Case.52 死の商人の正体
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──Case.52 死の商人の正体
俺たちは取引が行われる前に八代港に侵入した。
俺とカリギュラは地獄戦争で流出したマルチカム迷彩の戦闘服を纏い、指定された取引場所である八代港の埠頭を見張っている。
俺が手にしているのはM110A1狙撃銃。
いつも使っている口径5.56ミリNATO弾を使用するM27 IARアサルトライフルより大口径の口径7.62ミリNATO弾が使用可能な代物だ。
今回は広い港での戦闘になるのでこいつを持ってきたが、そもそも撃ち合いにならず制圧できるのが一番いい。
俺は別に銃で人や悪魔を撃ち殺すのが好きなわけじゃないし。
何事も平和的に解決するのが一番だ。
もっとも武力をちらつかせた方が流血が少ないなら俺は躊躇せずそっちを選ぶ。
「カリギュラ。動きはあるか?」
「ないぞ~。静かなものだな~」
俺は双眼鏡と高倍率光学照準器で港の動きを見張る。
カリギュラは港に巣くう低位魔獣によって港全体の動きを把握している。
八代港は熊本の最大の港であり、平和な時代にはクルーズ船も寄港していた場所だが、戦争によって完全に荒廃してしまっている。
今も一応は企業の海運拠点として利用されているが、軍政局による法の統治が及んでいる場所ではない。
というのもここを利用している表向きは合法的な企業の連中にも後ろめたいことがあり、それを探られたくはないのだ。
法律で熊本からの持ち出しが禁止されている地獄産の品や、軍政局に許可されていない民間軍事会社の装備などなど。
そうであるがゆえに武器取引が行われていてもおかしくはない場所だ。
「車が来た。見えるか、カリギュラ」
俺たちのいる場所から距離にして600メートル。
そこに車両が現れた。
「ああ。黒の車だな。俺様たちの軽トラより立派なやつだ。羨ましいな~」
「黒のSUV。監視を続けるぞ。ビンゴかもしれない」
前日から港に陣取っている俺たちは軍横流しのファースト・ストライク・レーションを貪りながら、さらなる動きが起きるのを待つ。
黒のSUVからは2名の男と1名の女が下りてきた。
男の片方はアサルトライフルで武装しており、女の方は個人防衛火器で武装している。
明らかに堅気の人間じゃない。
「取引開始時間まで残り1時間だな」
「新煉獄組の連中は来るのかね~?」
「来なかったら、あとで酷い目に遭わせてやる」
この取引を押さえるには新煉獄組の協力が必要だ。
連中が裏切ったら、俺たちの作戦はパーになってしまう。
「取引開始まで残り30分」
「新煉獄組の連中、来ないぞ? どうする?」
「もう少し待とう」
俺たちは監視を続行。
新煉獄組が来なければ、あの連中が問題の兵器ブローカーなのか分からない。
「おっ! 来たぞ。新煉獄組の車だ」
黒のセダンが1台とバンが2台。
港のゲートを潜って走って来たのが見えた。
「オーケー、オーケー。憲兵に通報する準備を」
「合点」
カリギュラはそう言い、憲兵に通報する準備を整えた。
「新煉獄組の連中が男たちと話し出した。コンテナのひとつに案内している」
先に来ていた非武装の男が、新煉獄組の構成員と会話を始め、コンテナの方に案内していくのが双眼鏡で見えた。
「どうする?」
「憲兵が来る前に取り押さえる。それだけだ」
憲兵が来るのには時間がかかるだろう。
それまで俺たちが王夏を押さえるのである。
「さて、踏み込むぞ。お前はいつも通りに援護を頼む」
「任せろ!」
俺たちは陣取っていた倉庫の上階から駆け降りると、コンテナの並ぶコンテナヤードに向けて慎重に駆ける。
「なあなあ。間に合うのか?」
「新煉獄組の連中にはなるべく取引を引き延ばすように言ってある。もし、連中が当てにならなくても、俺たちが連中を逃がさない」
「ふふっ。ちょっと楽しくなってきたぞ」
俺たちは確実に取引現場に近づく。
「カリギュラ。悪魔の臭いはするか?」
「新煉獄組の連中の臭いだけだ。あとは人間の臭いだな」
「ふむ」
新煉獄組や他の犯罪者に武器を売っているのは、悪魔ではなく純粋に人間らしい。
まあ、地球製の兵器を密輸できる立場と言えば、人間だろうから別におかしくはないのだろうが。
しかし、何ぁがどうに引っかかる。
第六感というか、これまで経験してきたことから来る虫の知らせというべきものか、そういうものが俺に注意しろと訴えていた。
「カリギュラ。王夏も他のメンバーも殺すなよ。生け捕りにして話を聞く」
「分かってるよ」
俺はカリギュラに念を押してから、コンテナヤードに踏み込んだ。
兵器ブローカーの連中は、ここにあるコンテナのひとつに新煉獄組の連中を案内していた。
「阿賀野。人間の臭いが濃くなった。近いぞ」
「了解」
俺たちは慎重に前進する。
素早くクリアリングして死角を潰しながら、コンテナの影からコンテナの影と移動していく。
「かなり近い。すぐそこだ」
「ああ。音がする」
俺の耳にも人間の声が捉えられた。
男たちが会話している声だ。
「この先のコンテナだな。3カウントで踏み込むぞ」
俺はカリギュラにそう指示し、3カウントを開始。
3────。
憲兵はまだ来る様子はない。
2────。
俺は銃のグリップを握りながら違和感について考える。
1────。
デジャヴのような感覚を覚える。
0────。
「動くな!」
「動いたらぶち抜くぞ!」
俺とカリギュラは大声を上げてコンテナの方に踏み込んだ。
武装した女と男がすぐさま銃口を俺たちに向けてくる。
男の方はアラブ系、女の方はアジア系の顔立ちだ。
そんな外見的特徴がはっきり分かる距離で俺たちは銃を突きつけ合っている。
だが、お互いすぐには発砲しない。
銃口の先にお互いを捉えながら、俺たちは対峙する。
「何があった?」
ここでコンテナの中から男の声がした。
俺はその男の声に聞き覚えがあった。
「王大人。招かれざる客がいます」
「どこのどいつだ?」
アラブ系の男が言うと、コンテナの中からひとりの男が姿を見せた。
黒髪をオールバックにした中肉中背の40代ほどの男。
「おっと。こいつは……」
「おいおいおい。なんでまた……」
俺たちは顔を見合わせて思わずそう声を出す。
「阿賀野篤大尉。なぜここにいる?」
「鮫浦才人中佐。それはこっちの質問だ」
俺の前にいたのは、かつての俺の上官であり情報軍中佐である人物だった。
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