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Case.57 チェンジリング

……………………


 ──Case.57 チェンジリング



 俺たちが探していた女夢魔(サキュバス)のアンジーは、バスルームの点検口から降りてきた。


 彼女は全裸だったので、バスルームにあったバスローブを渡す。

 アンジーはそれを羽織り、震えながらもバスルームを出た。


「ああ! 蓮君……!」


 そして、彼女は死体を見て呻く。


「お前が言っていた撃たれた友達ってのは彼か?」


「そうよ……。彼、まさか頭を撃たれていたなんて……」


 ということは、拷問が始まったときには、こいつはすでに隠れていたのか。


「何が起きたのか時系列ごとに教えてくれ。まずお前はどこでこの芦田と出会った?」


「……地獄から地球に出てすぐに彼と出会った。私が使ったのは熊本城ゲートで、彼は地獄から来る女夢魔(サキュバス)を探していたみたい」


 この熊本には複数の接続点──ゲートがある。

 そのひとつが熊本城ゲートだ。


「そして、芦田と出会ってからどうなった?」


「彼が遊ぶお金を出してくれるというから、ついていった」


「数日パーティ三昧。ナイトクラブで遊び、バーで遊び、それから?」


「記憶があいまいだけど、それからもうちょっと遊んでここに来た」


「じゃあ、どうしてこいつは拷問されている? どこであの連中とトラブった?」


「分かんないよ! ワーウルフと数名の人間がいきなり部屋に押し入ってきて! あたしはそのときバスルームにいたから、憲兵が来たと思って大慌てであそこに隠れたの!」


 アンジーは少し涙声で続ける。


「けど、あいつらは蓮君から彼のバッグがどこにあるのかを知りたがっていた! 『バッグはどこだ! バッグはどこだ! バッグはどこだ!』って何度も叫んでた!」


「バッグ……?」


 俺はスマートフォンでもう一度あのナイトクラブのパーティの写真を見る。

 そこには黒いキャリーケースが──ふたつあった。


「おい。まさかバッグってのはこれか?」


「分からないよ! あたしのバッグじゃないし!」


「落ち着け、落ち着け。結局、バッグの在りかをこいつは言ったのか?」


「……そこの連中がそれを知っていると思う」


 そこでアンジーは509号室の部屋の前に転がされているふたりの男に視線を向ける。

 結束バンドで拘束された男たちは俺たちの方を睨んでいる。


「お前ら、どうしてこいつのバッグを探していた?」


 俺が問い詰めても、男たちは無言で俺たちを睨むのみ。


「そういう態度ならばこっちにも手があるぞ」


 俺はそう言い、腰の後ろにつけていたホルスターから軍用ナイフを抜く。


「俺は喋りたくない人間の口を割らせる訓練を受けてきた。俺がこのナイフをちょいちょいと使えば、ペラペラとお喋りになる。もっとも喋ったあとにお前が生きているという保証はないけどな」


「ひっ……!」


 男たちはどちらも対尋問訓練を受けていないのだろう。

 俺のシンプルな脅迫に実に素直な反応を見せてくれた。


「だが、久しぶりの人間相手の尋問だ。間違ってすぐに殺しちまったらすまんな」


「ま、待て! 話す! 事情を話す!」


 そして、カリギュラに股間を燃やされた方の男がそう答える。


「バッグの中にはオクソールってドラッグを作れる植物の苗があるんだ! 俺たちはそれを受け取るはずだった! 地獄の連中から!」


「オクソールの原料になる苗……? つまり、お前らはその手の組織か?」


「……俺たちは……コロンビアの麻薬カルテルの使いだ……」


「はああ~……」


 犯罪組織と思ったが、まさか国外からの連中だとは。

 この熊本にもグローバル化の波が押し寄せているらしい。


「で、バッグの場所は見つかったのか?」


「ブツはここでは見つからなかった。ただやつは荷物を熊本駅前のコインロッカーに預けたと吐いたから、仲間が見に行った……」


「それがさっき出ていった車か」


 さっきホテルの駐車場を慌ただしく出ていったステーションワゴン。

 ナンバーを覚えておいて正解だった。


「アンジー。じきに憲兵がここに来る。未登録悪魔であることがまずいと思うなら、服を着て逃げる準備をしておけ」


「わ、分かった」


 別に憲兵は未登録悪魔を片っ端から撃ち殺しているわけではないが、未登録悪魔は基本的に憲兵を恐れる。

 恐れないのは銃火器で武装した憲兵を恐れない馬鹿か──あるいはよほど力に満ちた大悪魔だけだ。


「カリギュラ。俺たちは駅前のコインロッカーに向かうぞ」


「こいつらはどうする? 焼き殺しておくか?」


「ほっとけ。こいつらみたいな末端の馬鹿を殺しても、組織は壊滅しない。そいつらはあとで来る憲兵が取っ捕まえる。そして、刑務所で罪を償ってもらう」


「合点!」


 俺はカリギュラにそう言い、急いでホテルを出る。


 それから軽トラックに乗り込み、熊本駅前を目指した。

 熊本駅は今や壊れ切っている。

 駅としての機能はすでになく、電車は1両も走っていない。


 今も商業施設としての機能は少しだけ残っているが、それだけだ。

 かつては新幹線も通っていた大きな駅だったのに、今や見る影もない。


「見つけたぞ。あの車だ」


 俺たちはかつてタクシー乗り場だった場所で例の車を発見した。

 そこにはアサルトライフルで武装したワーウルフが1名いた。

 そいつは俺たちの軽トラックが接近してくるのを見ると、ぎょっとしながらもアサルトライフルの銃口を俺たちに向けてきた。


「カリギュラ!」


「任せろ!」


 俺の言葉にカリギュラはすぐに応じた。

 ワーウルフの尻尾が燃え上がり、やつが引き金を引いたアサルトライフルの銃口は俺たちから逸れる。


 そのまま俺は軽トラックをステーションワゴンの正面に止め、車を飛び降りると尻尾が燃え上がって悲鳴を上げているワーウルフを取り押さえに掛かる。


「てめえ! 何者だ!」


「善良な市民だよ、クソッタレ。お前の仲間はどこだ?」


「コインロッカーに向かった!」


 まだ間に合いそうだな。

 俺はHK45自動拳銃でステーションワゴンのタイヤを撃ち抜き、それからカリギュラの方に視線を向ける。


「さあ、検疫の時間だぜ、ベイビー!」


「おう! 税関業務だ!」


 この熊本からオクソールの原料になるような植物を出すわけにはいかんからな。


……………………

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