Case.30 元気に食べる君は美しい
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──Case.30 元気に食べる君は美しい
「阿賀野! 俺様が仕事を取ってきてやったぞ!」
「え……?」
カリギュラがそう言うのは、グレムリン騒ぎの14日後。
俺が次の仕事が来ないかとメールボックスを延々と眺める作業をしていたときに、やつが事務所に飛び込んできてそう言ったのだ。
「仕事ってどんな?」
「何と、モデルだ!」
「……モデル?」
俺はどういう意味か分からず、首を傾げたまま硬直した。
「ほら。SNSで宣伝を始めただろう?」
「ああ。あの飯の画像しか上げてないSNSね」
「そのSNSでこの動画に返信があってな。見てみろ」
そう言ってカリギュラはスマートフォンの画面を俺に見せる。
そこにラーメンを食べるカリギュラの動画が上がっていた。
豪快に麺を啜り、スープまで綺麗に飲み干していくショート動画である。
「この前ラーメン屋で俺に取らせた動画、あれSNSに上げたのか? 不用意にSNSで顔を晒すなよ。トラブルの種だぜ」
「ふふん。返信欄を見てみろ」
カリギュラが自慢げに言うので俺は返信欄を読む。
「ええっと……? 『豪快に食べる姿が美しいです。まるでライオンが獲物を貪る姿を連想させます。よろしければ食事風景を写真に撮らせていただけませんか?』と……」
俺はそこまで読んで渋い顔をする。
「何かの詐欺じゃないのか? どうにも怪しい……」
「だが、向こうが飯を奢ってくれて、その上報酬に1万5000円くれるって話だぞ。美味しい話じゃないか?」
「う~ん」
俺はモデル業に詳しくないのだが、SNSで自撮りを上げている素人にいきなり声がかかるものなのだろうか?
もっとこう事務所とかに所属してって話だと思っていたのだが……。
俺が知らないだけで、こういうのは普通だったりする?
「仮にそれを受けるとしても、俺の仕事はないだろ。写真に撮りたいのはお前が飯食ってる写真なんだし」
「今回のお前の仕事は俺様のマネージャーだ!」
「マネージャーだ~?」
「そうそう。俺様に飲み物を持ってきたり、弁当を手配したり、俺様のさらなる活躍のために営業をするのだ!」
「さいですか。じゃあ、俺は今回何もしなくていいな」
「おいっ!」
マネージャーとかアホらしい。
どうせモデルの仕事なんて今回1回きりだろうに。
「一応撮影場所までは車は出してやるから、それだけでいいな」
「ぶーっ!」
俺も今は仕事がないので車を出すことぐらいはしてやろう。
「というか、モデルにしたいと言ってきた連中は悪魔か、それとも人間か? あとなんて名前の連中なんだ?」
「悪魔だ。名前は……グーラと名乗っていた」
グーラねえ。
聞いたこともない悪魔だが、本当に信じていいのやら。
「契約書はよく確認しろよ。それから奢りだからって食いすぎるなよ」
「分かってる、分かってる」
「で、撮影はいつだって?」
「今日の17時からだ」
「げっ。もう15時半だぞ」
「場所は市内の歓楽街だから余裕で間に合う」
「それならいいんだが……」
しかし、カリギュラがモデルとは。
確かにこいつも何もせずに黙っていれば美女に見える。
しかし、口を開いて動き出せばカリギュラはカリギュラだ。
地獄の元帥だった横暴な大悪魔。
まあ、今はある程度棘は抜けたみたいだけどな。
「お前は夕食は奢りで食うとして、俺はどうしたものかな」
「歓楽街まで行くんだからいつものと違う食事をしたらどうだ?」
「けど、この前、豪遊したばっかりだしな……」
そんな言葉を交わしながら、俺たちは仕事の時間を待った。
* * * *
それから俺たちは17時の仕事の時間に間に合うように家を出て、歓楽街にある撮影スタジオに向かった。
歓楽街の中でも飲食店が集まる場所に、そのスタジオは位置していた。
「グーラ・フードフォトスタジオ……。ここで間違いなさそうだな」
「うむ。行くぞ、阿賀野」
「俺も一緒に行かなきゃいかんのか?」
「どうせ暇だろ。俺様が優雅に飯を食っているところを見ていろ」
「まあ、暇なのは否定しないが……」
俺は今回は仕事がなく、大変暇である。
モデルの仕事ってのがどういうものなのか、見学してみるのもいいかもな。
「失礼するぞー! モデルのバイトを受けたカリギュラだが!」
カリギュラがそう挨拶すると、スタジオの奥から太ったワーウルフの男が出てきた。
ワーウルフというのは人と狼がくっついたかのような外見をしており、ポピュラーな呼び名で呼べば人狼だ。
しかし、大抵のワーウルフはスマートかつ筋肉質なボディを有するんだが……こいつはかなり太り倒した狼だな……。
「おおっ。君がカリギュラさんだね。よく来てくれた。このスタジオのカメラマンを務めるグーラだ。今日はよろしく頼むよ」
頬の肉を揺らしてにこにことした笑みを浮かべ、そう挨拶するグーラ。
「うむ。よろしくな、グーラ」
「しかし、カリギュラという名前は珍しいね。地獄の元帥と同じ名前じゃないか」
「わはははっ。偶然だ、偶然」
カリギュラはカーミラという偽名で登録悪魔としてID登録しているが、もっぱら普段はカリギュラという本名で通している。
まあ、地獄の司令官がモデルのバイトに来るとはだれも思わんだろうし、ばれることはないだろう。
「今回は本当に助かったよ。本来モデルを引き受けてくれるはずだった子と急に連絡が取れなくなってね。困ってSNSを見ていたら、君の動画がタイムラインに入ってきてビビッと来たんだ」
「お前、見る目があるな!」
ん? 本来モデルを引き受けるはずだった子と連絡が取れなくなった……?
「その子、見つかったのか?」
「いいや。たまに仕事すっぽかす子はいるんだけど、その子は割としっかりしていたからちょっと驚いているよ。元気に食べてくれるいいモデルで、これからも頼りにするつもりだったんだけどな……」
「そうか。よければこっちで調べてもいいぞ。というか、俺たちはそういうのが本業なんだ。悪魔、魔獣関係のトラブル解決がな」
「そうなのかい? じゃあ、あとで相談させてもらおうかな。まずは写真撮影を急ごう。締め切りが近いんだ」
そう言うとグーラは写真撮影のための準備を始めた。
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