Case.20 クマモト・オブ・ザ・デッド
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──Case.20 クマモト・オブ・ザ・デッド
俺たちは突如として湧いたスライム需要で儲けたが、バブルが弾けるのは早かった。
もうスライムは十分集まったとして柴田教授は買い取りを止め、スライムの価値は再び下落したのだ。
「また新しい仕事を探さないとな……」
スライム漁はある程度は稼ぎになったとはいえ、これから将来に不安がないくらい貯蓄が貯まったとは言い難かった。
……調子に乗って外食もしまくっちゃったし……。
「俺様は楽して稼げる仕事がいいぞ」
「そんな仕事はありませんよっと……」
俺はカリギュラにそう返しながら、メールボックスを確認。
依頼のメールは……何もない。
迷惑メールは腐るほど来るんだけどな。
「軍政局が魔獣駆除の依頼出しているから、そっちに行くか?」
「種類は?」
「ゴブリン」
「1匹5000円のやつか……」
ゴブリンは弱くて、安い魔獣である。
特筆すべき点は特にない。
正直、ゴブリンは駆除してもあまり儲からないので、俺もやりたくない。
そう思っていたときだ。
メールの着信音が響いた。
「おっと。……依頼だ!」
「おお! ナイスタイミング!」
俺たちは届いたメールの内容を確認する。
「安否確認をしてほしいって依頼だな」
「相手は悪魔か?」
「いいや。人間だ」
俺は仕事の詳細をカリギュラに説明する。
安否確認の対象は熊本市内に暮らす久保田雄一。
25歳で熊本市内の飲食店従業員をやっている人物だと資料にはある。
3日前から職場に出ておらず、親からの電話にも応じず。
心配した県外に暮らす両親から安否確認を求める依頼が俺たちに、というわけだ。
「んん。だが、どうして憲兵に頼まなかったんだろうな?」
「さてな。何か後ろめたいところがあるのかもしれない」
憲兵が仕事をしないというのもあるが、憲兵に見つかるとまずいものを持っていると親御さんが思って憲兵に頼まなかった可能性もある。
「とりあえず、自宅を調べてみるか。安否確認だからな」
「了解!」
俺たちは添付された資料にある久保田の自宅へと向かうことに。
久保田の自宅は、この前の仕事で訪れたヒナの自宅がある新興住宅街とは真逆の場所に位置していた。
地獄戦争で荒れて、そのままの場所だ。
弾痕が残る壁や砲撃で壊れた建物が並び、治安もあまりよろしくない場所である。
地価が安く、家賃も安く、その上に憲兵もパトロールしない場所なので、他県から逃げ込んだ犯罪者が潜んでいたりする。
日本における法の空白地域、とでも言うべきか。
「また場所が場所だな。トラブルに巻き込まれていそうだ」
「死体になっていても報酬は出るんだよな?」
「出るけど、後味が悪いだろ……」
できることならば生きていてほしいものだ。
俺はそう思いながら久保田の自宅であるアパートに向かう。
久保田はアパートの1階に住んでいるという話だったが……。
「この臭い……」
俺たちがアパートの扉の前に立つと中から異臭がした。
腐敗した肉の臭いだが、それに混じって何かの化学薬品の臭いがする。
俺たちはこの腐肉の臭いに心当たりがあった。
「カリギュラ。悪魔や魔獣の気配は?」
「……するぞ。まさにこの部屋の中だ」
「クソ。大家に話してカギを借りよう。それから踏み込んで調べる」
「はいはい」
俺たちは大家の部屋をノックすると中から現れたのはよぼよぼの老人だ。
「すみません。俺たちは105号室に住んでいる久保田さんの家族に頼まれて安否確認をしに来たのですが、部屋のカギを貸していただけませんか?」
俺が名刺を差し出してそう言うと老人は怪訝そうな顔をする。
「はあ? 誰だってえ?」
「だから、久保田さんの安否確認に来たんですよ」
「ああ? 誰の安全ピンだってえ?」
「く・ぼ・た・さ・ん! の! あ・ん・ぴ・か・く・に・ん!」
耳の遠くなった老人と話すのは大変苦労する。
俺が筆談すべきかと考え始めたとき、老人は何かを思い出したようにぽんと手を叩くと、胸ポケットから補聴器を取り出した。
「もう1回言ってくれるかい?」
「はあ。105号室に住んでいる久保田さんの家族に頼まれて、彼の安否を確認しに来ました。部屋のカギ、貸してもらえます?」
「ああ。分かった、分かった。あの人の部屋から生ゴミの臭いがするって苦情があったから、ついでにその件も文句言っておいてくれるかい?」
「分かりました」
老人は俺たちに部屋のカギを渡し、俺たちは再び105号室へ。
「カリギュラ。接敵に備えろ」
「合点だ」
俺の指示にカリギュラが頷く。
「久保田さん、開けますよ」
俺たちは慎重に扉のカギを開け、ゆっくりと扉を開こうとし──。
「がああああ────っ!」
突然部屋の中から奇声が響き、扉に向けて何かが突進してきた。
「クソ、やっぱりか!」
扉の向こうから現れたのは、俺たちの想像通りの存在だった。
青白く腐敗した身体に、ドラッグ中毒者のように血走った眼球、口から漏れる涎、漂う生ゴミのような悪臭。
「阿賀野、やっぱりゾンビだ!」
そうゾンビである。
ゾンビ──。
まだ正確な定義は定まっていないが、世間一般では死体や身体の弱った人間または動物が悪魔によって変化させられたものだとされている。
ゾンビパニック映画のように噛まれた人間がゾンビになるということはなく、どういうメカニズムで死体が蘇って動いているかは分からない。
「こいつが久保田だ! ゾンビになっちまってやがる!」
「どうする!?」
ゾンビ化した存在は手当たり次第に食い荒らす。
それこそゾンビ映画のように生きている人間だろうとお構いなしに食らいつき、その肉を貪る。
ゾンビ化した人間を治療する方法はなく、このままゾンビ化した久保田を放置して帰れば、大家や他の住民が襲われるだろう。
「こうなっちまってるなら仕方ない。殺すだけだ」
俺はHK45自動拳銃を抜き、ゾンビとなった久保田の頭に2発銃弾を叩き込んだ。
ゾンビとなった久保田は脳漿をスプレーのように壁に撒き散らし、地面に倒れた。
「あーあ。これでも報酬は出るんだよな?」
「出るだろうが、こうなった原因が知りたい」
「じゃあ、家探しの時間だな」
「ああ。この薬品臭が気になる」
俺たちはそう言葉を交わして、久保田の部屋に踏み込んだ。
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