Case.32 ワーウルフ・コネクション
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──Case.32 ワーウルフ・コネクション
俺たちは海鮮丼とアジフライ定食を貪りながら、リザードマンたちの話に耳を澄ませていた。
「そのワーウルフの殺人鬼、9ミリ拳銃弾じゃあ豆鉄砲だったって話だから、もっとデカい銃を持ち歩いた方がいいな」
「けど、支給品はこれだしな……」
そう言ってグロック19自動拳銃を見るリザードマンのひとり。
「まあ、こっそり私物を持ち込んでいるやつはいるぜ?」
「お前もか?」
「ああ。だけど、なかなか信頼できる業者がいなくてな。適当なところで買うとゴミを掴まされる可能性もあるし」
「困ったものだな」
リザードマンたちはそれから別の話を始め、俺とカリギュラが視線を合わせる。
「……なあ、関係あると思うか?」
「……分からん。今の話だけでは何とも言えないな」
俺がひそひそと声を落として尋ねると、カリギュラは首を横に振って返す。
「俺は海外任務があったから狂犬病のワクチンは打ってるけど、用心はした方が良さそうだな。カリギュラ、お前もうっかりワーウルフに噛まれないようにしろよ?」
「俺様は狂犬病などにかかったりしないから平気だ」
「それならいいけど」
日本では厳格なワクチン接種のおかげで狂犬病は50年以上発生していないが、地獄戦争の後では何があってもおかしくない。
「では、ちょっとばかり話を聞いてみるとするか」
俺たちは会計を済ませて店を出ようとしているリザードマンたちの元に向かった。
「兄ちゃんたち。ちょっといいかい?」
「ん。何だ、あんた?」
俺が声を掛けるとリザードマンたちは怪訝そうな視線を向けてくる。
警戒心が高いのはどのリザードマンも同じか。
「さっき、兄ちゃんたちが話している内容をうっかり耳にしたんだが、銃を扱っている信頼できる業者をお求めなんだってな。俺に当てがあるから教えてやろうか?」
「……何が狙いだ?」
「シンプルなギブ&テイクだ。情報を交換したい。さっき話していた狂犬病のワーウルフの話を詳しく聞かせてくれ」
俺は敵意がないと示すように笑顔を浮かべてそう言う。
ふたりのリザードマンはお互いの顔を見合わせると、小さく息を吐いて俺たちに視線を向ける。
「分かった。俺たちなんかの持っている情報でよければ取引しよう」
「オーケー。俺からだが信頼できる銃が欲しければ一色銃火器店に行け。店主は信頼できる人間で、扱っている銃はどれも正規品だ。住所はここだ」
一色銃火器店は俺も贔屓にしている店だ。
銃本体から弾薬に至るまで、どれも信頼できる品を扱っている。
「ふん。じゃあ次は俺たちだな」
リザードマンは俺から一色銃火器店の住所が書かれた紙を受け取ると話し始めた。
「狂犬病のワーウルフの話だが、まだ狂犬病だと決まったわけじゃない。ただ、やり口が惨い殺し方だという話でな。文字通り人間をばらばらにしてしまっているらしい。頭、手足、胴体、内臓という具合にな」
リザードマンがそう語るのを俺たちは聞く。
「その手のばらばら殺人なら、容疑者はワーウルフに限らないんじゃないか?」
「現場のひとつに灰色のワーウルフの体毛が残っていた。今から2、3日前の事件だ。だからだよ」
「ふむ……」
「俺たちが知っているのはこれぐらいだ。悪魔も被害に遭っているって話だから、お互い気を付けよう」
「ああ。助かった」
それから俺たちはリザードマンふたりと別れ、海鮮居酒屋の前で考え込む。
「灰色のワーウルフの体毛が残っていた、か」
「シグリッドが問題の狂犬病のワーウルフなのかもな。あるいはその被害者か」
「いずれにせよ事件に巻き込まれたとみて間違いない。シグリッドがモデルをやったカメラマンたちに聞き込みしてみよう。彼女の活動履歴を辿り、その行動に妙なところがなかったか調べる」
「合点」
シグリッドがこの事件にどう関わっているかは分からないが、全くの無関係だと分かるまでは調査をするべきだろう。
俺たちはまずはグーラに連絡を取った。
今の調査の進展の報告とシグリッドがモデルをしていたカメラマンの名前を聞き出すことが目的だ。
『もしもし?』
「グーラさん? あなたのモデルをしたカリギュラの相棒の阿賀野です。ご連絡したいことがありまして」
『ああ! シグリッドについて何か分かったかい?』
「ええ。彼女は家にはいませんでした。もしかすると事件に巻き込まれているかもしれません」
俺は狂犬病のワーウルフの話を聞いたことをグーラに話す。
『それは困ったな……。私に協力できることはある?』
「シグリッドがモデルをしていたカメラマンを教えてくれますか? 彼らから話を聞いてシグリッドに妙なところがなかったか聞いてみます」
『分かった。カリギュラさんのメールアドレスにリストを送信しておくよ。彼女が無事に見つかるといいんだが……』
「ああ。俺たちもそう祈っています」
それからカリギュラのスマートフォンにグーラからのメールが届いた。
シグリッドがモデルをしていたカメラマンのうち、グーラが知っている範囲の人名が記されている。
「カメラマンのリストには3名か。この名前からするに全員が悪魔だな」
「ワルドリク、ポチョムキン、そして……ウィスキー・オン・ザ・ロック? 最後のこれは人名なのか?」
「酒の名前みたいだけど、一応こういう名前で活動しているサテュロスのカメラマンがいるらしい」
「へえ」
「お前のカリギュラって名前だって地球人からすると変なんだぜ?」
カリギュラは男性名だし、ローマの暴君の名前だ。
好き好んで自分に付ける名前じゃない。
「俺様はこの名前が気に入っているからいいんだ。で、どいつから当たる?」
「ワルドリクから。こいつもワーウルフのカメラマンだ」
「よし。行こう」
俺たちはグーラから提供されたリストに従って、カメラマンたちを当たることに。
「ワルドリクはファッションカメラマンらしい。悪魔向けの衣類の撮影をしているとか。やつのスタジオはこっちだ」
俺たちは熊本の繁華街を雑居ビルが立ち並ぶ場所までやってきた。
「ここだな」
俺たちが雑居ビルの扉をノックすると、扉が開かれた。
「ん? 何だい、あんたら?」
中にいたのはこれぞ狼男という感じの引き締まった肉体を有する黒い体毛のワーウルフの男だ。
彼は俺たちの方を怪訝そうに見つめる。
「ワルドリクさん?」
「そうだが……」
「失礼。俺たちはこういうものです」
「便利屋?」
「ええ。モデルのシグリッドさんが行方不明でしてね。彼女を探しているんです」
俺が名刺を差し出すとワルドリクはそれをしげしげと見つめ、俺は今の事情を簡単に説明した。
シグリッドがグーラの仕事をすっぽかし、自宅にもいない、と。
「ああ。彼女か。それなら彼氏が問題なんじゃないか?」
「彼氏?」
「ああ。ワーウルフ・バーで知り合った男だよ。彼女、そいつにお熱だったからね。けど、俺が見る限り、あまりいいやつには思えなかった。悪ぶっているというか、ちょっと暴力的なところがあったから」
肩を竦めてそう語るワルドリク。
「彼女と最後に仕事をしたのはいつです?」
「もう2週間ほど前になるね。そのときからそいつはいたね」
「その彼氏の名前は分かりますか?」
「アタウルフ、だったかな。そんな感じの名前だよ」
重要なヒントが手に入った。
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