Case.28 山間の発電所にて
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──Case.28 山間の発電所にて
俺たちは阿蘇方面に向けて軽トラックで進み、黒川第四発電所に到着した。
この黒川第四発電所は地獄戦争のあとでUNEによって作られたと資料にはある。
白川水系に設置された発電所のフェンスにはUNEのロゴが大きく記されている。
「ああ。阿賀野様ですね。お待ちしておりました」
そこで同じUNEのロゴが入ったヘルメットに作業着姿の中年の男が俺たちを出迎えた。
作業着のネームプレートには山本とある。
「おう。グレムリン駆除を引き受けた阿賀野です。どうぞよろしく」
「これはどうもどうも」
俺たちは名刺を交換し合う。
作業着の男はUNEの電力事業部における水力発電の責任者らしい。
「こちらがこの仕事の契約書の方になるのですが、確認していただけますか?」
「ええ。確認させていただきます。ん……?」
山本から渡された契約書には企業秘密に関する項目が山盛りのものが数枚あった。
要約すれば『ここで見たことは絶対に外部に漏らすな。漏らしたら裁判に訴えて違約金を払ってもらう』というものだった。
俺はこの仕事に何か裏があるのは間違いなさそうだと思った。
まあ、俺たちは仕事で見たことをべらべらと喋るような人間と悪魔ではないので、これは大丈夫だ。
「で、グレムリンですが何体ほど出没しているんです?」
「それが分からないんですよ。最低でも3体はいると思うんですけど……」
「そうですか。そいつは困りましたね」
「ええ。全く、困ったものでして……」
そう言ってちらちらと発電所の方に視線を向ける山本。
そこからは酷い怯えの色が垣間見えた。
グレムリンは確かに厄介な魔獣だが、そこまでビビる魔獣でもないはずだが……。
「出たのはグレムリンだけですか?」
「え? それは──は、はい。そうです。グレムリンだけ……です」
俺の問いに一瞬何事かを言いかけて、山本は誤魔化すように笑って頷いた。
「では、職員を避難させてください。銃火器を使用しますので、暫くの間は発電所付近に近寄らないようにお願いしますね。流れ弾は怖いですよ」
「すでに職員は退避しています。そ、その、グレムリンが出てから危険で……」
「そうですか。では、山本さんも安全な場所で待っていてください」
「は、はい。どうぞお願いします……」
山本はそう言ってそそくさと立ち去って行った。
「さて、仕事を始めようぜ、カリギュラ」
「合点だ」
俺はモスバーグM590散弾銃といつものサイドアームであるHK45自動拳銃で武装。
グレムリンは電気を食べる面妖な生態をしているが銃弾でちゃんと死ぬ魔獣だ。
しかし、確実に仕留めるには12ゲージのスラッグ弾を使った方がいい。
これまでの俺の経験上の知識だ。
「まずはグレムリンどもがどこにいるのか確認しないとな」
「それは俺様に任せておけ。すでに臭いを辿っている。しかし……」
「しかし?」
「妙な臭いが混じっている。これは……硝煙の臭いだな」
カリギュラがそう言ってフェンスで囲まれた発電所の敷地内を見渡す。
「すでに別の業者が駆除を試みたってわけか?」
「そこまでは分からん。ただこの硝煙の臭いはそこまで古いものじゃないぞ」
「ヤーな予感……」
もし、別の業者が駆除を試みて失敗したというのならば、ただのグレムリンという話ではなくなるだろう。
確かに迂闊に近づけば電流でビビッと攻撃してきたり、噛みついたりするやつらだが、銃を持った人間が敵わない相手ではないのだ。
「なら、他の魔獣や悪魔の臭いは?」
「いや。グレムリンだけだな。それも数は7、8体というところだ」
どうにも妙だ。
どうにも話が噛み合わない。
「気を付けてかかろう。俺たちがいくらしぶとくても、痛いものは痛いし、不快なものは不快だからな」
「ああ。臭いを追うから付いてこい、阿賀野」
俺たちはそう言葉を交わし、発電所のゲートを潜った。
発電所内にはいくつかの大きな建造物があり、そこに水圧鉄管が伸びている。
発電所全体の敷地の広さは標準的な小学校の敷地ふたつ分くらいだろう。
俺たちはカリギュラが先導し、グレムリンの臭いを追う。
「硝煙の臭いが濃くなった。この辺りで発砲があったみたいだな」
「グレムリンの臭いはどうだ?」
「移動している。変な動きだぞ。行ったり来たり……」
「行ったり来たり……?」
カリギュラの言葉に俺は首を捻りながらも、発電所の建物内をクリアリングしながら進んでいく。
俺たちがまず入った建物は、発電用タービンがある建物の隣にあるメンテナンス用の施設である。
様々なメンテナンス用の機材が置かれており、広い敷地を移動するための3輪の電動バイクなんかも置いてあった。
俺たちはそこで異音を耳にした。
「これは……何かの車両が移動している音だ」
「しかし、ここにいる人間は全員退避したんだろう? 誰だ?」
「まさかとは思うが……グレムリンが電動バイクに取り憑いたとか?」
「なるほど。その可能性があったか」
グレムリンは電気を食べるだけではなく、電気で動く機械に取り憑いて滅茶苦茶に動かすことがある。
航空機のアビオニクスであったり、指揮通信車のC4ISTARであったり、それこそ電動バイクであったりを引っ掻き回すのだ。
なので俺たちはグレムリンが置かれていた電動バイクの1台に取り憑き、乗り回しているのではないかと想像した。
しかしながら、状況は俺たちが予想しているよりずっと最悪であった。
「阿賀野、車両の音。近いぞ」
「ちょっと待て。この音は電動バイクじゃないぞ……」
電動バイクより重々しいタイヤの音と金属同士が擦れる音。
そんな音とともに現れたのは──。
「無人戦闘地上車両!?」
そう、バギーほどの大きさがある六輪の車体に、センサー類が統合されたターレットを備え、そこに口径12.7ミリの重機関銃と口径40ミリグレネードランチャーがマウントされた車両。
地獄戦争にも投入されたアメリカ製の無人戦闘地上車両だ。
名前は確かアンタレス。
その無人戦闘地上車両──アンタレスは重機関銃の銃口を俺たちの方に向けるとけたたましい銃声を響かせた。
「畜生! 何だって発電所にあんなものが置いてあるんだよっ!?」
「俺様が知るか!」
俺たちはアンタレスに追いかけ回されて、メンテナンス棟を逃げ回る。
畜生。報酬が良すぎて裏があるかなと思っていたけど、これはないぜ!
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