Case.4 魔獣の駆除
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──Case.4 魔獣の駆除
翌日、俺たちは軍政局から発行された依頼に従って、廃墟になったラブホテル付近にある山林の前にやってきた。
軍政局の依頼と言っても、それを引き受けたのは俺とカリギュラだけなんだけど。
「思うけどさ。魔獣駆除の仕事って美味しいのにあんまり人が集まらないよな?」
「……この仕事が美味しいと思っているのは、阿呆なお前だけだからじゃないか?」
「なんでだよ。絶対美味しいだろ、この仕事」
経費は軍政局持ちなので弾薬費は考えなくていいし、魔獣1体につき1万~3万だ。
軍政局が発行する場合、無視できない規模の魔獣が発生しているということだ。
つまり探すまでもなく向こうから魔獣が襲ってくる。
要領よくやれば1時間で10万近く稼げることだってある。
交通整理のバイトが酷暑の中で1日中、立ちっぱなしでも1万円程度なのを考えると破格だろ。
「なあ、阿賀野。俺様もインターネットを使って調べたんだが、北海道ではヒグマを1体駆除するごとに8万近い報酬を払っているそうだ。そして、魔獣はヒグマより危険なのは知っているだろう?」
「だ、だけど、北海道でハンターやるには資格がいるし、いろいろと決まりがうるさいからな。それこそ何年も猟友会に入って、銃の資格を更新してってな。ここだと適当に発砲しても銃を取り上げられたりしないぜ?」
「それはそうだが軍政局は報酬を渋ってる。この仕事は儲からないぞ」
……確かにヒグマより危険な魔獣1体につき1万~3万の報酬は安い気がする。
今度、軍政局に苦情を入れてみようと思った。
「それより、どうだ? 魔獣の気配はするか?」
「ああ。間違いない。魔獣どもがいる。この感覚はヘルハウンドと言ったところだな。数は7、8匹でそこまで多くはない」
ヘルハウンド──。
大型犬ほどの大きさがある危険な魔獣だ。
何が厄介かと言えば、まず群れること。
野犬の群れというのは、訓練された軍人でも苦戦する。
それからやつらは命の危険にさらされると炎を吐く。
それが実に厄介なのだ。
「じゃあ、野犬狩りと行きますか」
それでも仕事は選べない。
だが道具は選べる。俺が今回選んだ銃はモスバーグM590散弾銃。
12ゲージのスラッグ弾とバックショット弾をたっぷりと準備し、サイドアームはいつもHK45自動拳銃だ。
「まずは餌撒きだな。やつらが好みそうな代物を持ってきた」
俺はベルゲンリュックサックからビニール袋に詰められた廃棄予定だった腐りかけの豚の内臓を取り出して、山林の風上からぶち撒ける。
肉の生臭い臭いが辺りに立ち込め、それが風で運ばれていく。
この臭いにはヘルハウンドどもも抗えないはずだ。
俺たちは撒き餌をしてからヘルハウンドたちが釣れるのを待つ。
当然、俺たちは待ち伏せしていることを気づかれないように微生物消臭剤で臭いを消し、泥を塗って可能な限り臭いを消す。
そして、じっとヘルハウンドたちの到来を待つ。
「来たぞ、来たぞ……」
警戒した様子で現れたヘルハウンドの群れ。
カリギュラが掴んだように、その数は8体だ。
俺はモスバーグM590散弾銃の銃口をヘルハウンドに向けた。
十分な距離まで引き付けて、一気に片付ける。
「カリギュラ。やるぞ。準備はいいな?」
「任せておけ」
俺が散弾銃の銃口をヘルハウンドたちに正確に向ける中で、カリギュラも準備に入っていた。
やつの役割は退路を断つことだ。
「やれ、カリギュラ!」
「そら!」
次の瞬間、炎の壁がヘルハウンドの周囲を取り囲み、ヘルハウンドたちが狼狽える。
カリギュラの能力──いや、魔法だ。
やつは自在に炎を操ることができる。
俺はカリギュラが生じさせた炎の檻に閉じ込められたヘルハウンドに向けて散弾銃から銃弾を叩き込んでいく。
まず狙ったのは群れのリーダーだ。
群れを率いているヘルハウンドを殺せば、やつらは統率が乱れて混乱を抱える。
リーダーは常に先頭に立ち、他のヘルハウンドたちから恐れられているのが分かる。
俺はそいつに向けて銃口を向けて、12ゲージのスラッグ弾を叩き込んだ。
「リーダーを仕留めた。あとは掃討戦だ。判別できる程度に焼いていけ」
「了解だ、阿賀野!」
混乱するヘルハウンドたちをカリギュラが操る炎が焼き殺していく。
昨日の焼き肉の臭いとは異なる、あまり食欲をそそらない臭いが辺りに立ち込めた。
カリギュラの炎は魔獣を判別できる程度に──ミディアムレアに焼き上げていく。
「よし、やったぞ。あとはこいつらの首を軍政局に引き渡すだけだ」
「簡単な仕事だったな!」
「ああ。ヘルハウンドの駆除報酬は2万でそれが8体だから16万だぞ~。大儲けだよな」
「ふふふ。また焼肉に行けるな! カルビにロース、ヒレ肉!」
「しばらくは倹約だ。そうそう高い外食ばかりしてられない」
「ケチ!」
カリギュラのわくわくを俺は否定し、カリギュラが悪態を吐く。
「まあ、あとで高くはないが肉は食わせてやるから安心しろ」
「ふん!」
──話は再び過去に戻る。
畜産農家の畜舎で見つけた銀髪の美女。
「動くな! 家畜を荒らしていたのはお前だな!」
「だったら何だというのだ。俺様は腹が減っているんだ」
俺が散弾銃の銃口を向けて言うと、その銀髪の美女は悪びれもなくそう言った。
そして、素手でばらばらにした豚の肉を貪る。
身体は豚の血で血塗れで、獣の臭いがする。
「お前、悪魔だろう。名前は?」
「俺様はカリギュラ。かつて地獄の司令官であった存在だ」
「カリギュラ……! 馬鹿な、お前は死んだはずだぞ……!」
俺は悪魔の告げた言葉に動揺する。
カリギュラはくたばったはずだった。
俺が梱包爆薬と対戦車ロケット弾で仕留めたはずだ。
「俺様は身体の80%を失ったに過ぎない。あと数百年か数千年あれば元の身体に再構成される。こうして食事を続ければな!」
カリギュラと名乗る美女はそう言う。
「……クソ、マジかよ……」
俺は困惑した。
カリギュラが生きていて、身体の再構築のために家畜を襲っていた。
全てが全て予想外だ。
だが、ここでカリギュラを仕留めるのは容易なのかもしれない。
散弾銃を叩き込めばくたばるはずだ。
身体の80%を失い、この美女の姿になったならば、さらに90%と言わず100%肉体を破壊できるかもしれない。
だが、俺には引き金が引けなかった。
同情か憐憫か、あるいは俺を竜殺しの英雄と無責任に持ち上げた連中への復讐か。
ああ。そうだ。戦争はもう終わっているし、今のこいつはただの飢えに苦しむ悪魔に過ぎない。
ドラゴンを殺して世界を救うのは1度で十分だろう。
「俺と一緒に来い。家畜を襲うのは犯罪だ。合法的に肉を食えるようにしてやる」
俺はそうカリギュラに言ったのだった。
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