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Case.21 ハートのアルケミスト

……………………


 ──Case.21 ハートのアルケミスト



 俺たちはゾンビ化した久保田の部屋に踏み込み、どうして彼がゾンビになったかの原因を探っている。


「この薬品臭は……覚えがあるぞ」


 妙に甘ったるく、鼻に残る臭い。

 この臭いにはやはり覚えがある。


「見ろ、阿賀野」


 ここで先に進んでいたカリギュラが奥のリビングで何かを見つけた。

 俺は頭の中で当たりを付けながら、カリギュラの元に向かう。


「注射器、剃刀、金属スプーン、ライター、そして白い粉と」


「わはは。典型的なヤク中の部屋だな!」


 ハリウッド映画に出てきそうなほどのドラッグ中毒者のセットである。

 それもどれも使い古してあるものだった。


「これは憲兵に依頼できないわけだな。ははっ!」


「ああ。ドラッグ絡みで前科持ちだろう。両親もそのことを知っていたと見るべきか」


 俺はカリギュラとそう言葉を交わしながら、鼻を鳴らす。

 甘い匂いはこの辺りで濃く漂っている。


「甘い匂いもここからする。何のドラッグか確かめよう」


「なあなあ。そこまでする必要があるのか? 安否は確かめたろ?」


「ああ。これが犯罪だったら、この情報を軍政局に売る。金になるぞ」


「おお。やろう!」


 もちろん俺も慈善事業でゾンビになった原因を探しているわけではない。

 もし、久保田がゾンビ化した原因が分かれば、軍政局がその情報に金を払ってくれるだろうからである。


「ここに錠剤があるぞ。まだ粉になっていないヤクだ」


 そう言ってカリギュラはプラスチックの袋に入ったドラッグを見つけた。


「ふむ。甘い臭いがして、ハートのマークが刻まれている。悪趣味だな……」


「しかし、これでは何のドラッグか分からんな」


「知っているかもしれない人間に聞いてみよう」


「そんな知り合いがいるのか?」


「ああ。最近、知り合った連中がいるだろ?」


 俺たちには当てがある。

 最近、この街の暗黒街の人間と悪魔に()()()()ができたところだ。


「それより他に怪しいものがないか調べよう。ドラッグは怪しいが原因じゃないかもしれない。ゾンビになるメカニズムってのはよく分かってないからな」


「俺様も知らん。死霊術には興味がなかったからな」


「そうか。なら、地道に家探しだな」


 俺たちはそれから部屋の中を調べたが、食い尽くされた冷蔵庫とゾンビ化したあとに漁っただろうゴミ箱以外は特に怪しいものはなかった。


「……手がかりはこのドラッグだけみたいだな」


「さっさとお前の言う知り合いとやらに会いに行こうぜ」


「ああ。久保田の死も軍政局に知らせておかないとな」


 俺たちは軍政局に久保田がゾンビ化したため、射殺したことを報告。


 それから俺たちは市内の歓楽街に向かう。


「おい。ここは……」


「そうだ。アビス・ファミリーの連中だ」


 俺たちが訪れたのはアビス・ファミリーの縄張りであるバーだ。

 俺の言う暗黒街の知り合いというのは、連中のことである。

 豚鼻の悪魔であるオルガンと俺たちには繋がりがあるのだ。

 相手が拒もうとも、な。


「う、うわあっ! 頭のおかしい便利屋コンビだ!」


 俺たちの姿を見るなり、そう声を上げる用心棒のヤギ角の悪魔。

 失礼な野郎だな……。


「よう、オルガンに会いたいんだが?」


「オ、オルガンの兄貴に何の用事だ……?」


「少し聞きたいことがあるだけだ。そんなにビビるな」


「わ、分かった。よ、呼ぶから待ってろ……」


 それからヤギ角の悪魔はスマートフォンでオルガンを呼び出す。

 オルガンはそれから15分ほど経ったのちに、手下とともにおどおどとやってきた。


「お、おう。な、何の用事だ、便利屋……?」


「聞きたいことがある。このドラッグについて知らないか?」


 俺はオルガンにハートマークが刻まれた錠剤を投げ渡してそう尋ねる。


「こいつは……クレイジー・イワンの作ったヤクだな……」


 ドラッグを見たオルガンはそう言う。

 どうやら心当たりがあるようだ。


「そのクレイジー・イワンってのは悪魔か、人間か? どっちだ?」


「あ、悪魔だ。バ、バフォメットの錬金術師だよ……」


「錬金術師、か」


 錬金術──。


 かつては時代遅れの化学もどきであったが、今では地獄がもたらした新しい技術だ。

 企業はこれを異常技術(パラテック)とか超化学(ウルトラケミストリー)とかと呼称している。


 それを扱う悪魔や人間は錬金術師と呼ばれている。


「そいつの居場所は?」


「つ、潰れたホストクラブの地下にラボを構えている。場所は地図のここだ。昔は煉獄組と取引していたらしいが……」


「煉獄組か……」


 俺たちがいろいろあって爆破したヤクザの事務所──それが煉獄組の事務所だ。


「助かった。情報料だが……」


「そ、それはいいからもうどっかに行ってくれ……。あんたと一緒にいると落ち着かないよ……」


 そう言ってオルガンは力なく手を振る。

 情報を手にした俺たちは、問題のホストクラブの跡地に向かう。


「しかし、錬金術とはな……。ますますゾンビと関係していそうな気がしてきた」


「はははっ。楽しくなってきたな?」


 錬金術には謎が多い。

 不老不死の存在を生み出せるだとか、全く未知の物質を創造するとかで、企業たちも必死に情報を集めている。


 ゾンビを生み出すドラッグなんてのも企業は欲しがるかもしれない。


「この先だ」


 かつて華やかなホストクラブがあっただろう雑居ビルには壁一面にドクロの落書きがされ、明らかに堅気ではないジャージ姿の悪魔たちが屯していた。

 真っ赤な肌に入れ墨をした、鬼のような角を生やした悪魔が4名。

 まだどいつも悪魔にしては若い。


「おい、おっさん。可愛い子、連れてるじゃん?」


 俺たちがそこに近づくと、悪魔のひとりがにやにやと笑ってそう話しかけてくる。


「退いてろ、クソガキ。俺はおっさんって年齢じゃない」


「はあ? 舐めてんのか、この──」


 そう言って悪魔はナイフを抜いた。

 それを見て俺はすぐさまそいつの手首を捩じ上げて、ナイフを奪い取り、そのまま地面に叩き伏せた。


「ぎゃあっ!」


「大人しくしていろ。ナイフを抜いた時点でお前は手札を晒した」


 ナイフに頼ったということはカリギュラのような魔法が使えるわけでも、腕力勝負で人間を上回ることもないということだ。

 そして竜殺しの影響で、俺は不死身になったと同時にその腕力も大きく増している。

 このチンピラに多少の腕の覚えがあろうが、情報軍で訓練されたオペレーターである俺には敵わん。


「てめえ!」


「やっちまえ!」


 一斉にナイフや拳銃を抜くチンピラ悪魔ども。


 ……まあ、数では相手が優勢だ。


……………………

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― 新着の感想 ―
チンピラ悪魔の皆さん…合掌。チーン Ω\(ˇーˇ )
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