Case.50 インターネットショッピング
……………………
──Case.50 インターネットショッピング
俺たちは新煉獄組にロシア製兵器を販売していた兵器ブローカーを取り押さえるために、作戦を立てている。
「まず兵器ブローカーに注文してもらう。そうだな。カラシニコフを50~60丁ってところだ。それから品ぞろえも確認したいとも注文したい」
「あ、ああ。お安い御用だ」
「待った待った。注文はどうやって行う?」
「と、匿名SNSだ。これだよ」
そう言って王貴人が見せたのは、以前ラプラス──こいつを覚えてるだろうか? 以前、女夢魔に男たちを襲わせていた疑惑がある女悪魔だ──も使っていたSNSのアカウント画面だった。
アカウントは王貴人のもので、プロフィール欄には自己紹介はなく、絵文字と記号が書かれているだけ。
恐らくその記号はヤクザとしての商売を示すものなのだろう。
昔、ドラッグを扱っている人間が絵文字でやり取りしているのを見たことがある。
「SNSなんぞで連絡を取って武器を取引していたのか? 呆れた!」
「このSNSは匿名性が高いから……。事実、憲兵もこれまで口を挟まなかった」
「知ってる。そいつには憲兵も手を焼いていたよ」
そのSNSの匿名性の強度には、憲兵も手が出なかった。
そのせいでラプラスを特定できなかったのだ。
「まあ、いい。SNSで連絡を取って、取引は八代港か?」
「ブツは八代港だが、やつは先払いを好む。先に現ナマを渡さないと姿を見せない」
「厄介だな。慎重な犯罪者ってのは困るぜ……」
いかなる場合でも敵は賢いより馬鹿であってくれた方が助かる。
「金はどこで渡すんだ?」
「熊本市内だ。あるレストランが取引場所になっている」
「ほう。お前らの息がかかったレストランか?」
「いいや。どこかの犯罪組織に所属しているとは聞いていない」
「じゃあ、お前ら堅気の店で危ない取引してんのか?」
「そ、そうなる……」
なんとまあ、呆れた。
堅気の連中をこういう危険な犯罪者が関与するビジネスに関わらせないのがヤクザだと思っていたのだが。
「今はそれは置いておくとして、現金を受け取るのは誰だ?」
「兵器ブローカーの部下だ」
「そいつの後をつけたことは?」
「あるが、いつも途中で撒かれる。あいつらは妙に慎重なんだ。何というか、訓練されているとでもいうべき動きだ」
「訓練されている、ね」
相手が訓練されているのか、それとも新煉獄組の連中が素人なのかは分からないが、まずは金を持っていく人間を追うべきだろうと俺は考えた。
「じゃあ、金を準備しろ。取引にやつを誘い出す」
「……あの、金は取引に後で返ってくるのかい?」
俺が言うと王貴人が俺の方を上目遣いで見てそう言う。
「ああ? 金を出したくないってか?」
「そ、そういうわけじゃ……! ただうちもそこまで資金が潤沢ってわけでもないからさ。返ってくる金はあるに越したことはないというか……」
王貴人は俺に対してそう主張する。
確かにこいつらに金だけ出させると、あとで恨みを買いそうだが、俺たちは代わりの金を持っているわけじゃない。
「取引現場は憲兵に通報する。憲兵が押収したあとで金は返してくれるかもな」
「そ、そうか」
「あまり期待はするなよ。お前が俺たちに協力したいというから、協力させているんだ。分かってるよな?」
「わ、分かっている」
王貴人が必死に頷くのを見て、俺たちが悪党みたいでちょっと心が傷んだが、そもそもこいつらが招いた問題だ。
こいつらが流したカラシニコフのせいで俺は撃たれ、石川には市街地で銃撃戦をするなとお叱りを受けたのだから、同情する必要はない。
「では、作戦開始だ。注文を出し、やつに金を渡し、港にやつを引き寄せる。上手くいけばお前らは憲兵から表彰状を貰えるぞ」
「善良な市民としてな!」
俺とカリギュラはにやりと笑ってそう言い、王貴人は渋々と言うようにSNSで兵器ブローカーのアカウントにメッセージを送った。
* * * *
王貴人のSNSアカウントに返信はすぐに届いた。
王貴人がAK-74アサルトライフルを50丁注文したいというのに、250万で売るというメッセージが返って来たのだ。
王貴人はそれに対して他の商品にも興味があるとメッセージを送る。
「どうだ?」
「……やつからカタログが送られて来た。これだ」
そこにあったのはKord重機関銃や、RPG-29対戦車ロケット、果ては同じくロシア製の地対空ミサイルやイスラエル製の徘徊型自律兵器まで、物騒な兵器の類がずらずらとだ。
「これ全部扱ってるのか……?」
「少なくとも今までやつが提供できると言った品は必ず提供してくれている」
「マジかよ」
王貴人の言葉に俺は唸りながらカタログを眺める。
本当にその兵器ブローカーがこれらの品を扱っているならば、そいつは内乱どころか戦争が起こせそうなほどの装備を抱えていることになる。
そんな人間が無節操に悪魔や犯罪組織に武器を売り捌いてるのは、ちょっとばかりぞっとするな。
そりゃあ俺とカリギュラだって本来なら違法な武器を山ほど抱えている。
だけど、それを売ってくれた人間は無節操にはばらまいていないし、俺たちも無闇に他人に武器を渡していないしな。
そこら辺のラインはちゃんと引いている。
その点、こいつは厄介な相手だ。
「じゃあ、このMANPADSを注文してみてくれ」
「この9K38イグラ地対空ミサイルってやつかい?」
「そうだ。商品をちゃんと持ってこれるか、確かめてやろう」
「わ、分かった」
王貴人は俺の指示で地対空ミサイルを注文。
それからすぐに値段の交渉が来た。
「相手は1基で1200万円だって言っている。どうするんだい?」
「一応値切ってみろ。あまり素直でも怪しまれる」
俺はそう王貴人に言い、彼女はカラシニコフとセットの注文だということで1000万円まで値引き交渉をした。
アサルトライフルとセットで1250万円の買い物だ。
「じゃあ、注文は確定だ。金を準備して、やつに渡せ。取引場所には俺たちも向かう。いいか。ここまで来て裏切ろうなんて考えるなよ?」
「わ、分かってるよ。あんたらを裏切ったりしない」
王貴人たち新煉獄組の構成員たちは必死に頷き、俺たちは金を準備する。
アタッシュケースに札束が詰め込まれていく。
「……なあなあ、阿賀野。この仕事に成功したら、あの金……」
「ダメだぞ、カリギュラ。どうせろくでもない経緯で稼いだ金だ。俺たちの手に入ってもトラブルに繋がるだけだからな」
「ちぇっ!」
カリギュラは金の持ち逃げを考えたようだが、俺は首を横に振る。
「やつから連絡があった。いつものレストランに明日の午前11時だと」
「オーケー。ところで、その兵器ブローカーの名前は?」
ここまで俺たちは兵器ブローカーの名前を聞いていなかった。
しかし、取っ捕まえるなら名前を知っておいた方がいいだろう。
「ああ。やつの名は王夏だ。偽名だろうがね」
王貴人は俺の問いにそう答えたのだった。
……………………




