Case.55 バーテンダーはかく語りき
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──Case.55 バーテンダーはかく語りき
騒がしい音楽で満ちたナイトクラブ。
俺とカリギュラはそのクラブに聞き込みのために入った。
「賑やかだな。流石は8000円もするナイトクラブだ」
「ああ。8000円分の音楽だな。うるさいぐらいだ」
ナイトクラブは色とりどりの閃光が瞬き、爆音で音楽が流れている。
そして、そこでは踊り狂う人々がいる。
「さて、まずはあそこを当たるか」
ナイトクラブの中にあるバーに俺たちは向かった。
バーではミノタウロスがバーテンダーをやっている。
纏っているバーテンダー服が浮き上がるほど筋肉ムキムキで、いざってときは行儀のなってない酔っ払いをつまみ出す役割も兼ねているんだろうなと俺は察した。
「ヘイッ、兄ちゃん。聞きたいことがあるんだが、いいかい?」
「私とのお喋りがご希望でしたらドリンクの注文をお願いします」
「分かった、分かった。カシスオレンジをくれ。俺と相棒の分でふたつな」
「お待ちを」
おっかない図体とは違ってミノタウロスの接客は丁寧だった。
丁寧にカシスオレンジを作り、恭しく差し出してくれる。
「ありがと。で、お喋りしていいかい?」
「ええ。お客様、私にお答えできることであれば」
にこりと白い歯を見せて笑うミノタウロスのバーテンダー。
「ここにこの子が来ただろう? 誰かと一緒じゃなかったか?」
「……ああ。このお客様ですか。覚えていますよ」
「詳しく聞かせてくれ」
ミノタウロスのバーテンダーの表情に僅かに嫌悪が浮かぶ。
ここで何かトラブルを起こしたのだろうか?
「ここではドラッグを使用していても誰も咎めたりしませんが、度を越したお客様は困るんです。彼女たちは明らかにハイで、それはもう大変でしたね」
「そういう客は摘まみ出すんだろう?」
「普通はそうするのですが、お連れの方がそれなりの地位にある方でしてね」
おや? ここで新しい情報だ。
「地位のあるっていうのは?」
「企業の重役のその子息の方です。さっきの写真にも写っていますよ」
「どいつだ?」
「この方です」
バーテンダーはそう言って写真に写っていた若い男を指さす。
髪を赤く染めた20代後半の男性で、ラフなスーツ姿である。
見える範囲に入れ墨の類はないが、ゴールドアクセサリーや高級時計をごてごてと付けていて、まあ遊んでそうな雰囲気だ。
「本当に大騒ぎでしてね。他のお客様にも迷惑が掛かっていましたので摘まみ出したかったですが、オーナーが丁重に扱うようにという指示を出していましたので、そのまま楽しませておきましたよ」
そう言って肩を竦めるバーテンダー。
「この店で騒いだあと、どこに行ったか聞いていないか?」
「今度は飲みに行くと言っていましたね。ここでも散々飲んでいたんですが」
「具体的な店名は?」
「アッシュ&エンバーかネオン・グレイヴか、どっちにしようかって話し合ってましたよ。女夢魔の子たちは熊本に来たのが初めてみたいで、どっちも行きたいとか言ってましたっけ」
「助かった」
俺は余計に金を払っておき、空になったカシスオレンジのグラスを返す。
「お客様。少し気になったことがあるので、いいですか?」
「ああ。何だ?」
「彼女たちが騒いでいたときにどうにも物騒なお客様方が隣の席にいらっしゃってですね。あなたみたいに腰のホルスターの軍用の拳銃を下げているタイプの人たちです。トラブルを避けたいなら、絶対に近寄らないタイプの人種ですよ」
「この写真にそいつらは写っているか?」
「ええ。ここに見切れてますけど写っていますね」
写真の端に映っていたのは、ワーウルフの男と褐色の肌をしたラテン系の女だ。
バーテンダーが言ったようにふたりとも腰のホルスターに拳銃を下げている。
「こいつらは自分たちが何者かを言っていたか?」
「いいえ。私もただ見ていて気になっただけなので。すみません」
「そうか。改めて情報に感謝する」
俺はミノタウロスのバーテンダーに礼を言い、ナイトクラブを出た。
ナイトクラブの外に出るとそれまで鼓膜を殴っていたような音楽が遠のき、俺たちは顔を見合わせる。
「さて、アッシュ&エンバーとネオン・グレイヴを先に探すか、それともこの物騒なふたり組を先に探すか。どっちがいい?」
「俺様的にはバーを先に当たるべきだと思うぞ。まだこのふたり組に絡まれたとは決まってないからな」
「オーケー。だが、これからはこの写真に写っている全員についての情報を集めよう」
「合点」
俺たちはまずアッシュ&エンバーというバーを目指す。
それはナイトクラブから僅かに離れた場所にあり、ナイトクラブ同様に若者客が多い派手な雰囲気のバーだった。
七色のライトでライトアップされたバーの前には、屈強なリザードマンの用心棒。
「よう。聞きたいことがあるんだが、この子たち見なかったか?」
俺はそのリザードマンに声を掛けるとやつは威嚇するようにしゃっと鳴いた。
「俺はここを見張っているだけだ。危ない野郎が店に入らないようにな。いちいち客の顔なんぞ覚えてねえ。客について聞きたきゃ、中に入ってバーテンダーに聞け」
「ご親切にどうも」
用心棒はそう言い、俺とカリギュラは肩を竦めて店内へ。
「中もまたゴージャスだね」
「金持ちが多そうだな」
中にはブランド物のスーツや時計、バッグを身に付けた若者たちがぞろぞろ。
出されている酒もお高いものばかりなんだろうな。
俺たちは場違い感を覚えながらも、バーテンダーのいるカウンターに向かう。
バーテンダーは今度は人間で、恐らくは日本人だ。
「すまない。この店にこの子たちが来なかったか?」
俺はバーテンダーにスマートフォンの画面を見せてそう尋ねる。
「ええ。芦田様のお知り合いの方ですね。覚えていますよ」
「本当か? 彼女たち、ここで飲んでいった?」
「はい。しかし、スマートフォンを忘れていかれて。ご連絡を取ろうとしているのですが、連絡先をご存じではありませんか?」
「スマートフォンを忘れていったのか?」
「2日前から預かっております」
ふむ。これで2日前から連絡が途絶えた理由が分かった。
単にスマートフォンを忘れただけらしい。
「彼女たちが次にどこに向かったか、知らないか?」
「残念ながら。随分酔っておいででしたので、帰宅されたのでは?」
「だといいんだが……」
今ごろ二日酔いでふらふらしているだけならば、こっちとしても安心できる。
俺たちがそう思っていたとき、俺のスマートフォンに着信があった。
クレイジー・イワンからだ。
「どうした? こっちは連絡が途絶えた理由が分かったぞ」
『た、大変なんだ! アンジーから助けてくれって電話があった! 今さっき!』
「何だって?」
ここにきて事態は急展開を見せる。
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