Case.70 仁義なき戦い
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──Case.70 仁義なき戦い
オルガンからの依頼──アビス・ファミリーのボスの息子とゲヘナ・ファミリーのボスの息子が決闘をするのを阻止すること。
もし、それに失敗すれば熊本の歓楽街で銃弾が飛び交う事態になる。
「……分かった。だが、それなりに報酬は貰うぞ?」
「分かっている。報酬は惜しまない」
「じゃあ、両方のボスの息子について情報をくれ」
「これだ。まずうちのボスの息子は名前はザルク」
そう言ってオルガンはひとりのオークの若者の写真を俺たちに渡す。
高級外車を背景に写真に写ったオークはいかにも遊んでますって感じの若者だった。
「こっちがゲヘナ・ファミリーのボスの息子である黒獄」
黒獄はオーガだ。黒檀のような黒い肌に白い入れ墨を入れ、頭には角が2本。
こっちもゴールドアクセサリーをじゃらじゃらつけて遊んでますって感じである。
「こいつらをさっさと見つけないといけないわけか」
俺はふたりの写真を前に唸る。
今のところ手がかりは何も──。
「……なあなあ、阿賀野。この件とデリンジャーの件、関係あるんじゃないか?」
「デリンジャーの件が?」
なぜここで盗まれた骨董品の拳銃の話が出るのかと俺は首を捻る。
「俺様、映画で見たんだ。殺し屋が大暴れする『ジョン・ウィック』って映画な。それで単発式の拳銃を使って距離を縮めながら撃ち合うシーンがあった」
「……確かにあったな、そんなシーン。けど、まさか……」
「あの不愛想な店主の店に来たオークが欲しがっていたのは、全く同じモデルの古い単発式拳銃だ。同じモデルってのはコレクションではなく、公平に決闘をやるためだったとも考えられないか?」
「クソ。お前の考えは筋が通っている。この事件はひとつの事件だ」
デリンジャー窃盗事件とこの決闘事件は関係している。
そう考えられるだけの条件が揃った。
「オルガン。ドルヴァスって構成員は知っているか?」
「知ってる。そいつがどうしたんだ?」
「こいつは恐らくだが、決闘に使うための銃を銃火器店から盗んだと思われる。こいつの足取りを追えば、決闘場所に辿り着けるかもしれない。こいつが乗っていた車のナンバーも控えてある」
「分かった。おい、誰かドルヴァスに連絡を取ってどこにいるか確かめろ!」
オルガンは素早く構成員たちに指示を下す。
スマートフォンで連絡を取っているようであり、電話が繋がったのかオルガンの部下のひとりがスマートフォンを持ってきた。
「おい、ドルヴァス。今どこにいる?」
それからオルガンはスマートフォンの向こうから聞こえてくる叫ぶような声を聞いていた。
その声が大きく俺たちにも『ザルクがやばい!』とか『殺し合いになる!』とかいう言葉がちらほら聞こえてきた。
「どうしてそれが分かっていて今まで連絡しなかったんだ? ……ザルクに口止めされていたから? 今、喋ってるなら最初から意味ないだろうが、このド阿呆!」
オルガンもスマートフォンに向けて怒鳴り立てる。
流石は犯罪組織の構成員と言う剣幕だ。
「場所は? 分かった。すぐに向かう。俺たちが着くまでザルクに早まったことはするなって言い聞かせて思いとどまらせろ」
オルガンはそう言って顔を上げた。
「見つけた。水道町にある教会の駐車場だ」
「すぐに向かおう。俺たちも回収したいものがある」
俺とオルガンたちはすぐに事務所を出て、水道町に位置する教会の駐車場に急いだ。
オルガンたちは黒いSUVで俺たちは軽トラで道路を駆け抜け、問題の教会前に。
「ザルク!」
オルガンと俺たちが駐車場に出ると、そこにはデリンジャーを握ったオークとオーガの姿があった。
オークの方がザルクで、オーガの方が黒獄で間違いなさそうだ。
さらにはその後ろでおろおろしているオークがふたり──こいつらがドルヴァスと仲間だろう──と、やたら美人な吸血鬼の女がひとり。
取り合うのも分かるような気がする黒髪のスレンダーな美女だ。
ちょっと病んだファッションをしているのが、メンタルを心配させられるが。
「何だよ、オルガン。邪魔すんじゃねえ」
ザルクはそう言い、オルガンを睨みつける。
「馬鹿なことをするな。親父さんに迷惑が掛かるぞ」
「馬鹿なことだと? ふざけんなよ。真の男の勝負だぞ!」
オルガンが諭すが、ザルクは完全に頭に血が上っているらしくデリンジャーを手放そうとしない。
しかし、真の男の勝負って、何かの漫画にでも影響を受けたか?
「お前ら、真の男の勝負だとか抜かしているが、それは盗品だぞ」
そこで俺はそう指摘し、ザルクたちの方に歩み寄る。
「おい。近寄るんじゃねえ、人間! 撃ち殺すぞ!」
「やれるもんならやってみな。その度胸があるならな」
俺はつかつかとザルクと黒獄に歩み寄っていく。
「クソ!」
そこでザルクが発砲し、遅れて黒獄も発砲した。
──ただし、俺に対して。
銃弾は俺の肩と脇腹を貫通し、鮮血が舞う。
その衝撃で俺の身体がぐらりと揺れるが、俺は踏みとどまった。
「阿呆。狙うなら頭か胸だ!」
正直、一度は死ぬ覚悟もしていたが、連中の狙いはノーコンだった。
構え方からして素人だと思っていたが、ここまで外れるとは。
俺は撃ち終えた単発のデリンジャーを握ってあわあわとするザルクの顔にパンチを一発お見舞いし、手からデリンジャーをもぎ取る。
「さあ、お前もさっさとそれを返せ。歴史的価値があるもので、お前の玩具にしていいものじゃない」
「わ、分かった!」
その様子に怯えたのか、黒獄はあっさりとデリンジャーを俺に渡した。
まあ、いくら構えていても単発だから次弾は装填しないと撃てないのだが。
「さて、デリンジャーは回収完了、と」
一色銃火器の店主からの依頼はこれで達成。
「オルガン。お前の依頼もこれで達成ってことでいいか?」
「ああ。助かったよ、便利屋。報酬はあんたの相棒に渡しておく」
「そうしてくれ」
そこでこの問題の中心にいただろう吸血鬼の女が俺に歩み寄ってくる。
「死をもたらす銃弾を恐れないなんて素敵だわ……! なんて男らしいの! いや、真の男性だわ! 全身から男性フェロモンが溢れているみたい! 私、あなたに惚れちゃったかも……?」
「ええー……?」
そんなことを言う吸血鬼の女に俺たちは揃って困惑。
オルガンたちも、黒獄も、ドルヴァスと仲間も、揃って『ええー……?』って顔をしている。
「あははははっ! 惚れられたな、阿賀野!」
ひとりだけカリギュラは大笑いしていたが。
「な、何を言うんだ、エリザベス! 君は俺こそが真の男だって言ったじゃないか!」
「ごめんなさい、黒獄。けど、この人の方が実際に凄い男らしいし……」
声を上げる黒獄にエリザベスと呼ばれた吸血鬼はそう返し、俺の腕に抱き着く。
「ねえ、お名前は? 私はエリザベスよ」
「阿賀野篤。そして、俺は美女だろうと悪魔に興味はない」
「そういうところも男らしいわ!」
きゃっきゃっとそう言って喜ぶエリザベスとげっそりする俺。
「ああもうっ! 行くぞ、カリギュラ。店主にデリンジャーを返して報酬だ」
「合点」
俺はエリザベスの手を振りほどき、オルガンから報酬を受け取ったカリギュラとともに軽トラに乗り込み、すぐにエンジンをかけた。
「待って、阿賀野さーん! 私の運命の人ぉー!」
後ろでエリザベスの呼ぶ声がする。
「いいのか? お前に惚れていたぞ、阿賀野」
「勘弁してくれ……」
犯罪組織絡みで悪魔とか、厄ネタでしかない。
「お前の好みってどんな女なんだ?」
「お淑やかで何よりトラブルを起こさない人間の女」
「わはは。そんなやつは熊本にはいないぞ~」
「そうかもな」
このトラブルまみれの熊本でトラブルと無縁の人間などいないのかもしれない。
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