Case.38 奇妙な生き物とともに
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──Case.38 奇妙な生き物とともに
翌朝、俺たちは捕らえた生き物──チャーリーを宮崎に見せた。
「こいつが私の牛を襲っていたのですか?」
「ええ。宇宙人ではなかったようですね」
宮崎が目を点にしてチャーリーを見た。
チャーリーはイノシシを入れるための鉄製のケージに入れられ、カリギュラはその様子を昆虫採集に興じている少年のような表情で眺めている。
「しかし、この生き物は……まさか……」
「心当たりがあるので?」
「ええ。これは前に書籍で見たことがあります。この生き物は──」
宮崎はそう言ってまたオカルト雑誌を持ってきた。
「ほら。これです。チュパカブラ!」
雑誌に掲載されたイラストには、チャーリーによく似た生き物が描かれていた。
チュパカブラ、と。
「チュパカブラ?」
俺もカリギュラも初めて聞く言葉に首を捻る。
「そうです。南北アメリカ大陸に出没するという未確認動物ですよ。これは一説によれば宇宙人の作った生き物ともされています」
「宇宙人が作ったのか? じゃあ、こいつはやっぱり宇宙人だな!」
「まあ、一説にというだけで、疥癬のコヨーテを見間違ったという説もあります」
俺も雑誌に視線を落とし、チュパカブラについて書かれた記事を読んでみたが、諸説諸々という具合で確実な説はなさそうだった。
「ともあれ、首輪をしていて、連絡先が書いてある以上、そこに連絡すればこいつの正体も分かるでしょう。連絡してみましょう」
俺はそう言い、連絡先として書かれている電話番号にかける。
熊本市内の番号で、固定電話の番号だ。
『もしもし?』
子供の声がスマートフォンの通話口から響いてきた。
「あー。こっちでチャーリー君を預かっているんですが、この連絡先であってます?」
『え!? チャーリーを!?』
「ええ。首輪に名前と連絡先が書いてあったので、こうしてご連絡しています」
俺はケージに押し込まれたチャーリーを見ながらそう言う。
チャーリーはカリギュラからビーフジャーキーをちらつかされて、それを奪い取ろうと舌や爪を伸ばしている。
『そ、その、すぐに引き取りに行きます! チャーリーは今どこに?』
「宮崎青空牧場です。なるべく早く来てもらえますか?」
『は、はい!』
そして電話は切れた。
「宮崎さん。飼い主が引き取りに来るようです」
「飼い主って……。こんなの飼っていて合法なんですか?」
「魔獣に関する法律はほとんど整備されてないですからね」
魔獣はよほど危険なものを繁殖させているか、あるいは熊本県外に持ち出そうとしない限り、憲兵が止めに入ることはない。
「まあ、被害に遭った牛の代金は請求されてもいいかと」
「え、ええ。ですが、まずはこの生き物の正体について知りたいですね……」
宮崎はそう言う中、ついにチャーリーがケージから舌を伸ばしてカリギュラからビーフジャーキーを奪い取った。
すると、その顎のない口から流れる緑色の液体がビーフジャーキーを溶かし、ちゅるちゅると舌で吸い取っていく。
「おおーっ! こいつ、面白いな!」
「いや。余計、気味が悪くなったわ……」
カリギュラが歓声を上げるが、俺と宮崎はドン引きだ。
それから1時間ほど経ったとき、牧場の前に1台のSUVが停車した。
そこから30代ほどの中年女性と11、12歳ほどの少年が姿を見せた。
「あの、ここは宮崎青空牧場さんで間違いありませんでしょうか?」
「え、ええ。あなた方が、その……」
「この子がここに行かなければいけないと言い出して、連れてきたのですが……。何かあったのでしょうか?」
宮崎が応じるのに中年女性は不安そうにそう尋ねる。
「チャーリーがここにいるって本当ですか……?」
「ああ。いるけど、チャーリー君について教えてくれるかい? 君の名前についても」
「僕は林蒼真です。チャーリーは……僕のペットです……」
少年──蒼真少年はそう言って視線を泳がせた。
嘘をついている表情ではないが、何か後ろめたいことはあるのは間違いない感じだ。
「チャーリー? あの子はもう2年も前に……」
「2年前に?」
「チャーリーというのは昔飼っていたシベリアンハスキーの名前です。けど、2年前に亡くなっていて……」
俺が尋ねると蒼真の母親はそう言う。
俺たちは母親の言葉に顔を見合わせる。
あれはどう見てもシベリアンハスキーには見えなかった。
「とりあえず、チャーリー君を見てもらえますか?」
俺はそう言い、まずはふたりにチャーリーを見せることに。
「きゃああ! こ、これは……!?」
チャーリーの姿を見て悲鳴を上げる母親。
「チャーリー!」
「ぎゃんぎゃん!」
一方の蒼真少年の方は嬉しそうにチャーリーに駆け寄る。
名前を呼ばれたチャーリーは顔──というか、口を向けて犬のように鳴いて見せた。
「なあなあ。どこでこいつを捕まえたんだ? 魔獣なのか、これ?」
「たぶん魔獣だと思う。地獄戦争のあとで疎開先から帰ってきたら、うちの庭に倒れてたんだ。そのときはもうちょっと小さかったけれど」
「へえ。俺様も知らない魔獣か」
カリギュラも全ての魔獣を知り尽くしているようではないらしい。
まあ、地球の人間でも地球上にいる全ての生き物を知り尽くしているわけではないから、おかしくはないが。
「それで、前に買っていたチャーリーの首輪を上げて、山の中の秘密基地で飼ってたんだけど、2週間ほど前にいきなり逃げ出しちゃって……」
「2週間前。この牧場の牛が襲われ出した時期と一致するな」
どうやら連続家畜襲撃犯はこのチャーリーで間違いなさそうだ。
「今後のことだけど、チャーリーはこの宮崎さんの飼っている牛を襲ったんだ。ちゃんと管理して飼えないなら軍政局に引き渡した方がいいよ」
「おうおう! それは俺様たちが引き取ってやろう!」
俺とカリギュラがそう提案する。
カリギュラの方は受け取った途端売り飛ばすつもりだろうが。
「そ、そんな! チャーリーは僕に懐いているんだよ! ねえ、母さん。家で飼ってもいいでしょう?」
「え? そ、それは……」
凄く迷っている母親。
そりゃあ、こんな得体の知れないものは飼いたくないでしょうさ。
「蒼真。チャーリーは軍政局に引き取ってもらいましょう? 代わりに新しく犬を飼ってあげるから。ね?」
「ええ……。どうしてもダメなの……?」
「この子は母さんたちには面倒は見きれないわ」
蒼真少年にそう母親は言い聞かせる。
妥当なところだな。
「では、我々の方で軍政局に引き渡しておきます」
「よろしくお願いします。それと牛に被害が出たという話ですが……」
母親の視線が宮崎の方に向けられる。
「子供のしたことですので、今回は大目に見ましょう。それに私もチュパカブラを見ることができましたし」
どこか満足げにチャーリーを見る宮崎であった。
こいつがチュパカブラと決まったわけではないのだが、宮崎の中ではすでにチュパカブラとして認定されたらしい。
「では、これで一件落着だな!」
カリギュラがそう言い、事件は終わった。
……はずだった。
「け、けど、チャーリーの仲間はまだ森にいるよ?」
その蒼真少年の言葉に俺たちの間の空気が凍った。
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