女性神官の告白
ブックマークや評価をありがとうございます。
とても励まされています。
苦しむ竜騎士を、冷めた目で見下ろす。
「ざまあみろ」なんて言葉は、神官として、口にすべきではないのでしょう。
でも……どうしても、口をついて出てしまいそうになるんです。
あなたが選んだあの「聖女」と呼ばれる方、あなたを責め立てておられますよ。
あれほど彼女の可愛らしさを見習えと、私におっしゃっていましたが・・・
彼女はあなたを「裏切り者」と罵っておられます。
私だけでなく、彼女にとっても「裏切り者」・・・皮肉を感じずにはいられません。
私は確かに、地味で真面目すぎると言われたら、反論できません。
でも、だからこそ、あなたの奔放さに惹かれたのです。
練習をおろそかにしても、本番では結果を出す――そんな言葉を、私は尊敬していたのですよ。
けれど、蓋を開けてみれば、竜騎士見習いの卒業試験に不合格。
言い訳の中には、私に責任をなすりつけるような言葉もありましたね。
「君が勉強しろと言ってくれなかったから」――本気でそうおっしゃったのでしょうか?
申し訳ありませんが、私はあなたの保護者ではありません。
そのように他人に甘えているから、何も手に残っていないのですよ。
これだけの犠牲を払って手にした、聖竜様の鱗でさえも。
卒業試験にようやく合格したら、なぜか虹色の聖竜様に選ばれた・・・誰もが首をかしげていましたよ。
それでまた自信を取り戻し、自惚れてしまったのですね。
その後、あなたは例の「聖女」に心を移され、私のことなど顧みなくなった。
それだけなら、よくある男女の別れでしたのに、あなたは公衆の面前で私を罵り、侮辱した。
男に媚びることで立場を上げたと噂される彼女に選ばれたことが、「成功」の証でしたか?
並みいる殿方たちを押しのけて選ばれ、羨まれているとでも?
・・・笑われていましたよ。
そして、そんな男に青春を捧げた私も、また・・・。
有頂天になった愚かな男……無謀な突撃で、あなたは聖竜様を傷つけ、最終的には命さえ奪ってしまった。
あの方の尊い犠牲を、あなたはどう受け止めているのでしょうか?
お体を傷つけて鱗を手にするなど・・・おぞましい独占欲に思えるのですが。
本当に、それは愛ですか?
あなたのどこが、あの聖竜様に選ばれるに値したのか――
私には、今でも分かりません。
愛する竜を喪っても、騎士として生きていける方はいます。
でも、あなたにはその実力も、覚悟もなかった。
後輩たちが次々と頭角を現し、その中には才能がある上に努力を惜しまない者もいる。
きっと、あなたには彼らの存在が脅威だったのでしょうね。
幼い頃は何をせずとも、特別だと思われてきたあなたにとっては。
足音が聞こえ、この男の母君が入ってこられた。
反射的に、私は身を強ばらせた。
無断でこの部屋に足を踏み入れたことを、咎められるかもしれない・・・
そんな考えが頭をよぎった。
あの時は「息子がごめんなさい」と謝ってくれたけれど、この方は母親なのだ。
「神官ならできるでしょう? この子を助けて」と懇願されたら困るわ。
けれど、そのような言葉は、ついぞ聞かれなかった。
この方もまた、この男に「裏切られた」側なのだと、気づく。
救いを強制されなかったことに、安堵した。
私の怒りと痛みを否定されることも、なかった。
この方は、憎まずに済む。
そう思えたことで、ほんの少しの慰めを得た。
そういえば、この方は「勉強しなさい」と言ってあげていたのかしら。
もっとも、人に促されてしぶしぶする勉強が、どれだけ身につくのか・・・私には分かりかねますが。
ふふふ、こんなことを言うから可愛くないと言われるのね。
才能に左右される聖女と、知識の積み重ねがものを言う神官・・・そして、私は神官なのだ。
私は静かに背筋を伸ばし、神官として別れの祈りの言葉を捧げる。
そして、胸を張って、その部屋をあとにした。
元婚約者の神官さん、息子を許していませんでしたー。
子どもの頃にちやほやされて、ビッグマウスになった息子さんでした。