Case.2 こうなった理由
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──Case.2 こうなった理由
2035年に突如として熊本県の阿蘇山に生じた空間の亀裂。
そこから地獄が溢れ出した。
文字通りの地獄だ。
悪魔たちが暮らす世界である。
悪魔は地球に向けて侵攻を開始し、俗に言う地獄戦争が始まった。
4年間、派手な戦闘が熊本を中心に繰り広げられた。
俺もその戦争に日本情報軍特殊作戦部隊のオペレーターとして従軍した。
そんな俺の戦争最後の任務──。
それは地獄側の司令官であるドラゴンにして悪魔カリギュラの暗殺だ。
当初は航空爆撃を誘導し、俺たちは信じられないほどの規模の爆弾を投下し、カリギュラを月まで吹き飛ばす予定だった。
しかし、空軍がしくじった。
やつらは間違った目標に爆弾を投下した挙句、敵に撃墜された。
だが、どうあってもそのときに俺たちはカリギュラを殺害する必要があった。
この機会を逃せばやつを殺す機会は失われるからだ。
そこで俺たちは仕方なく、手元にあった工兵用の梱包爆薬とパンツァーファウスト3対戦車ロケットを使って、やつに挑んだ。
その俺の決死の攻撃で、やつはくたばった。
梱包爆薬が炸裂して翼をもぎ、対戦車ロケット弾がやつの心臓を抉った。
そう、それでやつは死んだはずだった。
しかし、地獄からの侵攻が終わったわけではない。
やつがくたばっても地獄と地球はもはや引き剥がせない関係になってしまっていた。
まるで地面にくっついたガムみたいに。
熊本はもはや地獄の一部と化していたわけだ。
地獄が蔓延り、悪魔は居座った。
今もこの土地には地獄が満ちている。
そんな熊本にて──。
「ふふふっ。欲望に正直になるがいい、阿賀野よ。お前が望めば必ず与えられよう」
誘惑する女の声がする。
とても甘い囁くような声だ。
俺の目の前にはばらばらにされた肉片が、まるで地獄から沸き立つかのような炎で焼けている。
その地獄的な光景を前にして俺は息を飲んだ。
「……分かった。俺の望みを言おう。俺の望みは──」
ピンポンとチャイムが鳴る。
「ご注文ですか?」
「ああ。特上カルビを頼む。ふたり前な」
「畏まりました」
俺はじゅうじゅうと焼ける肉をひっくり返しながら言う。
「よしよし。肉を食べるぞ、肉を!」
俺の向かいで焼き網を囲んでいるのは、銀髪を背中に長く伸ばし、雪のように白い肌をアルコールで火照らせた20代前半ほどの美女だ。
強気そうな目には炎のように赤い瞳が輝いていた。
で、そいつがトングで肉を掻っ攫っていく。
「ああっ! それは俺が育ててた肉だぞ!」
「はーはっはっはっ! 早い者勝ちだ、阿賀野!」
がつがつと肉を貪りながらビールをぐびぐびと呷るその美女。
実にがさつ極まりない……。
「しかし、今回の仕事は儲かったな。簡単な人探しで700万とはな」
「わははっ! 大儲けだ!」
「お前は今回何もしてないだろ。遠慮しろよ」
俺がそう言うのに、美女が笑い、俺は渋々と次の肉をトングで焼き網に乗せる。
脂がぱちぱちと炎で弾けて、肉の焼ける香ばしい香りが漂う。
「それでな。その若者の親父である政治家先生からぜひ個人的に雇い続けたいとか言われたよ。『あの竜殺しの英雄ならば報酬は弾む』って言われてさ」
「おおーっ! 受ければいいじゃないか! 俺様は賛成だ!」
「断った」
「なんでっ!?」
俺があっさりとそう言うと美女が信じられないという顔をする。
確かに定期的な高収入というのは俺たちには魅力的だ。
だが、俺にはそれを断らなければならないという理由があった。
「俺は自由に生きたいんだ。気楽に、あまり大きな責任を抱えずに。それを政治家なんかにまた竜殺しの英雄として利用されるのはごめんこうむる」
カリギュラを撃破したのちに、俺は竜殺しの英雄となった。
それはもう大層持ち上げられた。
戦争を終わらせた勇者だとか、大悪魔を倒した傑物だとか。
だけど、結局はそれは俺を利用したいだけだった。
マスコミは視聴率のために、政治家は自分たちの政党や派閥のために、軍は広報のために、SNSはインプレ稼ぎのために、俺を持ち上げただけだった。
要は俺は体のいい客寄せパンダでしかなかった。
ほとほとそういう扱いにうんざりした俺は軍を辞めて、地獄に浸食された熊本で便利屋を始めたのだった。
「それに、だ。お前が問題になる。だってお前は──」
俺は焼き上がったカルビ肉を口に運ぶ。
ジューシーな肉だ。美味い。
「カリギュラだからな」
そうなのである。
この美女の正体は死んだはずのカリギュラなのである。
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