Case.61 赤い帽子の怪物
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──Case.61 赤い帽子の怪物
首に痛みというより、熱さが感じられた。
熱した何かを押し付けられたかのような感触だ。
しかし、実際には俺の首は今まさに農業用の鉈でさらに斬り裂かれようとしていた。
「クソ!」
俺は咄嗟に首を捻り、俺に飛び掛かってきた何かの追撃を躱す。
血が飛び散り、その何かが俺たちの背後に回り込んだ。
「カリギュラ! こいつは──」
「──レッドキャップだ!」
鉈を持ったゴブリンに似た醜悪な魔獣。
ゴブリンと違うのは頭頂部が赤いことだ。まるで赤い帽子を被っているかのように。
「げげげげっ!」
その魔獣が汚く笑うような声を上げる。
俺たちを馬鹿にしているかのように。
「ゴブリン目当てに来て、えらい外道が釣れたな」
「クソ。クソッタレめ。こいつは厄介だぞ……!」
レッドキャップ──。
ゴブリンに体格や姿形は似ているが、その手には鋭い爪が並ぶ。
しかし、やつが危険なのはその爪じゃない。
あの醜悪な面が張り付いた頭にある脳みその方だ。
やつらは人間の道具を見よう見真似で使う。
今、目の前にいるレッドキャップが握っているような鉈や斧などなど。
さらに地獄戦争中は死んだ兵士からはぎ取った軍用ナイフ、マチェットも使う姿が確認された。
流石に銃火器の類は使い方を知らないようだったが、刃物や鈍器はよく使う。
そして、厄介なことにこいつらは恐ろしく殺しに長けている。
「阿賀野。臭いは複数で周辺に散らばっている。ここはやつらの狩場だ。注意しろよ」
「了解だ、カリギュラ。だが、発砲には注意しろ。まだ志茂が見つかっていない」
「もう殺されているんじゃないか? 訓練されてもいない一般人がレッドキャップ相手に生き残れるとは思えん」
「それでもだ。俺たちが撃ち殺したらいろいろと面倒だし、寝覚めが悪い」
「はいはい」
そこで俺たちの前方と背後、そして側面に新手のレッドキャップが出現。
どいつもこいつも人間様が作った道具で武装している。
農作業用の鎌からスコップまで。
不死身だけどああいう切れ味の悪そうな武器で斬られるのは勘弁してほしいぜ。
「じゃあ、始めるぞ、カリギュラ」
「合点」
俺とカリギュラは背中合わせに立ち、モスバーグM590散弾銃の銃口をレッドキャップに向ける。
「げげげげっ!」
レッドキャップたちは銃を使えなくとも、銃について知っている。
その銃口が向くことの意味を理解しているやつらは、銃口から逃れるように左右に動きながら俺たちに迫って来た。
「カリギュラ! 炎でやつらの動きを制限してやれ!」
「任せろ!」
カリギュラはそんなこざかしい真似をするレッドキャップの動きを制限すべく、炎で辺りの草木を覆い、それによってレッドキャップたちの逃げ道を狭めた。
「そら! まず1匹!」
俺に鉈を振り回したレッドキャップの脳天に12ゲージのスラッグ弾をお見舞い。
スラッグ弾の直撃を受けたレッドキャップの頭部が爆ぜる。
「わはははっ! 俺様も1匹殺害だ!」
カリギュラも俺と同じようにレッドキャップの頭部を粉砕していた。
しかし、レッドキャップたちは引き際を心得ていないらしく、次々に武器を手に襲い掛かってくる。
「クソ、リロードする! カバーしてくれ!」
「分かった!」
俺は装填されていた9発のショットシェルを撃ち尽くし、リロードする間はカリギュラがS&W M500拳銃でカバーしてくれた。
ショットシェルをチューブマガジンに詰め込み、素早く装填を終えて攻撃を再開。
「今度は俺様がリロードする。カバーしてくれ、阿賀野!」
「了解だ!」
カリギュラのリロードを俺がカバーし、俺たちは連携してレッドキャップの脅威に立ち向かう。
レッドキャップは20体以上湧いており、やつらは次々に押し寄せる。
「クソ。弾切れだ!」
「こっちもだぞ!」
俺とカリギュラはここまで大きなレッドキャップの群れを想定していなかったため、弾薬が底を突き始めていた。
俺は散弾銃をスリングで下げ、代わりにHK45自動拳銃を抜く。
カリギュラもリボルバーを構えて、じりじりと迫る5体のレッドキャップと対峙した。
「カリギュラ。いざとなったら山ごと焼き払うぞ」
「そんな愉快なことしていいのか?」
「こいつらが山を下りて集落を襲うよりマシだ」
俺たちがそんな言葉を交わしていたときだ。
不意にレッドキャップの1匹が胸から血を流して倒れた。
遅れて銃声が響くが、俺たちは発砲していない。
レッドキャップたちも何が起きたか分からず、混乱している。
「──おらあ! 九州男児、舐めとんじゃねえぞ、小鬼ども!」
そこで現れたのはぼろぼろになったオレンジ色のベストを纏った老齢の男性。
FN SCAR-Hバトルライフルを腰だめに構え、腰のホルスターには金メッキのデザートイーグルを下げ、さらに背中には狩猟用のエアライフルを背負っている。
「げげげげっ!?」
「くたばりやがれ!」
突然の新手にレッドキャップたちが応じようとするが5体のレッドキャップは次々にその老人の銃弾を浴びて撃ち殺され、地面に倒れた。
「あんたら、無事か? 派手にやったみたいだな」
「あ、ああ。ひょっとしてそのベストは……お前が志茂さん?」
「おう。志茂悟とは俺のことだ」
捜索していた志茂は元気そうだった。
……というか元気すぎないか?
どう見ても軍からの横流し品のバトルライフルを振り回して登場とは。
「志茂さん。ゴブリン駆除のついでにお前の捜索を麓のミカン農家に頼まれたんだが、お前さん昨日からこれまでどうしてたんだ?」
「話すと長くなるし、戦いはまだ終わっていない。とりあえず俺の家に来い。茶でも出そう」
「ああ。分かった」
俺たちはこの山で起きていることを聞くために、志茂に付いていった。
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