Case.43 迷惑行為等防止条例
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──Case.43 迷惑行為等防止条例
深刻なまでに仕事が必要だ。
俺たちが黒川温泉の僅かなバカンスから帰ってきて3週間。
俺たちには仕事がなかった。
「ああー……。仕事がないな……」
メールボックスを何度も更新するが、何も新しいメールは来ない。
迷惑メールは毎度のように来ているのだが。
「阿賀野~? 仕事はないのか~?」
「ない。SNSの方はどうだ?」
「一生懸命更新してるけど、何の反応もないぞ~……」
そう言ってSNSのアカウントを俺に見せるカリギュラ。
アカウントにはこの前の黒川温泉の写真以降もずっと飯の写真が載っている。
黒川温泉のときには旅館の写真と飯・飯・飯……それから1枚だけ浴衣姿のカリギュラの自撮り。
カリギュラは悪戯っぽい表情でにんまり笑って旅館の窓から見える景色と自分を撮影していた。
幸いそこに俺は写っていない。
「おい。SNSで顔出しするなって言っただろ。危ないぞ」
「どう危ないんだよ?」
「ストーカーとかが出るかもしれないぞ」
カリギュラは見てくれだけならばモデルのスカウトがかかるぐらい美女だ。
悪意のある連中がちょっかいを出す可能性はある。
その場合、ちょっかいを出す人間の方が危ないのだが……。
「わはは。それは俺様が魅力的だということか」
「うるさい。痛い目に遭っても、遭わせても、困るのはお前だぞ」
俺たちがそんなことを話していたときメールの着信音がした。
「おお? 仕事だ!」
「何の仕事だ? 稼げるやつか?」
「これは……ストーカーに悩まされています?」
そのメールにはまさに俺たちが話していたストーカー被害についての相談が記載されていた。
* * * *
「依頼主は新谷翠、25歳女性。職業は飲食店従業員」
俺は軽トラックで現場に向かう中で、カリギュラにそう説明する。
「彼女が悪魔によるストーカー被害を訴えている」
「ふうん? どんな悪魔による被害だ?」
「分からん。詳細は会って話す、とさ」
メールの文面にあった情報はこれぐらいだ。
詳細は喫茶店で話すということであった。
「そろそろ着くぞ」
俺たちは市内にある喫茶店に到着した。
一度は戦場になった熊本にしてお洒落な喫茶店だ。
「ええっと。彼女だな」
俺たちは喫茶店で、その人物を見つけた。
人工的に染めた茶色の髪をショートボブにした小柄な女性だ。
待ち合わせで話し合った通りにテーブルに座っていたので間違いないだろう。
「こんにちは。ご相談を受けた便利屋の阿賀野ですが」
「ああ! こんにちは、新谷です。今回はよろしくお願いします」
俺がそう言って声を掛けると、新谷は立ち上がって頭を下げ、向かいの席を勧めた。
俺たちは新谷の向かいの席に座り、名刺を渡した。
「阿賀野さん。依頼の件なんですけど……」
「悪魔によるストーカー被害でしたね。憲兵には相談されましたか?」
「しました。けど、彼らは全然力になってくれなくて……」
まあ、そうだろうな。
人食い魔獣や連続殺人鬼が出ても民間に任せる憲兵が、一個人のストーカー被害にまで出動するはずもない。
「では、詳細をお聞きしましょう。被害はいつから?」
「2週間ほど前からです。最初は気のせいかと思ったんですが……」
「被害の詳細を教えてもらえますか?」
「はい。まずは職場の帰りに尾行されていたんです。職場から家までずっと後を付けられて……」
「尾行? 間違いなく?」
尾行に気づくには、それなりに観察眼がいるのだが。
「ええ。目立つ格好をしていましたから間違いありません」
「目立つ格好とは?」
「灰色のローブ姿だったんです。映画の魔法使いが着ているみたいな」
「ローブ姿のストーカー……?」
えらくトンチキなものが話に出てきて俺とカリギュラは顔を見合わせる。
「おかしいことは分かっています。けど、本当なんです。信じてください!」
「だ、大丈夫です。信じますから、話を続けてください」
「はい。ローブ姿のストーカーは最初は尾行してくるだけだったんですが、4日ほど前に家の扉の前に立っていたんです。私の帰りを待つみたいにじっと……。そして、ついに昨日、私が仕事に出ている間に家の中に侵入された痕跡があって……」
「ふむ。それは深刻ですね……」
「ただ、そのときに撮影した映像があるんです。これを見てもらえますか?」
そう言って新谷は俺たちにスマートフォンを見せる。
お洒落な緑色の宝石のストラップが付いているスマートフォンだ。
「そのストラップ、お洒落ですね」
「ありがとうございます。少し前にリサイクルショップで見つけたんですよ」
俺が褒めると新谷はそう言って笑う。
それから俺たちはスマートフォンの画面を見た。
「これです。侵入者の足跡なんですが……」
「こいつは……」
それは人間のものだろう足跡ではあった。
ただ生きている人間のそれとは思えないものだ。
泥で汚れた床に残っていた足跡は人間の足の骨の形をしていた。
「これで悪魔絡みのストーカーだと思ったんですが、どうでしょうか……?」
「確かに。これは悪魔が関係していそうですね。どう思うカリギュラ?」
俺はこの足跡に心当たりがないが、カリギュラに尋ねてみる。
「スケルトンの可能性もあるが、こういう痕跡を人工的に作ってお前を脅かしてやろうと思った人間の仕業かもしれない。一度現場に行ってみなければ分からんな」
カリギュラは写真だけでは分からないと言う。
俺も写真だけではまだ断定できないという点では同意だ。
「このカリギュラは悪魔については専門家です。現場を見れば分かることもあるでしょう。今後の対策を立てるためにも、自宅を見せてはもらえませんか?」
「分かりました。ご案内します」
そう言って新谷は席を立ち、会計を終えると俺たちは新谷の自宅へ向かう。
「ん?」
そのとき俺は何か視界の端に見えたような気がして、そちらを向くがそこには何もなかった。
ただ無人の道路が奥まで通じている。
「気のせいか……?」
俺は不審な気配を感じながらも、前を向き、新谷についていった。
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