Case.54 予想外のお客
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──Case.54 予想外のお客
その依頼が来たのは意外な人物からだった。
「や、やあ、便利屋さん……」
そう言って俺たちの事務所に姿を見せたのは俺たちの知っているバフォメット。
そう、クレイジー・イワンだ。
「やあ、じゃないぞ。どういう用事でここに来た?」
「おうおう。またオクソールを人間に売ったんじゃないだろうな?」
俺とカリギュラがふたりしてクレイジー・イワンを問い詰める。
「違う、違う! 断じて違う! あれから私も自己表現の在り方を改めたんだ!」
「でも、ヤクは今も売ってるんだろ」
「もっと安全なドラッグに切り替えたのだよ。野性的な自分を剥き出しにするのではなく、心の穏やかなる部分を表現できるドラッグだ。そう、草原がさざめくような心の安らぎが得られるドラッグだ」
「アッパー系からダウナー系に切り替えただけじゃねえか」
はあと俺とカリギュラはふたりして溜め息を吐く。
「で、俺たちに頼みたい仕事というのは?」
「……ある悪魔を探してほしいんだ。君たちは悪魔を探す仕事もしているのだろう?」
「しているが、探すかどうかはそっちの事情による。ドラッグ関係なら断る」
ドラッグを持ち逃げしたとか、金を持ち逃げしたとかで俺にその悪魔を探してほしいと言われるのはお断りだ。
それは間接的にだがドラッグの販売を助けているからな。
「違う、違う。ドラッグ関係ではないよ。実に個人的な事情なのだが……」
「説明してくれ」
事情を聞かねば仕事は受けかねると俺は言う。
「うむ。私の、その、彼女が地獄から遊びに来ているそうなのだが、まだ会えていないんだ。もしかしたら、トラブルに巻き込まれたんじゃないかと思っているのだが、私の立場では憲兵に頼むこともできない」
「彼女~? 本当に恋人なんだろうな?」
「ほ、本当だ! これを見てくれ!」
そう言ってクレイジー・イワンは俺たちにスマートフォンの画面を見せる。
そこには熊本市内のバーで撮影しただろう、クレイジー・イワンと女夢魔の写真があった。
「女夢魔か。この子の名前は?」
「アンジー。キラキラネームだけど、本人は気にしてるから言わないでおくれ」
アンジーってアンジェラの愛称だけど悪魔的にはキラキラネームなのか。
あ、そっかアンジェラって天使って意味だもんな。
子供に悪魔って名前つけるようなものか。
「いつ、地獄からこっちに来たんだ?」
「4日前だよ。地獄から地球に遊びに行くから、私のところにも寄るってメッセージが来たんだ。それなのに全然姿を見せなくて……」
「……もしかして、こっちでいい男を見つけたからお前は振られたんじゃ……」
「それならそれで一言ぐらいメッセージが来るはずだよ! それに3日前に送られてきたメッセージには私に会いたいって。ほら、これだよ、これ」
俺が邪推するとクレイジー・イワンは俺にスマートフォンの画面をまた見せる。
そこにはSNSでのやり取りがあり、アンジーという女夢魔から『パーティにあなたがいないと寂しい。早く会いたい』というメッセージがあった。
「……なあなあ。俺様が思うにこれって単にパーティでハイになりたいから、ヤクを持ってこいってだけの話なんじゃ……」
「そ、それでも喜んで私はドラッグを持っていくよ! けど、彼女はどこでパーティをやっているかも教えてくれていないんだ。そして、これが2日前だけど……」
今度はカリギュラが邪推するが、クレイジー・イワンは次のメッセージを見せる。
「これは……まさにパーティの写真か?」
「盛り上がっている様子だな。で、メッセージには『地☆球☆最☆高!』と」
俺とカリギュラがその写真を眺める。
SNSにアップされたその写真には数名の女夢魔と悪魔や人間の男が写っている。
「この後、全く連絡が取れなくて……」
「ふうむ」
クレイジー・イワンはそう言い、俺たちはじっとパーティの写真を見つめる。
「この場所をまずは特定すべきだろうな」
「う、受けてくれるのか!?」
「ああ。別に犯罪行為に加担するわけじゃなさそうだからな」
「ありがとう! 助かるよ、便利屋さん!」
こうして俺たちはクレイジー・イワンの仕事を受けることに。
「で、だ。ここがどこかを特定しなければな。最近こんな派手なパーティをやった連中がいれば、気づく人間もいるだろう。まずは聞き込みだな」
「ああ。歓楽街なのは間違いないだろう。早速行くとしようか」
俺とカリギュラはそう言葉を交わし、動き始める。
* * * *
まず俺たちが当たったのは、歓楽街について情報を持っていそうな連中だ。
俺たちは幸いにもそういうのに詳しいと思われる友人がいる。
「よう、オルガン」
「うわっ! 頭のおかしい便利屋!」
俺たちが声をかけたのはアビス・ファミリーの構成員である悪魔。
豚鼻の悪魔オルガンだ。
アビス・ファミリーの店で構成員とちょっとお喋りしたら居場所を教えてくれた。
やつは縄張りの見回り中らしく、もう膝のサポーターも外れて普通に歩いていた。
やっぱり悪魔というのは頑丈だな。
「な、なんだよ? お、俺に何の用事だ? ま、ま、また借金取りか?」
「いいや。聞きたいことがある。この女夢魔に見覚えはないか?」
「こいつ……?」
俺はオルガンにアンジーのSNSアカウントを見せる。
そこにあるパーティの写真をオルガンは首を傾げて眺める。
「この写真から分かることを何でもいいから教えてくれ」
「こ、この場所には心当たりがある。歓楽街にあるナイトクラブだよ。俺たちの縄張りじゃないが、前に遊びに行ったことがあるから知っている」
「住所を教えてくれ」
「あ、ああ。ここだよ」
俺が頼むとオルガンがスマートフォンのアプリで位置を示す。
「ありがとな。助かったぜ」
「あ、ああ。それは何より……」
俺はオルガンに礼を述べると、早速そのナイトクラブへ。
ナイトクラブは歓楽街の一角にあり、煌びやかな光が外に漏れている。
ハイテンポな音楽も聞こえてくるクラブを俺とカリギュラは眺める。
「はあ。随分と豪勢な場所で遊んでいたんだな」
「金はどうしたんだろうな?」
「確かに。金はどうしたんだ?」
こういう豪奢なクラブで遊ぶには金がかかる。
地獄から出たばかりの女夢魔がどこからそんな金を?
「トラブルの予感がするな。まずは聞き込みだ。アンジーを探すぞ」
「合点」
俺とカリギュラはそう言ってクラブに向かう。
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