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Case.59 ゴブゴブ

……………………


 ──Case.59 ゴブゴブ



 仕事がない。


 あのコロンビアの麻薬カルテルが国外にオクソールの苗を持ち出そうとした事件から1カ月半が過ぎたが、俺たちに新しい仕事はなかった。


 俺たちの財布はどんどん冷たくなっていき、家計が心配になってくる。


「カリギュラ。いよいよ俺たちはこいつに手を出さなければいけないようだ」


「マジか……」


 俺がスマートフォンの画面を見せながら言うとカリギュラが渋い顔を浮かべる。


 スマートフォンの画面にあるのは犯罪紛いの怪しげなバイトの話──。


 ──ではなく、ゴブリン駆除の依頼だ。


「ゴブリン駆除か……」


「言いたいことは分かる。手間のわりに儲からないって言いたいんだろう。だけど、これ以外の魔獣の駆除の依頼だと、あるのはスライムだけだ」


「う~む」


 ゴブリン──。


 前にも言ったが、1匹5000円で駆除費用がもらえる魔獣だ。

 特に危険だとか、強いとか、賢いとかいうことはないのだが、人間を見ると猿のように素早く逃げるので駆除するのが大変。

 数時間追いかけ回してようやく1匹駆除ということも珍しくない。

 また手先が器用なので、罠の類を仕掛けても抜け出されることが多々ある。


 それでいて農作物を荒らし、農家に被害をもたらすので駆除対象になっている。


「ゴブリン駆除に何時間もかけるより、俺様は営業を頑張った方がいいと思うぞ」


「営業って何するんだよ」


「広告を出したり、インフルエンサーにSNSで絡んだり……」


「ダメダメ。そういう宣伝はしない。俺たちは堅実に仕事をするんだ」


「ぶーっ!」


 カリギュラが開設したアカウントは未だ飯の画像ばかりが上がっている。

 変な承認欲求がないのは安心だが、SNSの広告がそこまで役立っているとは思えん。

 今のところSNS開設で取ってきた仕事もひとつだけだし。


「とにかく、生活費のためにも稼がないといけない。仕事もせずにだらだらしているのは、精神衛生的にもよくないしな。というわけで、軍政局から出ているゴブリン駆除の仕事を受けます」


「あーあ」


 カリギュラは面倒くさそうにしていたが、もうこれは決定だ。

 1日でゴブリン4匹駆除すれば2万円。

 そう考えればそこまで悪い仕事でもない……はずだ。


「さあさあ。文句を言わずにお仕事だ。出かける準備しろ」


 俺はカリギュラにそう促し、俺たちは装備を整えて事務所を出た。



 * * * *



 それから俺たちは軽トラックで問題のゴブリン駆除依頼が出ている場所に向かう。


「ちわーっす。軍政局の依頼で来たものです!」


「おお。この度はよろしくお願いしますね」


 駆除依頼があったのはミカン農園のある場所で、農家らしき初老の男性と女性が出迎えてくれた。


 俺は名刺を差し出してから、周囲を見渡す。

 現場には広大なミカン農園が広がっており、今まさに収穫の時期だった。


「ゴブリンが出ると聞きましたけど、被害はすでに?」


「ええ。収穫前のミカンを食い荒らされてしまってですね。困っていますよ」


 そう言って老人は被害の様子を見せる。

 木々に実っていたミカンが半分ほど食い散らかされて地面に散らばっている。

 本当に酷い光景だ。農家にとっては地獄だろう。


「これは酷いですね。ゴブリンは何体ぐらい出ました?」


「それが夜中に押し入って食べていったみたいでしてね。私たちはその姿を見ていないんですよ。ただ、ほら、足跡が残っているでしょう?」


 俺が尋ねると老人は地面を指さす。


 そこには確かに足跡が残っていた。

 成人男性のものより遥かに小さい足跡だ。

 俺が見た限りでもゴブリンのもので間違いないと思われた。


「確かにゴブリンで間違いなさそうですね。じゃあ、サクッと駆除しますのでしばらくの間、室内にいてください。流れ弾や跳弾が危険ですから、駆除の間は農作業はお休みしてください」


「分かりました。ああ、それと……」


「どうされました?」


「昨日、猟友会の志茂さんが自分で駆除してやると言って山に入っていたんだけど、帰ってきてないみたいなんだ。よかったら探してくれるかい?」


「帰っていない……? ゴブリンの駆除に向かってですか?」


「そうそう。ゴブリンくらいならエアライフルでどうにかなるからって。けど、昨日から帰ってなくてねえ。山の中で足を滑らせたかもしれないから、駆除のついでに見て回ってくれないかい?」


「分かりました。注意しておきます」


 やれやれ。軍政局の動きが遅いから、市民は自分たちで魔獣や悪魔のトラブルを解決しようとして、逆にトラブルを起こすことがあるんだよな。


 今回も市民がゴブリン駆除に向かって、何かトラブルが起きている。

 猟友会の人間らしいから全くの素人ではないだろうが、魔獣は従来の害獣とは違う点もある。


「カリギュラ。銃を撃つときは気を付けろよ。山の中に人がいるかもしれないからな」


「合点」


 俺たちは猟友会の志茂という男性に注意しながら、山林に向かう。


「間違って俺様たちが撃たれたりしてな」


「それを避けるためにちゃんとこういうのを着てるの」


 俺とカリギュラは蛍光オレンジ色のジャケットを着ている。

 誤射防止のためだ。


 ただ、ゴブリンは人間と同じ3色型色覚を持つと言われているから、こういう服はゴブリンに対しても目立ってしまう。


「さて、ゴブリン狩りだ」


 俺とカリギュラはモスバーグM590散弾銃を持って山林の中へ。

 時間単位でどれだけゴブリンが駆除できるかで稼ぎは変わる。

 ちゃんと稼げるといいけど……。


……………………

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