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Case.3 稼げる仕事が必要だ

……………………


 ──Case.3 稼げる仕事が必要だ



 さて、どうして地獄からの悪魔の侵攻を指揮したドラゴンが、俺と一緒に焼肉を食っていたかには理由がある。


 話は俺が客寄せパンダ扱いにうんざりして軍を辞めて行方をくらまし、熊本で小さな便利屋を開いた当初まで遡る。


 魔獣や悪魔関係のトラブル解決しますと謳って小さな事務所で始めた便利屋だが、当初は信じられないほど客がこなかった。


 その理由は単純に広告費をケチっていたから。

 ただ便利屋をやりますという看板だけ出して、それで客が来る方が怖い。

 だが、俺はもう有名になどなりたくなかったので広告なんて出したくなかった。


 幸い、軍にいたときに貯めた金はたっぷりあったので、しばらくはそれで持たせていたが、流石に数か月に1回1万円程度の魔獣の駆除をやるだけでは大赤字だ。


 そんな折にある依頼が入った。

 依頼主は俺の堅実な魔獣駆除を口コミで聞いた畜産農家で、依頼はやはり魔獣の駆除だった。


「うちで飼ってる鶏や豚が襲われて食われるんですよ。それも畜舎を滅茶苦茶にして」


 そう依頼主はほとほと困り果てた様子で言っていた。


 で、俺はその依頼を受けて、現地に向かった。

 まあ、家畜を襲う魔獣ってのは珍しくもない。

 魔獣によっては野生の鹿や猪、果てはアライグマまで食らいつくしちまうのだ。

 檻に入れられて逃げ場のない家畜はやつらにとってはいい獲物である。


 しかし、現場を見たときに俺は違和感を覚えた。


 魔獣にしては食われた家畜の量が多い。

 しかし、群れで襲ったにしては痕跡が少ない。

 確かに家畜は派手に食い荒らされているが、家畜を入れている畜舎そのものはスマートに入り口が破られている。


「こいつはひょっとすると悪魔の仕業かもしれん」


 俺はそう判断した。


 地獄由来の知性のない野生動物は魔獣とカテゴリーされる。

 一方、地獄に由来する知性ある生物は悪魔という分類になる。


 どちらが脅威かと言えば、悪魔の方だ。


 悪魔には知性があるが、遵法精神はほぼ皆無。

 知性がなくて遵法精神もない魔獣と比べてどっちが厄介かは言うまでもないだろう?


 この小さな違和感に気づくかどうかが、戦場での生死を分ける。

 俺は悪魔が畜舎を襲撃するのに備えた。


 そして罠に掛かったのが、目の前の女だ。


 そう、カリギュラだ。


 俺の構えるモスバーグM590散弾銃の銃口の先にいたのが、この輝くような銀髪で──今より薄汚れた悪魔だった。




「ああ。腹いっぱいだ。満足、満足!」


 焼肉屋を出るとカリギュラは膨らんだ腹をぽんぽんと叩いてそう言う。


「何だかんだで2万以上は飲み食いしたな……」


 特上の肉と美味い酒。

 それの対価はしっかりと取り立てられた。


「700万入ったのだから、それぐらい気にするな!」


「気にする。家賃やら光熱費やらこれから出ていく金を考えなきゃならん」


 俺たちの稼ぎにはむらがある。

 収入があるときはあるし、ないときはない。

 それ故に定期的に支払わなければならない家賃や税金、公共料金などに滅法弱い。


 竜殺しの英雄だろう大悪魔だろうと日々の支払いからは逃れられないのだ。


「というわけで、次の仕事がある」


 俺はすでに次の仕事を取り付けていた。

 俺たちのようなその日暮らしでは、稼げるときに稼ぐことが重要だ。


「次の仕事~?」


「ああ。魔獣の駆除だ。熊本軍政局が先の失踪事件で魔獣が人間を食っていることを把握した。女夢魔(サキュバス)が死体の処理に魔獣を使っていた件だ」


「また魔獣の駆除かよ~!」


「文句言うな。これが一番稼げる仕事なんだ」


 熊本軍政局は地獄に浸食された熊本を管理する政府機関だ。

 文字通り、熊本には軍政が敷かれており、軍の統治下にある。


 ……と言えば聞こえはいいが、実態は統治とは程遠い。

 警察は機能せず、犯罪は放置され、悪徳企業が跋扈し、悪魔たちは好き放題。


 なので、俺たちみたいな便利屋の仕事があるとも言えるが。


「俺が行方不明者を見つけたラブホテルの廃墟付近で魔獣狩りだ。明日から取り掛かるから準備しておけよ。いつものように頼むぜ、地獄の大悪魔」


「はいはい。分かった、分かった」


 カリギュラは面倒くさそうにそう言い、俺たちは自宅へと戻っていく。


 俺たちの自宅は便利屋として構えた事務所のすぐ隣にある。

 正確には事務所が入居している雑居ビルの隣にある小さなアパートで、1LDKの部屋。

 そこに俺とカリギュラは暮らしていた。

 正直言って、ぼろくて狭い。

 だけど、家賃は激安なのでここに暮らしている。


「なあなあ、阿賀野。引っ越そうぜ。もっと広くて綺麗な家に!」


「我がまま言うな。そんな金はない」


「700万あるだろーっ!」


「700万なんてすぐになくなっちまうよ。老後のことだってあるんだし。じゃあ、俺、先に風呂入るからな」


 さて、明日からはまた仕事の日々だ。

 魔獣は1頭につき大体1万~3万で駆除料が発生する。

 しかも、今回は軍政局が発行した依頼なので経費は向こう持ちだ。


「明日は稼ぐぞ~」


 俺はそう思いながら熱いシャワーを浴びた。


……………………

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