Case.56 急展開
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──Case.56 急展開
クレイジー・イワンから入った急報。
「電話の番号は? どこから掛けてきたんだ?」
『し、知らない番号だよ! けど、彼女の声だった!』
「落ち着け。助けてくれって以外には何と言っていた?」
『か、彼女はホテル・リバーサイド白川ってホテルにいると言っていた! それから友達が撃たれたって言っていたよ! ト、トラブルに巻き込まれているみたいだ!』
「分かった。すぐそのホテルに向かって調べるから待っていろ。お前は動くなよ。相手が銃で武装している人種なら、お前が来ても役に立たん」
『わ、分かった。待っているから、アンジーを頼むよ、便利屋さん……!』
ここでクレイジー・イワンが下手に動けば、銃で撃たれた人間が増えるだけというオチになりかねない。
二次被害を出さないためにもクレイジー・イワンには動くなと念を入れる。
「カリギュラ。アンジーはホテル・リバーサイド白川だ。すぐに向かうぞ」
「合点!」
ホテル・リバーサイド白川は文字通り白川沿いにあるビジネスホテルだ。
荒れた熊本におけるビジネスホテルにしては上等な部類に入り、県外から来た企業の人間がよく宿泊している。
その駐車場から慌ただしく車が出ていくのが見えた。
俺はそのナンバープレートに視線を走らせる。
県外ナンバーの黒いステーションワゴンだ。
スモークガラスになっており、中の様子は見えなかった。
「急ぐぞ。トラブルの予感だ」
俺とカリギュラは素早くホテルの中に入る。
最初に目に入ったのは、赤い血だまり。
まず警備員が撃たれており、フロントではホテルスタッフが撃たれていた。
俺たちはまず重傷に見えた警備員に駆け寄るが、すでに息はなかった。
「た、助けて……」
「待ってろ」
フロントの向こうにいたスタッフが声を上げると俺たちは彼に駆け寄る。
彼は足から出血していた。
不幸中の幸いで大きな血管は外れたらしく、出血はそこまで酷くない。
「誰にやられた?」
「わ、分からない。いきなり覆面をした連中が入ってきて、客のひとりのルームキーを寄越せと要求してきて……。警備員が取り押さえようとしたら、銃を……」
「その客ってのはこの写真の男と女か?」
俺はスタッフの足の止血を行い、カリギュラがスマートフォンの画面を見せる。
スマートフォンにはアンジーの友達と芦田という金持ちのボンボンの写真だ。
「そ、そうだ。この人だ。この男性と女性だよ」
「何号室に泊まっている? 無事なのか?」
「509号室だよ……。無事かどうかは……。ただマスターキーを持っていかれたから、もしかすると……」
「クソ。分かった。憲兵に知らせておく。すぐに救急が来るはずだ」
「ありがとう……」
スタッフは俺たちが足の傷を止血し、声を掛けたことで安心したようだ。
それから俺とカリギュラは509号室へと急ぐ。
アンジーが無事かどうかは分からないが、だからこそ今は急がなければ。
手当をすれば助かる状態かもしれないし、全くの無事かもしれない。
エレベーターで5階まで上がり、それから509号室を目指す。
509号室は突き当りの部屋で、エレベーターから真っすぐ行った場所にある。
扉は開かれたままで、人影が見えたので俺はHK45自動拳銃を抜く。
「──ブツはまだ見つからないのか?」
「──見つからない。どこにもないぞ」
男たちがそう言葉を交わしているのが聞こえた。
「カリギュラ。臭いはどうだ?」
「生きている人間が2名、死んでいる人間が1名、そして生きているか死んでいるか分からない悪魔のそれだ」
カリギュラがそう言う。
「オーケー。これ以上死人が出ないようにしよう」
「合点」
俺たちは慎重に509号室に向けて進む。
可能な限り足音を殺し、ゆっくりと509号室へ。
「──引き上げ命令だ。憲兵が来ている」
「──ああ。俺たちも引き上げよう」
そこでそう声がして、509号室の中からふたりの人影が見えた。
それからすぐにアサルトライフルで武装したふたりの男が部屋から出てくる。
ひとりはラテン系で、もうひとりはアジア系。
「なっ……!」
俺たちを見たその男たちの表情に焦りが浮かび、スリングで吊っていたアサルトライフルに手が伸びるが、それよりも俺たちの行動の方が速い。
「おらっ!」
俺は地面を蹴って相手に突撃し、地面に押し倒す。
「燃えろ!」
もうひとりにはカリギュラが股間に火を放った。
「なんだ、てめえら!」
「熱っ! あつつつっ! た、助けてくれ!」
俺に銃口を突きつけられた男が混乱しながら叫び、もうひとりは股間の火を消そうとのたうち回る。
「お前ら、この女夢魔を知っているな? それから連れの男も」
「クソ。憲兵か、てめえら?」
「違う。銃を持った善良な一市民だ」
俺はそう言うと男の手と足を結束バンドで拘束して地面に転がし、アサルトライフルは廊下の奥に蹴りやった。
「カリギュラ。そろそろ火を消していいぞ」
「あいよ」
もうひとりの男も結束バンドで拘束してから、カリギュラが火を消した。
男たちは落ち着くとスペイン語と日本語で俺たちに罵声を浴びせてくる。
「そいつらを見張っておいてくれ。俺は部屋の中を調べる」
「了解だ」
カリギュラは人間は2名生きていて1名死んでいると言っていた。
となると……。
「ああ、畜生」
部屋の中には拷問された痕跡を残した、芦田の死体があった。
指が切断され、顔は殴られ、そして脳天に鉛玉を一発。
「アンジー! アンジー! 生きてるか! クレイジー・イワンの使いだ!」
カリギュラは悪魔の臭いがすると言っていた。
もしかするとアンジーが生きているかもしれない。
すると、バスルームの方からがたがたと音がするのが聞こえた。
俺がバスルームを覗き込むと、天井の整備用点検口が動くのが分かった。
「アンジー?」
俺が声を掛けると点検口が開く。
「あ、あの連中はもう行った……?」
そこから顔を出したのは、俺たちが探していた女夢魔であるアンジーだった。
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