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Case.5 熊本軍政局

……………………


 ──Case.5 熊本軍政局



 俺たちはミディアムレアに焼けたヘルハウンドの首を斬り落とすと、ビニール袋に放り込み、白い軽トラックの荷台に積んでいく。


 これは別にサイコパスな行為ではなく、駆除の証拠としてヘルハウンドの頭部が要求されているからだ。


 先に述べたようにヘルハウンドは大型犬より大きい。

 その死体を丸ごと持ってこいというほど、軍政局は鬼畜ではなかった。

 まあ、頭だけでも重いから、耳だけとかにしてほしいけど、それやると普通の犬の耳を切って持ってくるやつが出そうだからな……。


「さあ、軍政局まで行くぞ」


「了解だ」


 俺たちはラブホテルの廃墟付近の山林を出て、軍政局を目指す。


 熊本軍政局はかつて熊本県警本部と熊本県庁があった場所に存在する。


 熊本の警察業務を憲兵が行うようになり、県知事職が廃止されて軍政長官が配置されているため、県警本部も県庁もどちらの建物も軍政局が使用しているのだ。


 俺たちは地獄戦争のせいで荒れた道路を走り、その軍政局に向かった。


 軍政局の付近には陸軍の装甲兵員輸送車(APC)や軍用四輪駆動車が展開しており、検問が設置されていた。


 俺は軽トラックの速度を落として、検問に近づく。


「市民。IDの提示を」


 アサルトライフルで武装した陸軍の下士官が俺たちにそう要求してくる。


「はいよ」


 俺は運転免許証を見せる。

 将校はそれを確認したのちに、カリギュラの方を見た。


「そっちの市民もIDの提示を」


 将校はそう要求する。

 カリギュラは当然ながら運転免許証なんて持ってないし、マイナンバーカードだって持ってない。


「ん。これでいいか?」


 しかしながら、身分を証明するものがないわけじゃない。

 カリギュラは1枚のカードを差し出した。


「……登録悪魔か。確認した」


 登録悪魔──。


 それは熊本軍政局に、つまりは日本政府に認められた悪魔だ。

 条件は一定の知性とコミュニケーション能力があることと、そして何より軍政局に定められた法律を犯さないと宣誓すること。


 登録悪魔でなければ軍政局のような建物には基本近づけない。

 問答無用で軍に射殺されても、文句も言えない。

 だが、登録悪魔ならば人間と同じように扱われる。


 カリギュラもそんな登録悪魔だ。

 もっとも軍政局はこいつが地獄の司令官であったカリギュラだということは把握していないが。


 申請は偽名で行っている。

 この時点で法律を破っているが、まあ、仕方ないだろ。


「通っていいぞ」


「どうも」


 検問が開かれ、俺たちは軽トラックを軍政局の建物に向けて走らせた。


 それから軍政局の駐車場に車を止める。


「じゃあ、窓口で手続きしてくるから待ってろ」


「分かった!」


 俺はカリギュラに車と荷台の積み荷を任せ、軍政局の建物内に入る。

 日本陸軍によって警備されている軍政局の中には大勢の人間や悪魔がいた。


 悪魔は誰も彼もが俺が殺した女夢魔(サキュバス)みたいな人殺しの犯罪者というわけではない。

 中には真っ当なビジネスで稼ぎ、この地球での生活を楽しんでいる悪魔もいる。


 俺たちみたいに魔獣の駆除を行ってその申請に来ている悪魔。

 法に違反しないぎりぎりの快楽を提供する店を出したいと相談している悪魔。

 軍政局から警察業務の委託を受けた民間軍事会社(PMSC)所属の悪魔。

 そういう悪魔たちが軍政局のエントランスホールにいる。


 だが、俺は別にそんな真っ当な悪魔に用事はない。


 俺は魔獣対策課と書かれたプラスチックの看板が出ているカウンターに向かう。

 カウンターは幸い空いており、俺はカウンターにいた職員に声を掛ける。

 職員は若い女性軍人で、日本陸軍の軍服姿だ。


「依頼があった魔獣駆除が完了したんで報酬を受け取りに来た」


 俺は依頼に関する書類を職員に提供する。

 依頼内容やかかった経費などが記された書類だ。


「分かりました。駆除の確認のため指定された部位を証拠として提供していただくことになっております」


「それは外のトラックに載せてある。職員を寄越してくれ。何せ8頭分のヘルハウンドの証拠だからな。ここには持ってこられない」


「では、職員を同行させますのでお待ちください」


 それからカウンターを離れてエントランスホールの椅子に座って待つ。

 軍政局とは言っても雰囲気は役所だ。


「お待たせしました。確認させていただきます」


 それから屈強な軍人2名がやってきて、俺にそう声を掛ける。

 役所と違うのは、職員全員が最低でも自動拳銃で武装しているって点か。

 2名の軍人はどちらも拳銃をホルスターに収めていた。


「こっちだ」


 俺は軍政局の外に出て駐車場まで軍人を案内する。

 駐車場ではカリギュラが待っており、俺を見つけると手を振ってきた。


「これだ。8頭分な」


「確かに確認しました。報酬をお支払いしますので、またカウンターへどうぞ」


「……了解」


 職員が軍人であり武装していようと、あちこち行ったり来たりで、待たされたりとお役所仕事なのは変わらない。

 俺とカリギュラはクーラーの効いたエントランスホールの椅子に並んで腰かけて、報酬の支払いを待った。


 待たされること1時間弱。


「こちらが報酬になります」


「おおっ!」


 俺たちはようやく報酬の16万円+弾薬費を手に入れた。


 俺はほくほくの笑みで万札を数えるが、カリギュラは微妙な表情。


「……なあ、やっぱりこの仕事は儲からないんじゃないか?」


「うるさい。他に仕事がないんだからしょうがないだろ……」


 ああ。前の依頼みたいにどかんと稼げる仕事があればな……と俺は思った。


……………………

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