Case.29 アンタレス
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──Case.29 アンタレス
発電所で俺たちを追い回すグレムリンに取り憑かれたとみられる無人戦闘地上車両──アンタレス。
口径12.7ミリ重機関銃がけたたましい銃声を響かせ、俺たちの脇を大口径ライフル弾が掠める。
「畜生、畜生、畜生。俺たちの持っている武器じゃあれは壊せんぞ!」
「俺様の銃でも無理か!?」
「試したことはないけど、恐らくは無理だ!」
.500マグナム弾でも装甲化されているアンタレスを撃ち抜くのは無理だろう。
「やつをやるには対戦車兵器の類が必要だ! あるいは……もっと大口径の武器!」
「どちらも発電所には置いてあるものじゃないな!」
「あるものでどうにかしなければならんな!」
俺たちは発電所のメンテナンス棟を逃げ惑いながら、使えそうなものを探す。
しかし、発電所に爆発物が置いてあるはずがない。
対戦車兵器をDIYしようにも、材料が足りない。
あるのはスパナや検電器などの工具だけだ。
そしてアンタレスは容赦なく重機関銃で攻撃してくる。
「うおっ! これじゃあハチの巣にされちまうぞ!」
「考える暇がないな!」
落ち着いてメンテナンス棟の備品を見て回ることもできないし、そこから対戦車兵器をこさえるような考えを巡らせる暇もない。
「弾切れを待つというのはどうだ!?」
「アンタレスは200発以上の銃弾を備えている! 撃ち尽くすのを期待するのは気が長い話になりそうだ!」
「畜生!」
カリギュラが問いに俺がそう返し、俺たちは遮蔽物から遮蔽物に飛び込み、アンタレスから逃れながらメンテナンス棟を飛び出した。
そして水圧鉄管の伸びる建物に向けて飛び込んだ。
「ここは……発電用タービン棟か……!」
俺たちがそこに逃げ込んだとき、俺たちはさらに最悪の状況に突入した。
「……阿賀野、あそこに見えるのは……」
「……アンタレスが2機……」
そう、アンタレスがさらに2機いたのだ。
そしてそれは俺たちにセンサーを向けると、ひとりでに動き出した。
ちっくしょう! 山本が言っていた最低でも3匹のグレムリンってこういうことか!
2機のアンタレスは後ろから迫っていた1機のアンタレスとともに俺たちを挟み撃ちにする構えを見せた。
俺たちは絶体絶命だ。
「カリギュラ! こうなったら対戦車兵器はあいつからいただく!」
「それはどういう……!?」
「とりあえずやつらのセンサーを焼いて時間を稼いでくれ!」
「合点!」
カリギュラは前方と後方の3機のアンタレスのターレットにマウントされたセンサーに向けて同時に炎を放つ。
アンタレスのセンサーは火器管制システムに紐づいている。
センサーが破壊されてもオペレーターの手動照準で攻撃は行えるが、その際にはラグが生じる。
そのラグが、一瞬の隙が俺には必要だった。
「おらあっ!」
俺は反転して背後のアンタレスに殴り込む。
アンタレスは俺に向けて銃口を向けようとするが、センサーが破壊されているせいでラグが生じている。
俺は狙いが逸れ、脇腹や腕を裂くだけの口径12.7ミリ弾を放つアンタレスに飛び乗り、マウントされている重機関銃を竜殺しの腕力で強引にもぎ取った。
アンタレスの重機関銃は信頼と実績のM2重機関銃がそのまま使われているので、アンタレス本体から取り外したのちも人力で使用可能だ。
「はっはーっ! こいつはいただくぜ!」
俺は重機関銃を構えると前方にいる2機のアンタレスに向けて銃弾を叩き込んだ。
流石のアンタレスでも口径12.7ミリには耐えられない。
ガンガンと装甲が貫かれる音が響き、前方のアンタレス2機はダウン。
「そら! てめえもこれを食らえ!」
俺はそれから飛び乗っているアンタレスの車体に向けて重機関銃を叩き込んだ。
アンタレスから火花が散り、俺たちを散々追いかけ回してくれたアンタレスはついにダウン。
「オーケー。あとはグレムリンどもを始末するぞ」
「ああ。焼き殺してやろう」
俺たちが破壊したアンタレスからグレムリンは這い出てきた。
大きさは中型犬ほどで一見するとネズミのような風体だが、ネズミより耳が大きく、体毛は緑色だ。
目はくりくりとした黒色で見るものが見れば可愛らしくも見えるのだろうが──。
「お前ら、散々人間をおちょくってくれたな。覚悟しろよ……!」
今の俺たちは気が立っている。
情け容赦なく、俺はモスバーグM590散弾銃から12ゲージのスラッグ弾を叩き込む。
「焼け死ね!」
カリギュラもアンタレスから這い出てきたグレムリンを焼き殺す。
「炭にはするなよ、カリギュラ。報酬を貰わなければならん」
「分かっている。だが、こうなったのだから特別手当は出るだろうな?」
「それは要交渉だろうな……」
俺たちはげっそりしながらも、残るグレムリンの駆除に当たる。
残りのグレムリンは発電タービンに隠れており、そこで電気を貪っていた。
「ここがここ最近の停電の原因か?」
「さてな。この発電所はそこそこの大きさだが、この発電所ひとつがグレムリンに襲われたぐらいで熊本の電力が不安定になると思えん」
「まだまだグレムリンに発電所を乗っ取られていたりしてな」
「そのときは発電会社が軍用の無人戦闘地上車両を設置していないことを祈るよ」
俺たちは最終的に8匹のグレムリンを駆除し、その死体をビニール袋に突っ込んで、発電所の敷地から出た。
「あ、ああ。終わりましたか……?」
発電所の外では山本が俺たちを待っていた。
俺とカリギュラはぎろりと山本を睨む。
「おい。無人戦闘地上車両が置いてあるなんて聞いてなかったが?」
「そ、それは企業秘密というやつでして……」
「俺たちだったからよかったものの、他の人間に依頼していたら今ごろ人間のミンチが発電所内に転がってたって分かってるんだろうな。ええ?」
「も、申し訳ない! ほ、報酬に色を付けますので、それでなにとぞ……」
「お前の権限でいくらぐらい報酬に上乗せできるんだ?」
「10万くらいなら……」
山本はおずおずとそう言う。
「おい、聞いたか、相棒。あれだけの騒ぎにたったの10万だとさ!」
「信じられんな。軍政局にあの無人戦闘地上車両が暴走したことを報告すべきかもしれない。善良な市民の義務として」
「全くだ」
俺たちがそういうやり取りをしていると山本の表情がさらに青ざめた。
「20万、いややっぱり60万でどうでしょうか!? そ、それ以上は流石に監査で怪しまれますので……!」
「はあ。分かった。60万で手を打とう」
あれだけの騒ぎで駆除報酬が40万で追加報酬が60万というのは安いのか高いのか、俺にはよく分からなくなりつつある。
「そもそもなんで無人戦闘地上車両なんて発電所に置いたんだ?」
「経費の削減のためですよ。山間にあるこのような施設はたびたび魔獣に襲われますから。昔は民間軍事会社に警備してもらっていたんですが、本社から経費の削減として契約が解除されてしまい、代わりにあれが……」
「無駄を省こうとしてさらに無駄なことをしちまったな」
悪徳コンサルタントにでも騙されたようなオチに俺たちは揃ってげっそり。
それから俺たちは山本から報酬を受け取り、自宅のある熊本市内を目指した。
「今日は久しぶりに豪遊するか?」
「おおっ! いいな! SNS映えする食事にしようぜ!」
「了解だ」
まあ、グレムリンに取り憑かれた無人戦闘地上車両に追い回されたあとでも美味い飯と酒は味わえる。
生きていれば楽しいことはあるものだ。
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