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Case.64 食物連鎖

……………………


 ──Case.64 食物連鎖



「じゃあ、行ってくる」


 中からレッドキャップの鳴き声がしなくなったのを確認してから、俺は志茂から爆薬を受け取り、防空壕の中に入っていった。


 防空壕は今も壊れそうでこうなってはレッドキャップより崩落の方が怖い。


 未だに炎の熱気が残る防空壕内で、俺は慎重にゲートへと近づく。

 爆弾をゲートの生じている空間の地面に設置し、信管に繋がるケーブルを外まで伸ばして、外で起爆ボタンを押せばこの事件は解決だ。


 レッドキャップの駆除報酬は3万円。

 俺たちだけでも20体以上は駆除したから60万は行くだろう。

 もっともちゃんと駆除したことを証明するために、死体を軍政局まで運ぶ必要があるのだが……。


「爆薬を仕掛けて、と」


 防空壕内でもレッドキャップが多く死んでいるが、こいつらに関しては真っ黒に焦げていてゴブリンと判別がつかない。

 死体を運んでも駆除報酬は出ないだろうな……。


 安全手順を踏んで、俺は信管を爆薬に装着してケーブルを防空壕の外に伸ばす。


「入り口から離れろ。爆破する」


「了解」


 俺たちは防空壕の入り口から離れ、点火スイッチを押す。

 ずうんと重々しい爆発音が響き、防空壕から爆風が噴き出した。


「よーしっ! 爆破完了!」


「ゲートは閉じたかね」


 俺たちはもう一度ドローンで内部を確認する。

 一部崩落した防空壕の中には、ゲートは存在しなかった。

 無事にゲートの爆破処理完了だ。


「よし。残るはレッドキャップの残敵を掃討するだけだ」


「……なあなあ。本当に山狩りするのか? 軍政局はゴブリン駆除の依頼は出したけど、レッドキャップに関しては何も依頼は出てないんだろう」


「レッドキャップは常に駆除対象だ。地獄からの侵略的外来種ってやつだからな。と言っても1匹3万しか報酬は貰えないけど……」


「はああああ」


 確かにカリギュラが言うように正式な軍政局の依頼ではないので、弾薬などの経費は自己負担だ。


「でも、20匹以上は駆除したから60万は超えるぞ」


「まあ、ゴブリン駆除より儲かるけど……」


 普通の人間なら何度も死んでいるようなリスクを背負って60万円は、果たして適正な報酬と言えるのか。

 やっぱり駆除報酬を上げるように軍政局にいつか要望を出すべきだな。


「なあ、今度軍政局の魔獣対策課に──」


「──阿賀野。やばい臭いがした」


 俺がカリギュラに相談しようとするとカリギュラがそう言う。


「やばい臭いって?」


「この臭いは──コカトリスだ」


「マジかよ」


 カリギュラが告げた言葉に俺は素早くモスバーグM590散弾銃の銃口を周囲に巡らせて、警戒態勢を取った。


 コカトリス──。


 巨大な鶏の尻尾に蛇が生えたとしか言いようがない魔獣で、爪や蛇の頭にある牙に神経を麻痺させる毒を有する。

 この神経毒を受けると最悪の場合、心筋が麻痺して死に至る。


「志茂! 近くにコカトリスがいる! 警戒してくれ!」


「何だって!? クソ、分かった!」


 志茂もFN SCAR-Hバトルライフルを構えて周囲を探る。


 山林は鬱蒼としており、いつどこから奇襲を受けてもおかしくない。

 俺たちは耳を澄ませ、臭いを嗅ぎ、奇襲に備える。


 がさがさと茂みが掻き分けられる音がし、俺たちの心拍数が僅かに上がる。


 コカトリスが相手を麻痺させて何をするかと言えば、捕食だ。

 俺は不死身だけど生きたまま鶏に食われたくはない。

 まして、志茂は不死身でも悪魔でもない人間だ。

 俺たちは大きなリスクを背負っている。


「落ち着け、落ち着け……冷静に対処しろ……」


 志茂がそう呟くのが聞こえてきた。

 流石のレンジャーでもコカトリスを相手にする訓練は受けていないだろう。

 志茂は地獄戦争のときにはすでに退役しているし。


「レッドキャップの臭いもするぞ。連中の死体の臭いだ」


「まさかコカトリスがレッドキャップを襲っている?」


「かもな。地獄だと普通にコカトリスはレッドキャップを襲って食っちまうから」


「げえ」


 人型の生き物が食われているのを想像するのはちょっとげんなりする。

 だが、コカトリスとレッドキャップが潰し合っているならチャンスかもしれない。


「カリギュラ。臭いを辿ってこちらから仕掛けよう。コカトリスをこっちから見つけて排除する」


「合点」


 襲われるのを待つよりも積極的に攻撃した方がいい場合もある。

 攻撃は主導権を握るチャンスだ。


「縦列で俺が前に出る。志茂は援護を、カリギュラは臭いを」


 俺は短くそう指示を出し、カリギュラが辿る臭いを追ってコカトリスを探す。


「便利屋の兄ちゃん。ドローンは出さなくていいか?」


「今はまだいい。ある程度接近してからだ」


 山林は広い。

 無計画にドローンを飛ばしても、バッテリー切れだ。

 すでに防空壕跡地を探るのにも飛ばしたので、バッテリーは温存しておきたい。


「近いぞ」


 それから歩くこと20分。カリギュラがそう報告した。


「志茂。ドローンを展開してくれ。援護する」


「ああ」


 志茂はクアッドローターの小型ドローンを空に飛ばす。

 ドローンのセンサーはサーマルカメラに変更し、地上を探っていく。


「いたぞ。かなり近い位置にコカトリスとレッドキャップだ。殺し合っている。10時方向、距離120メートル程度」


「よーし。じゃあ、パーティに乱入しよう」


 俺はそう言い、先頭に立って散弾銃を構えて山林の傾斜を下る。

 傾斜を可能な限り音を立てず降りると、鶏の鳴き声が聞こえてきた。


「コケーッ! コケコケッ!」


「げ、げげっ!」


 そしてようやく姿が見えた。


「コカトリス……」


 体長1.5メートルほどの巨大な鶏の姿をした魔獣はレッドキャップたちを麻痺させ、そのまま食っている。


「ゴブリンはレッドキャップに追いやられ、今度はレッドキャップがコカトリスに追いやられているってわけか。食物連鎖ってやつを感じるね……」


「どうでもいいからさっさと仕留めようぜ。俺様、嫌な予感がする」


「分かってる。数は1匹か?」


 カリギュラが言い、俺は志茂に確認。


「待て、便利屋。茂みにもう1体隠れていた。すぐそこだ。9時の方向、距離は……10メートルもない!」


「畜生!」


 俺たちが9時の方向に銃口を向けるとそこからコカトリスが飛び出してきた!


……………………

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― 新着の感想 ―
村近くの山中に野生のコカトリス。
世界は厳しいねぇ
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