Case.26 今回の釣果のほどは……
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──Case.26 今回の釣果のほどは……
2日後。俺たちは装備を整えて平成中央公園にやってきた。
ここも地獄戦争の最中に戦場となったことで、荒れ地と化している。
付近にある商業施設なども今ではただの廃墟だ。
俺たちは当日の早朝からこの廃墟になった商業施設に入り込み、そこから公園を見張っていた。
「カリギュラ。怪しい動きは?」
「ないぞ。今のところはまだ誰も公園に近づいていない」
情報軍時代はこういう作戦の際にはぶんぶんとドローンを飛ばしたものだが、今はカリギュラが代わりにいる。
カリギュラは近くにいる低位魔獣を手懐けて、そいつらに周辺を監視させていた。
空を飛ぶ魔獣の目から、地上を這う魔獣の耳から、情報がカリギュラに伝えられる。
正直、索敵力に関してはドローンよりカリギュラの方が上だろう。
「こっちも今のところ怪しい人間や悪魔は見えないな」
一方、俺は軍用の双眼鏡とサプレッサー付きのM27 IARアサルトライフルに装着した高倍率の光学照準器で周囲を探っていた。
すっかり夜の帳が下りた公園は真っ暗で、俺たちはときおり暗視装置などを使いながら周辺状況を確認する。
動きがあったのは深夜23時の少し前だ。
「公園の近くに車両が止まった。公園の北だ」
22時50分ジャストにカリギュラがそう報告する。
俺はカリギュラの報告を受けて双眼鏡を北の方に向ける。
確かにやつの報告通り、北の道路に黒いバンが入ってきて止まった。
しかも、そのバンは動く様子がない。
「お客さんかもしれんな。悪魔の臭いは?」
「僅かにするぞ。しかし、そこまで高位の悪魔ではなさそうだが……」
「ラプラス本人が来るって期待はどうやら捨てた方が良さそうだな」
ラプラスは恐らく女夢魔が恐れ、王貴人も恐れた悪魔だ。
そんじょそこらの、ちゃちな悪魔ではないことは想像できる。
「どうする、阿賀野? 今すぐにあのバンを押さえるか?」
「いいや。まだだ。23時まで待つ。一応ナンバープレートは読み取っておいてくれ」
「合点」
まだあのバンがオクソールの取引のために来たとは決まっていない。
あれはただの囮であり、本物の取引相手は憲兵が張っていないか確かめている可能性もある。
その可能性を考えて俺は23時まで商業施設内に身を潜めた。
そして23時ジャストに黒いバンに動きが見られた。
バンの後部ドアががらりと開き、中からスーツケースを抱えたジャージ姿の女が姿を見せた。
捻じ曲がったヤギの角と爬虫類の瞳──女夢魔だ。
「どうやら狙った獲物じゃないが、一応魚はかかったようだ」
ラプラスは女夢魔に獲物を斡旋していた。
女夢魔とは少なくない繋がりがあるようだ。
その女夢魔がデカいスーツケースを抱えて取引現場に現れた。
ビンゴだ。
「あいつを押さえるぞ、カリギュラ。殺すなよ」
「前みたいに自殺したら?」
「その時は車両の方に望みをかけるしかないな」
最悪の場合は憲兵に車のナンバーを通報して、その報酬を貰うしかない。
「……思ったんだが、事前に憲兵に相談しておいた方が良かったんじゃないか? 報酬が出るとはまだ決まってないだろう?」
「あの時点で憲兵に通報していたら、連中は公園を封鎖するだけで終わってたぞ。それで取引現場に誰も現れなかったから報酬はなしって言われるだけだ。お前だって連中の捜査がどれだけいい加減かは知っているだろ?」
「それもそうだな……」
憲兵が信頼できる存在ならば、熊本の治安はこんなことにはなっていないのだ。
「憲兵に差し出すのは結果だ。犯人の首級を挙げるか、オクソールを押収できれば、連中だってここで取引が行われていたことは認めるだろうさ」
「分かった。その方向で動こう。さあ、女夢魔を取っ捕まえよう」
「ああ。やるぞ」
カリギュラが監視地点から立ち上がり、俺もアサルトライフルを手に立ち上がる。
俺たちは銃を構えたまま、公園のトイレ前に向かう女夢魔に迫る。
音を立てず、遮蔽物を利用し、見つかることなくトイレの前で立ち止まった女夢魔のそばに俺たちは近づいた。
そして──。
「動くな!」
タクティカルライトをオンにして女夢魔を照らし、アサルトライフルの銃口を俺は女夢魔に向けた。
「きゃあっ!」
悲鳴を上げる女夢魔。
俺は銃口をそいつの頭に向けたまま素早く近づき、足払いをして地面に転がす。
「カリギュラ。拘束しろ。自殺される前に」
「了解だ」
地面に倒れた女夢魔を、カリギュラが後ろ手に結束バンドで縛り上げる。
それから俺は周囲に警戒しながら女夢魔が持っていたスーツケースを開く。
その中身は──。
「大当たり。大量のドラッグが詰まっている」
スーツケースの中には白い粉末状の薬品がたっぷり。
賭けてもいいが、これはオクソールだろう。
「お前たち、憲兵か!?」
「違う。ただの善良な市民であり便利屋だ。バンにお仲間が残っているな?」
「それは……」
そこでバンが急発進する音が聞こえた。
女夢魔が拘束されたのを見たのだろう。
俺たちのことを憲兵と勘違いして逃げたと思われる。
「ナンバーは控えてある。あとで憲兵に通報しよう。それから──」
俺はアサルトライフルの銃口を女夢魔に向けたまま言葉を続ける。
「お前は誰の使いだ? ラプラスか? それとも他の地獄の密輸業者か?」
「わ、私は……」
言葉を詰まらせる女夢魔に俺たちは溜め息を吐く。
「喋りたくないなら構わない。俺たちはお前を違法薬物の取引で、憲兵に突き出すだけだ。あとのことは憲兵が調べてくれるさ」
ここで初めて俺は憲兵に通報した。
オクソールを密売している悪魔がいると聞くと、連中はすぐにやってきた。
「やあ、阿賀野さん、カリギュラさん。またお会いできましたね」
「石川大尉。お前が現場に出てくるとはな」
「まだまだ大尉風情では現場仕事からは逃れられませんよ」
憲兵の指揮官としてやってきたのは石川だ。
前に俺たちに女夢魔の再調査を依頼した憲兵である。
「こいつがオクソールの密売に関係していた。それからこの取引現場から逃げたバンがいる。ナンバーはこれだ」
「ええ。ドラッグは麻薬探知犬がオクソールだと示しました。その関係者を逃がすわけにはいきません。手配しましょう」
「それと、だ。俺たちはオクソールという物騒なドラッグの蔓延を事前に防いだわけだが、そのことについて報酬が欲しいな」
本題はこっちだ。
俺たちは憲兵でも、自警団でも、勇者でもない。
無償で人助けはしないのである。
「そうですね。これは大きな成果です。100万でどうですか?」
「オーケー、オーケー。それでいい」
「では、後ほどお渡しします。ですが──」
そこで石川は続ける。
「今度この手の作戦をやるときには憲兵にも一言連絡してくださいね」
石川はそう言って女夢魔の連行を監督しに向かった。
「カリギュラ。報酬は100万だぞ。美味いものが食えるな」
「……ああ。しかし、黒幕は捕まらずじまいか」
「そのうち捕まるさ。俺たちがやらなくてもな」
「そうだといいのだが、な」
カリギュラにも思うところがあるのだろう。
やつは神妙に連行されていく女夢魔を見ていた。
「お前の後継者が攻めてくるかもしれないというのが不安か?」
「……ああ。俺様にはここに居場所ができた。それを易々と手放したくはない」
「そうか。じゃあ、今日は焼肉にしよう。美味い肉と酒をたらふく腹に入れれば、満足できるってものよ」
「おおっ! そうでなくてはな!」
焼肉の件になると元気を取り戻すカリギュラを現金なやつと思ったが、やつにはこれぐらい呑気でいてほしいものだった。
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