Case.14 化けの皮を被る
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──Case.14 化けの皮を被る
問題の猫──ミントが飼われていたヒナの家は、地獄戦争後にできた新興住宅街にあった。
皮肉なことに地獄戦争で熊本の地価は暴落したのだが、地獄に浸食された土地は国内外の企業にとって興味の尽きない場所らしく、こうして企業が新たに整備した住宅街などが出来ているのだ。
「ここです」
そんな新興住宅街の一角でヒナは立ち止まる。
「これはなかなか立派なお家で」
俺たちの前には俺たちのちっぽけな稼ぎではとてもではないが建てられないだろう、とても立派な一軒家であった。
「カリギュラ。悪魔や魔獣の気配はどうだ?」
「悪魔の臭いはするが、どういう悪魔かまでは分からんな」
「そうか。悪魔そのものはいたのか……」
ミントが悪魔かどうかは不明なままだが、悪魔はこの付近にいた。
カリギュラの嗅覚に間違いはない。
「とりあえず、お前はそのまま外を探ってくれ。俺は保護者と話してくる」
「合点だ」
便利屋の仕事であっても未成年者とは契約できない。
保護者の承諾が必要だ。
それにミントが喋ったというのを聞いたのは、ヒナの両親だ。
ミントが何を喋ったのか知る必要がある。
「ヒナちゃん。お母さんかお父さんはいる?」
「お母さんがいます」
「じゃあ、お母さんに会わせてくれるかい」
「はい」
俺はヒナに連れられて、家の中に入る。
「お邪魔します」
「お母さん。便利屋さんを連れて来たよ」
俺は玄関で待ち、それからヒナが母を呼ぶ。
ヒナによく似た顔だちの中年女性が怪訝そうに玄関を訪れた。
「どなたです……?」
「自分、こういうものです。お嬢さんから猫を探してほしいと頼まれまして」
俺も最低限の社会人としての信頼のために名刺は持っている。
これは宣伝のうちには入らないだろう。
「阿賀野篤さん? ご職業は便利屋?」
「ええ。普段は魔獣と悪魔関係のトラブルを扱っているのですが」
「悪魔と魔獣……」
ヒナの母ははっとした表情を浮かべる。
「……心当たりがおありのようですね」
「……とりあえず家にお上がりください。お話したいことがあります」
ヒナの母に言われて、俺は玄関から家に上がった。
それから俺たちは応接間に入り、ヒナの母に椅子を勧められて座る。
「ヒナ。少しの間、自分の部屋にいなさい」
ヒナの母はそう言い、ヒナを自室に向かわせると俺の方を向いた。
「ミントとヒナが呼んでいる猫ですが、飼い始めたのは3年ほど前からなんです」
そう言って事情を話し始めるヒナの母。
「3年前、私たちは夫の転勤でこの熊本に越してきたのです。娘は小学校を転校することになって友達と別れることになり、寂しがっていました。そこでペットを飼うことにしたんです」
「それがミント?」
「ええ。譲渡会で娘が一目見て気に入った猫でした。ですが、あの猫はどうにも奇妙なのです」
「……何があったんですか?」
俺は僅かに表情を歪めるヒナの母にそう尋ねる。
どう見ても可愛い愛猫を語る表情ではない。
「最初におかしいと思ったのは、おやつの減りが早いことでした。けど、娘は約束した以上の量はあげていないというのですよ。どういうことなのか分からず、私たちは困惑していました。そして、ある日見たんです」
「まさかとは思いますが……猫が?」
「ええ。猫が人間みたいに二足歩行して、戸棚を開き、器用に爪でおやつの袋を開けていたんです」
ううむ。それぐらいは普通の猫でもやりかねない範囲だ。
俺も癒されたいときには猫動画を見るが、悪魔でなくとも立ち上がって戸棚を開くことぐらいはやっている。
「決定的だったのは、猫が……その……」
「喋った?」
「え、ええ。あれは猫の鳴き声ではありませんでした。ミントが窓からじっとベランダに止まっている鳩を見つめていたときです。私はミントが鳩を獲るつもりなのかと思って、それは困るから手を叩いて鳩を逃がしたんです。前にもミントはベランダの鳩を獲って家の中を血だらけ、羽根だらけにしましたから」
すると、とヒナの母は語る。
「ミントは中年の男性のような声でこう言ったんです。『ああ。もうちょっとだったのにな』って……」
「……それって有名な江戸時代の怪談話に似てますね」
「け、けど、夫も聞いていたことがあるんですよ。他の猫とミントが話しているって。猫の王様だとか、大統領だとかが死んだのどうのって」
そう言ってヒナの母は頭を抱えた。
「慣れない土地で私たち頭がおかしくなったのかしら……。やっぱり一度精神科を受診するべきだと思います……?」
「そう決めつけるのは早いですよ、奥さん。今、相棒が悪魔の気配を追っています。ミントが悪魔だった可能性もあるんです」
「そ、そうですか……」
「そうです。まずはミントを見つけて真偽を確かめましょう」
俺はヒナの母を励まし、とりあえず契約を結んだ。
「ヒナちゃん。お母さんとのお話は終わったよ」
「便利屋さん。お母さんはミントちゃんを探すのに賛成してくれた?」
「ああ。これからミントちゃんを一緒に探そう」
「うん!」
ミントが悪魔や魔獣の類だったとしても、ヒナには大事な友達なのだろう。
彼女の表情からそれがはっきりと窺えた。
これが慣れない土地──よりによって地獄に浸食された土地に転勤になったせいで、精神失調をきたした家族の妄想なのかどうかは分からないが、ミントという猫が実在することだけは確かなはずだ。
「カリギュラ。悪魔の方はどうだ?」
「この家から臭いが続いているのを確かめた。あっちの方だ」
そして、カリギュラと合流するとやつは目を細めて北の方を指さした。
その方角では、数匹の猫がじっと俺たちの方を見つめていた。
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