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Case.15 猫屋敷への侵入

今日の更新はこれにて終了です。応援よろしくお願いします。

……………………


 ──Case.15 猫屋敷への侵入



 俺たちの視線の先にいる数匹の猫。


 俺は猫のことをふわふわで可愛いハッピーな生き物だと思っている。

 だが、俺たちの視線の先にいる猫たちはあまりハッピーな雰囲気ではない。


「あの中にミントはいないな」


 猫たちの中に黒猫はいなかった。

 ミントは真っ黒な猫で、それに尻尾がカギ尻尾になっている。

 黒猫ではあるが、特徴的なので見分けは付くだろう。


「あいつから微妙に悪魔の臭いがする」


「猫の姿をした悪魔か?」


「地獄にはそういうものもいるぞ、阿賀野」


 地獄に関してはカリギュラが専門家だ。

 やつの言うことを俺は信じる。


「とりあえず悪魔の臭いを追ってみよう。ヒナちゃんは俺の後ろにいて」


「は、はい」


 それからカリギュラを先頭に俺たちは住宅街を走る道路を歩いていく。


 俺たちの視線の先にいた猫たちはじっと俺たちを見つめており、通り過ぎるとあとからついてき始めた。


「……なあ、猫の悪魔って人間襲ったりするのか? 俺は猫と戦いたくないんだが」


「人間を襲うやつもいるが、こいつらは違うな」


「ならよかった」


 地獄戦争中には、多くの異形の悪魔たちをぶち殺してきた俺だったが、猫の悪魔とは戦ったことがない。


 猫と戦う羽目になったら……俺はこれから猫のことをふわふわで可愛いハッピーな生き物と認識できなくなりそうでとても嫌だった。

 猫を銃で撃ったりする羽目になったら、冗談抜きでトラウマになりそうだ。


「お前、犬は殺せるのに猫になるとダメなのか? 同じようなものだろう?」


「おいおい。俺だって犬がコーギーやゴールデンレトリバーみたいなフレンドリーな見た目してたら躊躇うぜ。けど、ヘルハウンドみたいないかにも『俺たち人を食い殺してます』って面してたら、それは躊躇わないさ」


 まあ、そうは言いつつも単に俺が猫派だからと言う理由もあるのだが。

 犬は軍隊時代に酷い目に遭わされたことが何度もあるので、そもそもそこまで好きじゃない。


「それより臭いの方はどうなんだ?」


「追っている。段々と濃くなっている。近づいているな」


「他の悪魔の臭いは? 人間を襲う類の悪魔や魔獣はいそうか?」


「俺様も嗅ぎなれない悪魔の臭いがする。魔獣はいなさなそうだが……」


「用心した方が良さそうだな」


 カリギュラは臭いを追い、俺はヒナから目を離さないようにして、新興住宅街の道路を進み続ける。


「ここだ。臭いはここから漂っている」


「これは……」


 それは真新しい建物が並ぶ新興住宅街にあって、やや古びた建物であった。

 やや古びたというのはオブラートに包みすぎたかもしれない。

 ストレートに表現すればおんぼろ屋敷だ。

 ツタが壁に巻きつき、最後に掃除されたのは地獄戦争より前だろう薄汚さ。


 そして、何より猫が群れている。

 三毛猫、白猫、キジトラ、サビと多くの猫がいる。

 おんぼろ屋敷であり、猫屋敷のようだ。


「人の臭いはするか?」


「しないな。死体の臭いもしない。ただ猫の小便の臭いが酷いぞ……」


「ふうむ。なら、ちょっと失礼して猫を探させてもらおう」


 俺は屋敷の門をがらりと音を立てて開く。

 門の向こうには庭があり、そこにも猫だらけだ。

 そこには何匹かの黒猫もいたが、俺が見る限りミントではなさそうだ。


「ヒナちゃん。ミントちゃんはここにいるかい?」


「ううん。いない……」


「そうか。じゃあ、もうちょっと探そう」


 俺たちはそう言って庭から見える屋敷の全貌を見た。

 2階建ての和風の家で、なかなかに広い敷地。

 玄関の扉には猫ドアがついているあたりは愛猫家の家だったのかもしれない。


「ミントちゃん! ミントちゃーん! 出て来てー!」


 ヒナが呼びかけるが、猫たちは無反応である。

 この素っ気なさは猫らしいが、ミントが出て来ないのは困った。


「家の中だったりするか?」


「中からも猫の小便の臭いがする。猫がいること自体は間違いなさそうだ」


「なら、探るしかないな。虎穴に入らざれば虎子を得ずってな」


「俺様たちが探しているのは、虎ではなく猫だけどな」


 俺たちは玄関扉に向けて歩き、扉が施錠されているのを確認。

 だが、古いタイプのカギだ。

 ピッキングするのは、実に容易である。

 情報軍ではピッキングの方法も教えられたしな。


 俺はポケットからピッキングツールを取り出し、いとも簡単に扉を開いた。


「お邪魔しまーす」


 俺はそう言いながら家に上がり込む。

 当然だが、人が住んでいないのに明かりはない。

 俺はタクティカルライトをつけて周囲を照らすと──。


「しゃーっ!」


 1匹の猫が照らし出され、その猫が威嚇する声を上げて逃げて行った。


「わっ、びっくりした」


「はははっ。猫風情に驚かされるとはお前も軟弱だな!」


「うるせえ」


 カリギュラの笑いに俺はじろりとやつを睨みながら家の中を探る。

 すると──。


「……阿賀野。猫の小便の臭いで分かりづらかったが、まずいのがいる」


「まずいのって?」


「人を襲うタイプの猫の悪魔だ」


 カリギュラがそう言ったとき、左手の部屋で影が揺らめいた。

 何か大型犬ほどのサイズがある動物が動く音も。


「畜生」


 俺は腰のホルスターからHK45自動拳銃を抜き、ヒナを守る。


「出て来い、そこの悪魔!」


 そして俺が警告すると、影が素早く動いた。


「にゃあおん。これは美味そうな人間が来たねえ」


 中年の女の声とともに現れたのは巨大な猫。

 キジトラの模様で身体には赤と白の着物を纏い、2本の後ろ足で歩いている。

 何より特徴的なのはその尻尾で、それは──ふたつに分かれていた。


「まさか……猫又……?」


 ふたつの尻尾を持つ猫の悪魔と言えば有名なのは猫又だ。


「にゃにゃにゃ。人間はそう呼ぶみたいだねえ。けど、あたしはただの化け猫だよ」


 猫又はそう言い、じりじりと俺たちの方に迫る。

 化け猫とは言えど猫を撃ちたくなかったが、これでは仕方がない。

 俺は自動拳銃の引き金に指を掛け──。


「そこまでだ!」


 そこで不意に男の声が響いた。

 その声とともに猫又の動きが止まる。


「その子は私の恩人だ。殺してはいけない」


「あれは……」


 2階に続く階段から優雅に降りてきたのは、1匹の黒猫。

 その尻尾はカギ尻尾のそれで──。


「ミントちゃん!」


 そう、探していたミントであった。


……………………

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