Case.18 怪しげなる下水処理場
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──Case.18 怪しげなる下水処理場
俺はまず河川敷で日光浴しているリザードマンたちの元へ向かう。
「へイッ、兄さんたち。いい鱗だね」
「なんだ、人間? 何か用事か?」
俺がにこやかにリザードマンたちに話しかけると、リザードマンたちはやや警戒した様子を見せる。
俺が腰のホルスターにHK45自動拳銃を下げているというせいでもあるだろうが、単純に彼らが警戒心の高い悪魔だからということもある。
リザードマンの警戒心の高さは地獄戦争で知った。
彼らは偵察部隊として極めて有能であり、待ち伏せにも鋭敏だった。
今でも民間軍事会社の優秀コントラクターとして雇われている。
「この人を探している。柴田慎太郎という学者だ」
俺は柴田教授の写真をリザードマンに見せる。
リザードマンたちはしげしげと写真を見つめた。
「見たことがある。この川でひとりで水を採取したり、ケルピーの写真を撮ったりしていた。俺たちにも軽く挨拶していったっけ」
「何を調べていて、どこに向かったか聞いてないか?」
「魔獣を探していると言っていた。何の魔獣だったか……」
「思い出してくれ。3日も行方知れずなんだ」
「そう言われてもな……」
リザードマンたちは慎重に考え込む。
それからリザードマンのひとりが、ぽんと手を叩く。
「ああ。思い出した。スライムだ。スライムを探していると言っていた」
「マジか……」
スライム──。
あの誰も愛さない魔獣を愛しそうな男がひとりいたようだ。
しかし、よりによってスライムをわざわざ探しているとは。
確かにどれだけ不快な害虫や害獣だろうとそれを研究している人間はいるというが。
「ありがとう。助かった。情報提供に感謝する」
「あんたが探している人、見つかるといいな」
リザードマンは軽くそう言い、俺はカリギュラの元へと戻った。
カリギュラは橋の欄干に群れていた大きなカラスの魔獣から情報を引き出している最中だった。
カラスたちはガァガァとただ大声で鳴いているだけだが、カリギュラは理解したように頷いている。
やつには魔獣の思考が読めるのだ。
正確には低位魔獣を支配し、その思考を抜き取っているのである。
かつてはもっと高位の魔獣すらも支配して、自在に操っていたとか。
「どうだ? 手に入ったか?」
「ああ。柴田は南西に向かったみたいだ。川に沿って南西に」
「そうか。で、悪いニュースなんだが、柴田教授はスライムを探していたらしい」
「げえっ……」
俺の言葉にカリギュラが一瞬でげっそりとした表情を浮かべる。
「気持ちは分かる。俺だっていやだよ。だけど、ここから南西にあるスライムが出そうな場所と言えば──」
「下水処理場、だな……」
この場所から南西の方角には、半ば放棄された下水処理施設がある。
地獄戦争で被害を受けて破壊され、それから遅々として再建が進まない場所だ。
今も市内を流れる汚水が流れ込んでいる場所は、スライムの格好の餌場である。
「柴田がスライムに食われていたら、どうする? 連中、骨も残さないぞ」
「そのときはそのときだ。行くぞ」
「はいはい」
俺はカリギュラにそう促し、車に乗ると下水処理場を目指す。
軽トラックで俺たちは白川に沿って進み、南西にある下水処理場に向かう。
「見えてきたな」
下水処理場はかつて九州新幹線が走っていた高架の向こうにある。
今、新幹線はどうなったって?
こんな場所を走っているわけないだろ。
「車が止まっているな」
「ああ。確認しよう」
俺たちは軽トラックを降りて、下水処理場の駐車場に止まっている車両を確認。
車は3台停車しており、3台とも無人であった。
しかし、放棄された下水処理場には似合わない新車である。
2台は業務用のバンで、1台は高級SUVだ。
「どうも臭うな」
「そりゃあ下水処理場だからな」
「違う。怪しいって意味だ」
カリギュラがやる気なさそうに肩を竦めるのに俺はいつでもホルスターの自動拳銃を抜けるように備えておく。
俺の元情報軍のオペレーターとしての勘が、トラブルの気配を感じていた。
「カリギュラ。悪魔の気配は?」
「魔獣はいるようだが、悪臭が酷い。これは間違いなくスライムだ」
「他には?」
「……ふむ。臭いが薄いが何体かの悪魔が出入りしている」
カリギュラの鼻が、悪魔の臭いを捕らえた。
魔獣ではなく、悪魔だ。
こうなるとどうにもおかしい。
「踏み込むぞ。カリギュラ、柴田教授の顔は頭に叩き込んであるな?」
「ああ。ばっちりだが?」
「間違って彼を燃やすなよ」
「ははっ。合点だ」
カリギュラは小さく笑い、俺とともに下水処理場の内部に踏み込む。
タクティカルライトで周囲を照らしながら、俺たちは内部を進んでいく。
俺が記憶している限り、この下水処理場は放棄されているはずだが、最近人間が出入りした気配がある。
真新しい靴跡や捨てられたタバコの吸い殻があるのだ。
「さて、何が出るか……」
「スライム以外なら何でもいい」
俺たちは慎重に下水処理場内を進んでいくと、男の声が聞こえてきた。
俺とカリギュラは遮蔽物に身を潜ませ、声の方に耳を澄ませる。
「──もう一度聞くぞ! どうしてここを探っていた!?」
「私は学者だ! 君が疑っているような憲兵ではない──」
若い男と年配の男性の声。
「ああ。マジかよ……」
俺が遮蔽物の向こうに見たのは、手足をパイプ椅子に拘束され、黒スーツの男たちに取り囲まれた柴田教授だった。
彼は黒スーツの男のひとりによって額に拳銃の銃口を突きつけられている。
「どうする、阿賀野?」
「助けるしかないだろ」
「ふふふ。なら、派手にやろう」
まさに絶体絶命の状況にある彼を見て、俺とカリギュラはそう言葉を交わした。
俺は自動拳銃を抜き、カリギュラは嗜虐的な笑みを浮かべて炎を生じさせた。
さあ、パーティ開始だ。
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