Case.6 取り立てのお仕事
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──Case.6 取り立てのお仕事
カリギュラは毎度不満そうだが、魔獣駆除の仕事はまだいい方なのだ。
俺たちのやっている便利屋に舞い込む仕事には本当に稼げないものがあるのだから。
「もしもーし! レオさん! いるのは分かってるんですよーっ!」
俺は安アパートの扉をガンガンと叩いてそう大声を出す。
「家賃、いい加減に払ってもらいますよっ! いいですね!?」
今回の仕事は家賃の取り立てだ。
こういうのも俺たちの仕事なのである。
悪魔や魔獣関係のトラブル解決が仕事のはずなのに家賃の取り立てを? とお思いの方もいるだろうが、これも歴とした悪魔絡みのトラブルなのだ。
俺がドアをノックし続ける中、がららっと窓が開く音が聞こえた。
「カリギュラ! 窓から逃げる気だぞ! 逃がすな!」
「合点!」
俺がインカムで命令を叫ぶと、すでに裏手で位置についていたカリギュラが応じる。
俺もアパートの階段を駆け下りて、裏手に回り込んだ。
「暴れるな! 焼き殺すぞ!」
「クソ!」
カリギュラに取り押さえられながらもばたばたと暴れているのは人と獅子が混じったような存在──ワーライオンという悪魔だ。
そう、取り立ての対象が悪魔だから俺たちが呼ばれたのである。
「レオさん。今日中に3か月前までの家賃を払わないと軍政局が定めた法令に違反するので、登録悪魔としての資格を剥奪されますよ。逃げても意味はないですからね」
「ぐぬう……。そうは言われても、金がないんだ……」
カリギュラに取り押さえられたまま、項垂れるワーライオンの男性。
「じゃあ、退去するしかありませんね」
「家がないのは困る!」
「じゃあ、まず3か月前の家賃2万円を払いましょう。大家さんはまずはそれでいいって言ってくれてますから」
家賃の滞納は3か月前から始まっている。
法律上、大家が退去を命じられるだけの滞納期間だ。
「……2万円あるかどうか……」
「はあ……。仕事はどうしたの? クビにでもなった?」
視線を泳がせるワーライオンの男性。
俺はいい加減、優しい取り立て人の演技にも飽きたのでフランクに尋ねる。
「し、仕事はしている! 本当だ! ただ……」
「ただ?」
「その、バーで働いているサクラちゃんっていうとっても可愛い女の子に出会って……その子がお金に困っているっていうから持ってたお金を全部貸してしまって……」
「女夢魔にカモられたってことか?」
「ち、違う! それは違う! あの子はサキュバスじゃない! 俺の鼻は確かだ! あの子は人間だった!」
「まあ、それはそうか」
悪魔の臭いに気づかないほどワーライオンの鼻は悪くない。
「で、それはいつ? 3か月前?」
「ああ。それからも何度か会って、そのたびに、その、支援をねだられて……」
「そのせいで素寒貧と。完全な色恋営業だな。今、その女の子は?」
「今もバーで働いていると思うけれど……」
「んじゃあ、手っ取り早く行こう」
俺がカリギュラに視線を向けるとカリギュラはにやりと嗜虐的に笑った。
その笑みに俺も不気味に笑って見せる。
「ど、どうする気なんだ?」
そんな俺たちの様子に気づいたのか、ワーライオンが慌てる。
「あんたは金を貸したんだ。それなら利子付けて返してもらおう。それだけだ」
* * * *
俺たちはワーライオンのレオに金を借りたという女を探して、熊本市の歓楽街にやってきた。
合法・違法を問わず様々な快楽を提供する店が並ぶ歓楽街。
猥雑なネオンの光が輝き、夜だというのにまるで昼間のように明るい。
この歓楽街は企業と犯罪組織が牛耳っている。
軍政局も憲兵隊もここで起きたことにいちいち口を挟まない。
とどのつまり、無法地帯だ。
だからこそ、今回の仕事は危ないといえば危ない。
「あの店だな」
「これ見よがしに悪魔が用心棒をやってるな。その手の店だろ?」
レオが言っていたバーを見つけて、俺とカリギュラがそう言葉を交わす。
可愛らしいピンクのハートが描かれた看板の前には、それとは正反対の捻じれたヤギの角を持つ厳つい悪魔が用心棒として立っていた。
「ああ。事前に聞いていた通りだ。ここら辺を仕切っているといえばアビス・ファミリーだろう。連中のあくどい商売にお灸をすえてやろうぜ」
「わはははっ! 楽しみだ!」
俺たちはそれから問題のバーに向けて進む。
俺たちが店に真っすぐ近づいてくるのに悪魔の用心棒が僅かに視線を向けた。
そして、やつがぎょっとするのが見えた。
それもそうだろう。
俺の肩にはサプレッサーが装着されたM27 IARアサルトライフルがスリングで吊り下げてあり、ジャケットの上から胴体に装備したチェストリグのポーチにはマガジンがたっぷりだったからだ。
地獄に浸食されてから誰もが銃火器で武装するようになったと言っても、海兵隊が使っているゴツい装備を日ごろから持ち歩いている人間はいない。
まして、ここは歓楽街だ。
話の通じない魔獣が出没する場所ではない。
こんな重装備で出歩く必要がない。
まあ、話の通じない人間や悪魔は山ほどいるみたいだけどな。
「と、止まれ!」
そんな俺たちが迫ると用心棒の悪魔が慌てて制止する声を上げる。
俺はその悪魔に向けて銃口を向けると引き金を引いた。
放たれた5.56ミリNATO弾は店の看板をぶち抜いて、火花を散らす。
「死にたくなかったら下がってろ!」
「ひいいっ!」
悪魔は俺の叫びを聞いて逃げ出す。
俺たちはそのままバーの扉を蹴り開け、中に押し入る。
バーの中は俺たちの侵入に数人しか気づかないほどに音楽が鳴り、従業員の女の子たちが悪魔や人間の男性にお酌していた。
「カリギュラ」
「うむ!」
カリギュラは腰のホルスターからS&W M500拳銃を抜く。
カリギュラ好みの大口径リボルバーだ。
その銃口をやつは天井に向けて引き金を引いた。
凄まじい銃声が2発響き、従業員も客も悲鳴を上げて俺たちの方を見た。
「サクラって女を出せ。話がある」
俺は完全に恐怖に沈んだ店の中で、そう宣言した。
従業員たちの視線がそろそろとひとりの女に向けられる。
その女のネームプレートにサクラとあった。
「よう、サクラだな。レオが貸した金、利子付けて返してもらおうか?」
俺は可能な限りにこやかに笑ってそう言い、隣に立つカリギュラも悪魔らしい笑みを浮かべた。
「お、おおっ、お金は、いいい、い、今すぐには……」
「ほほう。450万も借りて1銭も返せないと? それにしてはいい宝石を付けて、服も立派なものだがなあ? ええ?」
サクラが恐怖で言葉を詰まらせながら言うと、カリギュラが赤い瞳で彼女を舐めるように見つめ、サディスティックな声色でそう返す。
「とりあえず10万だ。レオが家賃が払えなくて困っている。6万はレオに返し、4万は俺たちの取り立て手数料だ」
「おうおう。さっさと払わんか、この小娘!」
俺とカリギュラがそう言ってサクラを脅していたときだ。
「うちの店で何してんだ、この野郎!」
黒スーツの男たち6名が殴り込むようにして店内に押し入ってきた。
「借金の取り立てだが? お前らアビス・ファミリーの連中だろ?」
「ああ? お前ら、この店が誰の縄張りか分かって仕掛けてきたのか? このボケ!」
「そうだが俺たちはボケじゃない。ボケはお前だ」
黒スーツを纏った豚鼻の悪魔が俺とカリギュラを睨みつけながらそう言い、俺は右手でアサルトライフルのグリップを握ってそう言い返す。
「それに、だ。この臭いはマタタビだろう。ワーライオンやワーキャットを酔わせて、女に貢がせていたとはあくどいやり口だな?」
「だったら何だよ? ここは熊本だ。改正風俗営業法もクソもねえ地獄に冒された場所なんだよ。ここじゃあ騙されるやつが悪い」
「じゃあ、こっちも実力行使で金を取り戻させてもらうだけだ」
「やれるもんならやってみな!」
6名の男たちは一斉に懐から拳銃を抜く──。
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