Case.39 レッドデータモンスターズ
……………………
──Case.39 レッドデータモンスターズ
森にチャーリーの仲間がいるという蒼真少年の言葉。
「……どの森だ?」
「え、えっと。僕の家がある場所の近くの森だよ」
俺がゆっくりと尋ねると蒼真少年はおどおどとそう言う。
「カリギュラ、地図を取ってくれ」
「あいよ」
カリギュラがこの付近の地図を俺に渡した。
今回の仕事では周辺を捜索する必要もありそうだったので、ちゃんと地図を準備していたのだ。
俺たちはその地図を事務所の机の上に広げる。
「家はどの辺りだ?」
「こ、ここです」
「じゃあ、森ってのはここか……」
蒼真少年は小さな住宅地を指さし、俺はその傍にある森を見つけた。
住宅地のそばには傾斜のある山林があった。
そこから小さな山を挟んで宮崎の牧場が位置している。
「宮崎さん。どうします? もし、牛の被害がチャーリーによるものだけではないとすれば……」
「そうですね……。森を調べるべきなのかもしれません」
牛の被害云々もあるが、気味の悪い魔獣が山林で繁殖しているかもしれないというのも危惧すべき点だ。
今のところは被害を出しているのは牛だけだが、いつ人に危害が及ぶか分からない。
すぐに駆除すべきというのは早計だが、少なくとも森にどれくらいの数のチャーリーの仲間──チュパカブラがいるのかは調べておくべきだろう。
「では、我々で森を調べておきます」
「報酬は別途お支払いしますので、よろしくお願いします」
こうして俺とカリギュラはチュパカブラ調査の依頼を継続して引き受けた。
俺たちは軽トラックに乗り込み、まずは蒼真少年の自宅に向かう。
荷台には捕獲したチャーリーがケージに入れられたまま乗せられている。
車で山をぐるりと回り、30~40分程度で俺たちは蒼真少年の自宅前に到着した。
「この森か。カリギュラ、臭いはどうだ?」
「するぞ、するぞ~。こいつと同じ臭いだ」
カリギュラは森の中からチュパカブラの臭いがするのを嗅ぎ取っている。
「どれくらいの数だ?」
「正確な数は分からないが、1、2匹ではなさそうだな」
「ふむ。なら、お前は近くの魔獣を使って森の中を探ってくれ。俺はドローンを飛ばしてみる」
「合点だ」
俺たちはそれぞれ魔獣とドローンを使って、森の中を探る。
俺はクアッドロータードローンに赤外線カメラを付けたものを、森の上空に飛ばす。
カメラのセンサーはそこそこお高いやつなので、草木が多少邪魔しようとチュパカブラがいれば熱源を捉えるだろう。
問題は山がそこそこ広いということだ。
小さなクアッドロータードローンではそんなに高高度は飛べないし、長時間の飛行はバッテリーも消耗する。
ある程度、目星を付けないと無駄にドローンを飛ばす羽目になる。
「おっと。阿賀野、この場所にドローンを飛ばしてくれ。低位魔獣が妙な臭いをそこで嗅ぎつけている」
「了解だ」
なので、カリギュラの力は重要だ。
やつが低位魔獣を支配し、その知覚を共有することでドローンを飛ばすべき位置が分かってくる。
「さてさて……」
ぶうんと小さなモーター音を立ててドローンは飛行し、カリギュラが地図で示した地点に向かう。
「熱源が複数だ。サイズからしてチュパカブラで間違いない。しかし、こいつは……」
「数が多いな!?」
カリギュラが見つけた地点にはチュパカブラらしき熱源が9、10体はあった。
ちょっとした群れである。
「どうする、阿賀野? 正直、俺様は駆除しておくべきだと思うぞ」
「待て。案外、友好的な連中かもしれない。少なくともチャーリーは蒼真少年に懐いたわけだしな。まずは人間や悪魔に問答無用で飛び掛かってくるような敵対的な連中かどうかを確かめよう」
「ええー……? そこまでする義理があるのか? 俺様が考えるにどう見ても友好的な連中じゃないぞ」
「もし、友好的だったらちょっと胸が痛むだろ」
「はあ。分かった、分かった。お前のやりたいようにやれ。いざとなれば俺様がまとめて焼き払ってやるから」
「ああ。そのときは頼むぜ」
俺はモスバーグM590散弾銃を握り、カリギュラとともにチュパカブラたちの熱源を捕らえた場所に向かう。
慎重に風下から風上にいるチュパカブラたちの群れに俺たちは接近。
「いたぞ。チュパカブラの群れだ……」
「群れてるとキモイな……」
チュパカブラの群れが何をしているのかとよく見ると、地面に倒れているイノシシの死体に群がってその肉を溶かしながら食っていた。
イノシシの身体は酸と鋭い爪で引き裂かれ、綺麗に腹部がなくなっている。
宮崎の農場で見た牛の被害と同じやられ方だ。
「じゃあ、連中が俺たちにフレンドリーかどうかを確かめてくる。いざってときは援護してくれよ」
「ああ。無駄だとは思うけどな」
あの見た目でフレンドリーってことは絶対にないだろうとカリギュラは呟く。
「おおい。お前ら、チャーリーの友達かー?」
俺がそう声を掛けるとチュパカブラたちが一斉にこっちを向く。
あるものは姿勢を低くし、あるものは鋭い爪のある腕を掲げて立ち上がり、俺の方に警戒した様子を見せる。
「おいおい。俺もチャーリーの友達だよ。ほら、フレンドリーにな?」
俺は笑顔でそう言いながら、じりじりとチュパカブラたちの方に向かう。
これで相手が逃げるようならば、そこまで害はないのだろうが……。
「ぎゃあぎゃあ!」
チュパカブラたちは犬の声を模したように鳴き、そして──。
「しゃあああ!」
俺に向けて突っ込んできた!
「クソ! やっぱりフレンドリーじゃなかった!」
チュパカブラは俺に飛び掛かり、爪を振り上げる。
俺はすぐさま散弾銃からスラッグ弾をチュパカブラに向けて叩き込み、チュパカブラの頭部が爆ぜた。
しかしすぐに次のチュパカブラが俺に飛び掛かり、俺の胸に爪を突き立てる。
俺はげぼりと血を吐きながらも強引に身体を動かして、さらに発砲。
チュパカブラの頭が吹き飛ぶ。
「言わんことじゃない! どう見ても友好的な魔獣ではないだろうが!」
カリギュラが後ろからそう言い、炎がチュパカブラたちを焼き払う。
炎がチュパカブラたちを包み、炎に覆われたやつらが地面をのたうつ。
しかし、炎に包まれた状態でも何匹かのチュパカブラは俺を食い殺そうと飛び掛かってきた。
「人が下手に出れば調子に乗りやがって! くたばれ!」
俺はもはや情け容赦なく、スラッグ弾をチュパカブラに叩き込んだ。
チュパカブラたちは頭が爆ぜ、腹部が爆ぜ、死んでいく。
「よし、クリア!」
俺たちはチュパカブラの群れを掃討した。
チュパカブラは俺に撃ち殺され、カリギュラに焼かれ、屍を晒している。
「片付いたな! 宮崎に報告して、あとはチャーリーを軍政局に押し付けようぜ!」
「ああ。これで仕事は終わりだ」
それから俺たちは死んだチュパカブラの写真を撮影し、それを駆除の証拠として宮崎に見せた。
宮崎は安堵し、俺たちは本来の報酬である20万円に加えて、追加の報酬として10万円を受け取った。
そして、蒼真少年が見送る中、チュパカブラのチャーリーは阿蘇を去っていき、その後軍政局に引き渡された。
……問題はそのあとのことである。
「阿賀野! 軍政局が生きているチュパカブラに100万出すらしいぞ!」
「な、なにっ!?」
そう、あれから数週間後、軍政局魔獣対策課がチュパカブラの生体に100万の懸賞金をかけたのだ。
曰く、熊本ではとても希少な魔獣であり、生態系を知るために数が必要だとか。
大学などもこのチュパカブラに興味を示しているらしい。
「これはやるしかない!」
「おお!」
しかし、俺たちが阿蘇に戻ってあの森を血眼になって探しても、もうチュパカブラは1匹も見つけられなかった。
俺たちがチュパカブラを全滅させてしまったのだろうか?
フレンドリーじゃないからって殺すべきじゃなかっただろうか?
「ああ。100万の獲物が……」
「あのとき1匹ぐらい生きたまま捕まえておけばよかったな……」
後悔先に立たず。
俺たちが逃した魚は大きかった。
とほほ……。
……………………




