Case.16 キング・オブ・キャッツ
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──Case.16 キング・オブ・キャッツ
男の声を出して現れた探し猫のミント。
階段を悠然と降りてきたミントは猫又と俺たちの間に入り、しっ! と短く猫又を威嚇する。
「にゃあん。残念なり……」
すると猫又はそう言ってすごすごと奥に引っ込んでいった。
「本当に猫が喋ってる……」
「ああっ! 思い出した! この臭いは……ケットシーだ!」
驚く俺を横に、ぽんと手を叩いてカリギュラがそう言う。
「ご名答。私はケットシーである」
ふふんと鼻を鳴らしてそう言うミント。
地獄戦争以来、世の中がひっくり返ったせいで不思議なものをいろいろと見てきたが、こんな光景は俺も初めて見た。
「ミントちゃん。本当に喋れたの?」
「うん。喋れるんだ。これまで黙っていてすまない、ヒナ」
ミントは黄色い瞳でじっとヒナを見つめてそう言う。
「どうして逃げ出したの? ミントちゃんが悪魔でも家にいていいんだよ?」
「残念だけどそれはできないんだ。私は猫の王様になったからね」
「猫の王様……?」
誇らしげにそう言うミントにヒナはもちろん俺たちも首を傾げる。
「まあ、見れば分かるよ。おいで」
ミントはそう言うと再び2階へと上がっていく。
俺たちもヒナとともにそれについていった。
「これはまた大層な……」
2階の和室はまさに猫の御殿というべきものになっていた。
そう、二足歩行の猫たちがヤクザの舎弟のように頭を下げて出迎える中には、立派な座敷があったのだ。
壁には猫又を描いた掛け軸が飾られ、違い棚には高級そうな花瓶にはマタタビの花が活けてある。
ミントはその座敷の一番奥にある大きな座布団に座った。
「お客様に座布団をお出ししてくれ」
ミントがそう言うと猫たちが器用に俺たちの分の座布団を並べる。
「ささ、どうぞ座って」
「は、はあ……」
俺たちはミントに勧められるがままに座布団に腰を下ろす。
「私はこの猫御殿の主になったんだ。猫の王様だよ。ここで私は将来の化け猫、猫又、ケットシー、そしてごくごく普通の猫などを育てる役割を先代の猫の王から授かった。この熊本における王位は私に引き継がれたんだ」
ミントはそう語る。
「ヒナのことを命の恩人だと言っていたが、あれはどういうことだ?」
「そのままの意味だ。私はケットシーとして熊本を放浪していたのだが、あるとき間抜けなことに人間に野良猫として捕まってしまってね。譲渡会でヒナに拾ってもらえなければ、処分されていたかもしれないのだ」
そう思うとぞっとするとミントは言う。
「ねえ、ミントはこの家で暮らすの? 私の家には帰ってこないの……?」
「すまない、ヒナ。だが、私の代わりの子を送ろう。その子を私の代わりの子として可愛がってあげてくれ」
「そんなの寂しいよ……」
「分かってくれ。私はケットシーなのだ。いつまでも飼い猫ではいられない。君とのひとときはとても楽しかったが、これが別れのときだ」
ぐずるヒナにミントはそう諭す。
そして、そんなヒナの前に子猫が姿を見せた。
ミントと同じ黒猫で尻尾は短く、カギ尻尾だ。
その子猫はぐずるヒナを宥めるように鳴き、前足を正座するヒナの右膝に乗せた。
「さあ、この子を連れて帰るんだ。その子は君が可愛がってくれればうんと長生きするよ。君が寂しくならないくらいにね」
「……分かった……」
ヒナは黒猫を抱きかかえ、ぎゅっと抱きしめた。
黒猫はぐるぐると気持ちよさそうにヒナに抱かれている。
「君たちもご苦労だったね。特に──カリギュラ様にはご足労を」
「ほう。俺様が誰なのか分かるか」
「もちろん。かつての地獄の元帥よ。その耳に入っているかは分からないが、あなたの後釜を狙っているものもいるようですよ。猫たちがそう囁いているのが地獄から聞こえてきました」
「俺様の後釜だと……?」
「そう、地獄はまだこの地を諦めていないということです」
「諦めていない、か……」
ミントの告げた言葉にカリギュラは何の感情も見せなかった。
カリギュラはそのことに興味がないのか、あるいは表情を押し殺しているのか。
やつとコンビを組んで3年ほど経つが、カリギュラが何を考えているのか分からないのは初めてだ。
「さあ、行きたまえ。君に会えて嬉しかったよ、ヒナ」
「……さようなら、ミント」
ミントは別れの言葉を告げ、ヒナも黒猫を抱えたまま手を振った。
それから俺たちは猫屋敷を出た。
「便利屋さん。ありがとうございました」
「いや。ミントちゃんが家に戻らなくて残念だったね……」
「いいんです。ミントちゃんが元気だってことが分かっただけで」
少し涙ぐみながらもヒナは俺たちに礼を言う。
「ヒナちゃん。家まで送っていこう」
「それから報酬ももらわないとな」
俺たちはそれからヒナを自宅まで送り届け、ヒナの母親から報酬を受け取った。
報酬は7万円。
猫を探しただけの仕事にしては大きな儲けだ。
まあ、猫又に食い殺されそうになったけど。
「カリギュラ。さっきの話だが……」
「俺様にはもう関係のない話だ。今さら地獄が何をしようとな」
「そうか。ならいいが」
俺がカリギュラを殺さなかった理由は、やつが再び地獄の司令官に返り咲くことを狙っていないと宣言していたからだ。
最初は悪魔の言うことを信じるなんて愚かだと思ったが、今は割と信じている。
やつは信じるに値すると示してくれているからな。
「さて、この報酬で今日は何か美味いものでも食おう」
「焼肉!」
「いいや。回転寿司だ。俺は寿司が食いたい。猫と言えば魚だからな」
「ええーっ! あの生魚料理かよ~? 肉は焼いた方が美味いんぞ~!」
「生が美味しいときもあるの」
不平を漏らしていたカリギュラだったが、実際に寿司屋に連れて行ったら、馬鹿みたいに食べていた。
そんな俺たちが会計で真っ青になったのは言うまでもない……。
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