくるか分からないからね」
俺が尋ねると、にこにこと笑ってそう言うエリザベス。
「じゃあ、1週間は安全な場所に籠って──」
「そ、それは無理なの。私もいろいろと用事があるから」
護衛対象を完全に守りたければセーフハウスに匿っておくのが一番だ。
しかし、それはできないとエリザベスは言う。
「しかし、動き回られると2名の護衛要員じゃ、守り切れないかもしれないぞ」
報復の手段が単に黒獄がエリザベスを直接ぶん殴りに来るだけならば、俺とカリギュラだけでも防げるだろう。
しかし、狙撃や爆殺、あるいはドライバイ・シューティングを仕掛けられるとなると、俺とカリギュラだけでは対抗できない可能性がある。
俺はそのリスクをエリザベスに説明した。
「それなら大丈夫よ。黒獄も流石にそこまではしないわ」
「そうなのか? しかし、リスクを低く見積もるのはあまり勧めないが」
「大丈夫、大丈夫。私が言うのだから間違いないわ」
「ふむ」
脅迫メッセージが届いている以上、警戒はすべきだと思うのだがな。
しかも、メッセージを送ってきたのは犯罪組織のボスの息子だし。
「では、早速だけど出かける用事があるから一緒に来てくださる、阿賀野様?」
「分かった。だが、危ない兆候が見えたらすぐにセーフハウスに向かうぞ」
「ええ。それでいいわ」
そんなわけで俺たちは外出するエリザベスを護衛して、事務所の外に。
「阿賀野様。今日はこの車を使ってください」
「おおっ! カッコいいSUVだ!」
カリギュラが目の前の光景に歓声を上げる。
エリザベスが事務所の前に止めていたのは、黒い塗装の大きなSUVだ。
しかもスーツを纏い白手袋をした運転手までついている。
こいつが金を持っているというのは、あながち嘘ではないようだ。
「よし。カリギュラは後部座席でエリザベスを。俺は助手席で周囲を見張る」
「待って、阿賀野様! できれば阿賀野様が後部座席に……」
「しかしな……」
車両に乗っているときに相手が仕掛けてきた場合、俺が助手席にいた方が何かとやりやすい。
万が一運転手が死んだ場合にも、俺は助手席にいた方がいいのだ。
カリギュラは未だに車の運転はできないしな。
「こ、この車は防弾ですし、きっと大丈夫だわ! ね?」
「ううむ。分かった。依頼主はお前だ」
「ありがとう、阿賀野様!」
そんなわけで俺たちは助手席にカリギュラが、後部座席に俺とエリザベスが乗った。
「で、どこに用事があるんだ?」
「繁華街にお買い物よ」
「……それは絶対に今やらなければいけないことなのか?」
「そ、そうよ。絶対にやらないといけないことなの!」
目を泳がせてそう言うエリザベス。
……どうにも怪しいな。
しかし、仕事として護衛を引き受けた以上、ここで帰るわけにはいかないので、俺たちはエリザベスの買い物に付き合うことに。
俺たちを乗せたSUVは熊本の繁華街に入る。
アーケード街で俺たちは車を降り、それから向かうのはファッション関係の店。
熊本の繁華街も一度は地獄戦争で壊滅的打撃を受けたものの、その後に地獄に興味を抱いた企業が進出したことで再興した。
同時に地獄からも進出してきた店舗が並んでおり、かつてとは大きくその姿を変貌させつつも賑わっている。
「ここよ、ここ!」
エリザベスはそう言い、アパレルショップに入っていった。
俺とカリギュラは周囲を見張りながら、続いて中に入る。
黒獄がゲヘナ・ファミリーの関係者だということを考えれば、どこで襲撃があってもおかしくない。
「これはこれは、エリザベスお嬢様」
エリザベスはVIPらしく、アパレルショップの店員が恭しく出迎える。
金持ちってのは間違いなさそうだ。
「阿賀野様、阿賀野様。どうです、これ」
エリザベスはヒールの高い厚底ブーツを履き、ゴシックファッションでまとめた姿を俺に見せていた。
「どうです、と言われてもな……。別にいいんじゃないか?」
「えへへ。似合うってことよね」
俺はエリザベスのファッションショーばかりに目を向けているわけにはいかんのだ。
このアパレルショップにはそこそこに人がいて、警戒しなければならないものが多いのである。
通り過ぎる人間がいきなり拳銃を取り出して発砲してこないとも限らない。
「もうっ! もっとこっちを見てちょうだい!」
「俺たちは護衛であって、デートの相手ではない」
俺は拗ねるエリザベスにそうはっきり言った。
「そ、それはそうなのですけれど……」
「なあなあ。お前の家って何やって儲けたんだ?」
また視線を泳がせるエリザベスにカリギュラはそう問う。
「うちの家はマモン様の臣下でして、昔から裕福だったのよ。それに加えて地球に進出してからは地球の企業とも取引しているの。地球の企業は地獄の財宝にも興味があるみたいだから」
「へえ~。強欲のマモンの臣下か~」
エリザベスが自慢げに言うとカリギュラは感嘆する。
「阿賀野、阿賀野。俺様たちも企業と取引しようぜ。何か地獄から持ってきて!」
「やだよ。というか、地獄からあれこれ持ち込むんじゃねえ。密輸だぞ」
事実上、地獄と地球の境界があいまいになってしまっているため、完全に取り締まることはできないが、熊本に足を踏み入れたら日本の法律が適用されることになっている。
だから、地獄の品も本来は税関を通過する必要があるのだ。
「それよりまだショッピングは続くのか?」
「ええ。これからもっと買うものがあるの!」
「はあ」
というわけで、俺たちの護衛の仕事は続く。
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