Case.51 レッツ、フィッシング!
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──Case.51 レッツ、フィッシング!
翌日、俺たちは問題のレストランに向かった。
もちろん俺とカリギュラが金を持っていくわけじゃない。
金を持っていくのは盗聴器を付けた新煉獄組の構成員であり、すでに何度か王夏という兵器ブローカーと取引したことのある悪魔だ。
俺とカリギュラは時間をずらしてレストランに入り、少し離れた席に座って取引の様子を窺う。
怪しまれないように俺はコーヒーを注文し、カリギュラはカレーセットを頼んだ。
がつがつとカレーを貪るカリギュラは放っておいて、俺はコーヒーを飲みながら新煉獄組の構成員の様子を窺う。
少しでも怪しまれれば自分の命が危ういことはやつも理解している。
王夏が噂通りの節操なしならば、殺しを躊躇う理由はないのだから。
流石に堅気の店でいきなり銃を抜くことはないだろうが……。
「阿賀野。このカレー、美味いぞ!」
「そうみたいだな……」
カリギュラの食べているカレーの匂いは香ばしいが、今はそれどころじゃない。
予定の午前11時まで残り5分程度だ。
俺はコーヒーをゆっくりと味わいながら、情報軍仕込みのメンタルで平静さを保ち、兵器ブローカーの使いが現れるのを待った。
そのときだ。
新煉獄組の構成員の席に、ひとりの人間が現れた。
アジア系の男で年齢は20代前後。
上下ともにジャージ姿だ。
その男が何を口にするのかを、俺は盗聴器に繋がったインカムで聞き取る。
『金は持ってきたな?』
『ああ。ここにある』
『あとで確認する。王大人はそちらを信頼しているからな』
金の詰まったアタッシュケースを受け取ると早速席を立つジャージ男。
「カリギュラ。相手が動いた。俺たちも動くぞ」
「え! 俺様、まだカレー食べているんだが……」
「時間切れだ。さあ、席を立て。追うぞ」
俺は有無を言わさずカリギュラにそう促し、やつはしぶしぶと食べかけのカレーを残すと席を立った。
それから会計を手早く済ませ、俺たちは外に。
レストランの外ではジャージ男がアタッシュケースを手錠で自分の手に固定して、熊本市内を南下していた。
「車ではないのか……?」
1250万の現金が詰まったアタッシュケースをこの物騒な熊本で徒歩で持ち歩くとは、蛮勇にもほどがあるだろう。
地獄戦争以前ですら高額の現金はしっかり警備された車で持ち歩いたというのに。
俺たちはそんなジャージ男を付けていく。
通常、尾行というのは少人数でやるものじゃない。
後を付ける人間、先回りする人間、待ち伏せする人間などと複数の役割に分かれるからだ。
だが、今の俺たちはふたりでジャージ男を追っている。
正直、こっちも無謀なことをしていた。
俺は取引相手が車で移動するだろうと考え、そのナンバーを控えようと思ったのだが、相手はまさかの徒歩だ。
クソ。車のナンバーが分かれば、それを憲兵に通報することもできたのだが……。
「カリギュラ。やつの臭いを追ってくれ。やつはどこかで絶対に車に乗るはずだ。そこまで追いかけられればいい」
「合点だ」
幸いこっちにはカリギュラがいる。
カリギュラの嗅覚があれば、多少の人数の不利はどうにかなる。
俺たちは熊本の薄汚れた通りを進み、ジャージ男を追う。
曲がり角から曲がり角に。
建物の中から外に。
尾行を撒くのを得意としている人間の動きだ。
これが初めてというわけでもないだろう。
訓練されているという新煉獄組の言葉は嘘ではなかったようだ。
それにこの動き、どこか情報軍の訓練所で叩き込まれた動きを思い出させるような気がする……。
いや、この手の尾行を撒く手段というのは、どこも似たり寄ったりなのだろうが。
しかし、俺たちはぴたりと追い続ける。
「おっと」
そこでジャージ男が不意に走り出した。
だっと地面を蹴って路地に飛び込む。
「強引に撒きに来たな。可能な限り追うぞ」
「合点」
俺たちは走り、ジャージ男を追った。
アーケード街を飛び出したとき、車のエンジン音が近づいてきた。
バンッと扉が開く音がすると、ジャージ男が車に飛び込むのが見えた。
「クソ。ここで車と合流か……!」
俺は走り去ろうとする車のナンバープレートに視線を向けた。
ナンバーは県外ナンバーで、その番号を俺は記憶する。
「よしっ。覚えた。この番号は後で控えておいて、憲兵に知らせよう」
「今すぐに知らせないのか?」
「今知らせて下手に憲兵に動かれたら、取引が台無しになる。王夏が出てくるまでは、取引は上手くいっているように思わせないといけない。まだまだ釣り糸を引き上げるには早い」
「分かった。それでは次にやることは──」
カリギュラが真剣な表情をして言う。
「カレーを食いに戻ろうぜ。俺様は走ったせいで腹が減ったよ」
* * * *
それから俺たちはもう一度あのレストランに戻ってカレーを食べにのちに再び新煉獄組の事務所に戻った。
「金は払った。ブツの受け取りはいつだ?」
「連絡があった。明後日の深夜1時に八代港だ」
王貴人は俺の質問にそう答える。
「よしよし。お前らは報復に備えておけ。相手は恐らくデカい組織だ。取引現場に現れて憲兵に取り囲まれたら、まずお前たちを疑う。もしかすると、腹を立てて事務所に機銃掃射でもかますかもしれない」
「そ、そんな」
「手を貸すと言ったのはお前たちだぞ? 安心しろとは言わないし、同情もしないが、憲兵に保護してもらえるように頼んでもいい。そういうのを頼める憲兵がいる」
「はあ。いざとなったらお願いするよ」
俺たちに兵器ブローカーを掴ませると提案したのは、新煉獄組の方だ。
悪党が悪党を売っただけ。
だが、流石に完全に見捨てるのも寝覚めが悪い。
こいつらが望むなら、石川に保護を頼んでみてもいいだろう。
「じゃあ、俺たちは先に八代港に潜入しておく。お前たちのことはちゃんと憲兵に説明してやるから、取引現場には来いよ。お前たちが来ないと、王夏が出て来ない可能性もあるからな」
「分かった、分かった。ちゃんと取引はするよ」
ため息交じりに頷く王貴人。
「それでは狙った獲物を釣り上げてやろう」
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