Case.24 煉獄の余燼
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──Case.24 煉獄の余燼
俺たちはクレイジー・イワンに案内させて、やつの上役の元へと向かっている。
やつのいた雑居ビルを出て、俺たちは熊本の歓楽街を進んでいく。
「お前の上役の名前はなんだ?」
「王貴人。その悪魔の女性が私からドラッグを買い取り、そしてオクソールを融通してくれている」
「その悪魔が地獄からオクソールを密輸しているのか?」
「恐らくは……」
「恐らくは? 随分とあいまいだな」
「わ、私は上役について深掘りしようとしなかったから……」
「はあ。随分と頼りない情報源だな」
クレイジー・イワンの言葉に俺は深々と溜め息を吐く。
「私は芸術家だが、彼らは犯罪者だ。好き好んで関係したいとは思わない」
「よく言うな。傍から見ればお前たちは同じ穴の狢だよ」
俺とクレイジー・イワンが話すのを、カリギュラはじっと聞いていた。
「カリギュラ。王貴人という悪魔を知っているか?」
「知らんな。その名前が偽名でないとすれば、俺様の部下ではないぞ」
「そうか。これではますます情報がないな……」
「今は考える必要はない、阿賀野。その王貴人とやらに話を聞けばいいだろ」
「相手に話す気がなかったら?」
「お喋りしたくなるような気にさせるさ」
俺が尋ねるのにカリギュラは牙を口の端から覗かせてにやりと笑った。
「おお。怖い怖い」
俺はその嗜虐的な笑みを前にして肩を竦める。
こうなったカリギュラはおっかないものだ。
「そろそろだ。連中の事務所に到着する」
クレイジー・イワンはそう言う。
辿り着いたのは、歓楽街の中でも治安が最悪な地域だ。
「この辺りはアビス・ファミリーの縄張りじゃないな……」
「そうだな。ここは──」
俺が周囲を見渡して呟くように言う。
「煉獄組の縄張りだった場所だ」
煉獄組は俺たちが事務所を吹っ飛ばしたことで、ほぼ解散状態になった。
生き残った連中はアビス・ファミリーのような他の犯罪組織に取り込まれるか、あるいは殺されたはずだ。
その縄張りも犯罪組織同士の奪い合いの対象になり、大変荒れたとか。
「クレイジー・イワン。お前、前に煉獄組と取引していたらしいな」
「あ、ああ。そうだが……?」
「そのときもオクソールを扱っていたのか?」
「いいや。オクソールを手に入れたのは、王貴人と取引し始めてからだ」
そうだろう。俺たちの知る限り、煉獄組はオクソールのような軍用ドラッグを扱っていたということはない。
もっとも、連中も地獄に伝手があったのは確かだ。
その忌々しい伝手が、俺たちに事務所を爆破することを決意させたのだから。
「ふむ。もうひとつ。煉獄組の連中が潰れたときには、どうしていた?」
「身を潜めていた。言っただろう。私は芸術家であって、犯罪者ではないのだ。犯罪組織の縄張り争いなどに巻き込まれたくはない」
俺の問いにそう言って首を横に振るクレイジー・イワン。
「他人事みたいに言いやがって。お前も連中の縄張りにある資産のひとつなんだぜ」
俺はそう言いながらじろりとクレイジー・イワンを睨む。
ドラッグの製造が行える人材は、暗黒街に蠢く犯罪組織が取り合う存在だ。
こいつ自身が気づいてないだけで、こいつを巡った殺し合いは起きていただろう。
「あそこだ。あそこが彼らの事務所だ」
そして、クレイジー・イワンがビルを指さす。
ビルは5階建て。入口には黒スーツのワーキャットが2名立っている。
物騒なことに腰には自動拳銃が収まったホルスターだ。
「3階の看板のないテナント。あそこか?」
「ああ。あそこだ。わ、私はこの辺りで失礼していいかな……?」
「ダメだ。一緒に来てもらう」
俺はクレイジー・イワンの肩を掴むと、やつを引っ張ってワーキャットが護衛するビルのエントランスに向かう。
俺たちが近づくのにワーキャットたちは威嚇するように口を開いて牙を見せた。
「よう。王貴人って女悪魔に用事がある。このクレイジー・イワンの友達が来たって伝えてくれよ」
俺はそう言ってポンとクレイジー・イワンの肩を叩く。
すると、クレイジー・イワンはぎこちない笑みを浮かべて武装したワーキャットたちに手を振った。
「クレイジー・イワン。そいつらは本当にお前の友達か? 何の用事で来た?」
「そ、それは、その、オクソールの次の仕入れについて相談したくて……」
「仕入れのスケジュールに変更はない。……お前、変だぞ?」
ワーキャットのひとりがここで俺たちの方に強い不信の視線を向けた。
どうやら俺たちの猿芝居は通じないようだ。
俺はカリギュラに視線で合図すると、素早くHK45自動拳銃を抜き、銃口をクレイジー・イワンの頭に向けた。
「王貴人に会わせろ。さもないとドラッグの製法が詰まったこいつの頭が吹っ飛ぶぞ」
「てめえ……!」
俺の突然の行動にワーキャットたちは拳銃を抜く暇すらなかった。
「さあ、退いた、退いた。俺様たちの邪魔をするなら焼き殺すぞ!」
カリギュラも物騒な笑みを浮かべたまま、手のひらに炎を浮かべる。
それを見たワーキャットたちは怯えの反応を見せた。
「もう一度だけ言う。王貴人に会わせろ」
俺のその要求を前にワーキャットたちは顔を見合わせると、道を開けた。
やつらが退くと俺たちはエントランスに入り、階段を3階へと昇っていく。
「なんだ、てめえら! 何しに来やがった!?」
「退け。こいつの頭を吹き飛ばすぞ」
事務所の扉の前にも黒スーツのワーキャットがひとり立っており、俺たちを見ると腰のホルスターに手を伸ばす。
しかし、俺は銃口をクレイジー・イワンの頭に突き付けて、そう脅迫する。
「ど、退くわけねえだろ! 失せろ、クソ野郎!」
「ほほう。なら、燃えてしまえ」
ワーキャットの返答に対してカリギュラがそう言うと、ワーキャットのケツに火が付いた。文字通りに。
「あつ! あちちちっ! し、尻尾が燃える! やめ──」
「そりゃっと」
俺はクレイジー・イワンを横に突き飛ばすとケツを押さえて悲鳴を上げるワーキャットの腹に拳を叩き込み、今日の食事を吐き出させる。
それからケツの火が消えたワーキャットをクレイジー・イワンの代わりに盾にして、事務所の扉を蹴り破った。
「な、なんだっ!?」
事務所の中には明らかに堅気ではない人間や悪魔がおり、人質を取って突入してきた俺たちの方に一斉に視線を向ける。
「おやおや? 見たことのある顔が何人かいるな?」
「あ、ああ! お前らは……俺たちの事務所を吹っ飛ばした……!」
「イエス。久しぶりだな、煉獄組の兄ちゃんたち?」
そうなのだ。
ここにいる半数は、かつて煉獄組に所属していたヤクザどもだった。
どうやらやつらは再結成したらしい。
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