Case.53 非正規作戦
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──Case.53 非正規作戦
俺の前に立つかつての上官──鮫浦中佐。
鮫浦中佐は俺が情報軍にいたときから黒い噂のする人物だった。
武器を犯罪組織に横流ししているとか、麻薬カルテルと取引しているとか。
その噂が事実なのかどうかは確かめていなかったが、火のない所に煙は立たぬって言うだろう?
「元中佐だ、阿賀野大尉。俺は軍を辞めた。もう一度聞くが竜殺しの英雄様がこんな場所で何をしている?」
「こっちも元大尉だ、鮫浦。俺たちがここにいるのは便利屋の仕事さ。軍政局からの依頼で熊本に流れた大量のロシア製兵器の出所を調査していた」
で、ここに行き着いたと俺は言う。
「お前はどうしてここで悪魔が絡んだ犯罪組織に武器を売っている? もう少しで憲兵が来るから、そっちとお喋りしてくれても別にいいんだが」
「俺は誰ともお喋りはしないぞ。憲兵が俺を捕まえることはない」
「逃げようってわけか? この状況で? 俺たちがかつてのよしみで逃がすことに期待でもしてるのか?」
「逃げる必要もない。俺のバックにいる人間が処理してくれる」
「バックにいる人間……?」
大きな犯罪組織が背後にいるということか?
いや、違う。鮫浦の言葉からは絶対的な免罪符を手にしているということが窺えた。
「イラン・コントラ事件って知ってるか、阿賀野?」
「……歴史の授業をしてもらう時間はないんだが」
「今回も似たような話だぞ。俺は悪魔どもに武器を売ることによって資金を得ると同時に情報を得ている。地獄の連中と信頼関係を築き、それによって地獄に対する諜報活動を実行している。と、ここまで言えば俺のバックに誰がいるかは分かるよな?」
「まさか……」
クソ。つまり、鮫浦は確かに軍を退役したのだろうが、それでも今も情報軍と繋がりがあるということだ。
やつの背後にいるのは情報軍であり、日本政府だ。
憲兵が来ると言われてもやつが余裕の態度を取っている理由が分かった。
憲兵に逮捕されても軍政局に圧力がかかって即釈放されるだろう。
クソッタレめ。
「というわけだから、これは必要悪だと思ってくれ。悪いな、阿賀野」
そう言ってにやりと笑う鮫浦。
「それより、どうだ。俺たちと組まないか? 俺もお前みたいな優秀な元情報軍のオペレーターがいてくれると仕事がやりやすくなる。ましてお前は竜殺しだ。その能力に見合った報酬も弾む。それこそ東京のタワーマンションの最上階で優雅に暮らせるぜ」
その鮫浦の提案にカリギュラが目を輝かせた。
このまま鮫浦について定期的な高収入が得られれば、俺たちの暮らしは激変することは間違いないだろう。
それこそボロアパートからお洒落なタワーマンションに引っ越せる。
だが──。
「ごめんだね。お前の馬鹿みたいに相手を選ばず売ったカラシニコフで俺は殺されかかったんだぞ」
「おいおい。何の冗談だ? お前は死なない。そうだろう?」
「死にはしないが、痛いものは痛い。それに大物がバックにいて免責されようと俺はお前のやっていることは気に入らない」
完全に俺個人の感情だが、鮫浦がやっていることを俺は気に入らなかった。
バックに日本政府がいて、竜殺しとしても俺を利用したがっている。
それも犯罪紛いの行為に、だ。
それなら大人しく客寄せパンダでもやっていた方がよっぽどマシだぜ。
「そうかい。残念だよ。気が変わったら連絡してくれ。SNSのアカウントはもう知ってるんだろう?」
「ああ。連絡することはないだろうがね」
俺は鮫浦に中指を立ててそう言い、コンテナヤードから撤退した。
遅れて憲兵隊の軍用四輪駆動車とヘリが八代港に入ってくるのが見えた。
「阿賀野さん。通報、感謝します。武器取引について突き止められたのですね」
軍用四輪駆動車には石川が乗っており、俺に声を掛けてくる。
「……ああ。だが、俺たちの手出しできない相手だ」
「……情報軍ですか?」
「知ってたのか?」
「容疑者の候補として考えてはいました。ですが、本当に?」
「取り調べてみればいい。きっと軍政局に圧力がかかるぞ」
「そうですか……」
俺の言葉に石川は険しい表情を浮かべる。
「一応やるべきことはやっておきます。改めて通報に感謝します」
「俺たちは報酬が貰えればそれでいいよ」
「あとで軍政局に。そこでお渡しします」
「ああ。それから現場にいるヤクザは俺たちの協力者だ。拘束しないでやってくれ」
「ははは。あなたも随分と人脈が広いですね」
俺と石川はそうやり取りし、憲兵隊はコンテナヤードに突入していった。
「おい、阿賀野!」
そこでカリギュラが俺のケツに蹴りを入れてきた。
「あうちっ! てめえ、何しやがる!」
「儲け話を断るのはこれで2度目だぞ! 受ければよかったじゃないか!」
カリギュラはそう俺に向けて怒り心頭で叫ぶ。
「やだよ。いくら国家公認で稼げても犯罪紛いな仕事だぜ? 確かに鮫浦本人は免責が受けられるかもしれないが、俺たちまで面倒見てくれる保証もない」
俺は一生刑務所に叩き込まれ、お前は登録悪魔として資格抹消で地獄に強制送還かもしれないぞと俺は言う。
「むう」
俺にそう指摘されるとカリギュラは黙り込んだ。
「この仕事が終わって100万稼げたんだから、それで良しとしようぜ。金が渡されたら焼肉だ」
「焼肉! やったー!」
俺たちは下手に犯罪に手を出さなくても食べていけているし、満足している。
犯罪を犯してタワーマンションの最上階に暮らすぐらいなら、便利屋を続けてボロアパートで暮らす方を選ぶね。
* * * *
後日、俺たちは軍政局の石川のオフィスを訪れた。
「阿賀野さん、ご苦労様でした。報酬はこちらの方になります」
「おおーっ!」
80万円という大金が俺たちの手の中に入った!
「だけど、あれからどうなったんだ?」
「阿賀野さんのご想像通りですよ。軍政局に圧力がかかり、その日のうちに釈放です。これ以上の調査を行うなと軍政長官直々に命令がありました」
「そうか。残念だったな」
「いいのですよ。少なくとも武器の供給をある程度コントロールしている人間がいると分かっただけで」
俺の言葉にそう返す石川。
「それならいいんだが……」
「どの道、これ以上の調査は行えません。ゲームセットです」
「分かった。じゃあ、また何か仕事があれば連絡してくれ」
「ええ。そのときはまたお願いします」
鮫浦の言葉ははったりなどではなかったと証明された。
情報軍は地獄について探りを入れるために、鮫浦の行動を容認している。
しかし、ここまでして情報を集める必要があるというのは嫌な感じだ。
「さて、カリギュラ。約束通り、焼肉に行くぞ!」
「おおっ!」
もし、情報軍が想像している最悪の事態が起きた場合──。
俺たちのこのささやかな幸せが維持できなくなる日が来るのだろうか?
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