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白百合姫は毒に染まる  作者: 嘉ノ海祈(旧 九条聖羅)


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復讐

※戦闘シーンがございます。

「さぁ、アウレイリア。ついにこの日が来たよ。早速復讐を始めようか」


 その日は遂にやってきた。ミカエル達が待機していた国境にラルフレッド王子がアウレイリア王女を伴い姿を現したのだ。拠点で作戦を練っていたミカエル達は急ぎ国境を隔てる塀に立つ。ラルフレッド王子はミカエル達の姿を見つけると薄い笑みを浮かべた。


「ああ、ここに居たんだね君たち。でも、残念。待ちくたびれちゃってこっちから来ちゃったよ。…お前たち、そこの邪魔な兵士を片付けろ」


 門を守るように立つ兵士達はラルフレッド王子が引き連れてきたの兵士と闘いを始めた。それを横目に確認したラルフレッド王子はアウレイリアに向かって甘く囁いた。


「…ほら、アウレイリア。君の愛しい人たちが君を見ているよ。君の生まれ変わった姿を彼らにも見せてあげよう」


 ぼんやりとした視界で、アウレイリアはミカエルの姿を見つける。ああ、無事に戻ってこれたんだと安堵した。しかし、それと同時今の自分の情けない姿に申し訳なく思う。今の自分は王子の操り人形だ。あれだけ呪いから解放しようとミカエル達は動いてくれていたのに、結局自分は呪いに染まってしまった。


「とりあえず、あの壁を壊しちゃおうか。邪魔でしょ」


 ラルフレッドから放たれた言葉はとても残酷なものだった。あの壁にはミカエル達がいる。壁を壊せばミカエル達は崩れ落ちる壁の巻き添えをくらってしまうに違いない。アウレイリアは心の中で嫌だと叫んだ。


 しかし、王子に操られているこの体は王子の言葉に素直に従う。アウレイリアの身体はすっと手を目にかざすと壁に向かって魔力を放った。


 ドォンと派手な音が平野に響く。ガラガラと石壁が崩れていく音がした。黒く舞い上がる煙の中でアウレイリアは必死にミカエル達の姿を探す。アウレイリアの瞳には涙が浮かんだ。


 ラルフレッドは狂気の笑みを浮かべ破壊された壁を見る。

 

「はははは!素晴らしいよ、アウレイリア!これで君の愛おしい人たちは全滅だ!この調子でこの国の街を全て壊滅…っ!」

 

 突然、ラルフレッド王子の頬を何かが凄い勢いで掠めた。じわりと彼の頬に血が滲み始める。王子はチッと舌打ちしながらそれを手で拭うと、忌々しい目で壁の向こう側を見つめた。


 そこには、先ほど壁に下敷きになったと思われたはずのミカエル達の姿があった。


「ワタシたちを見くびって貰っちゃ困るわ。アンタみたいな尻の青い小僧、ワタシ達が捻り潰してあげる」


 突然、背後から聞き覚えのある声がする。華やかなドレスに身を包んだその人は王子を背後から地面に向かって叩きつけた。王子は物凄い勢いで地面に向かって飛んでいく。地面に叩きつけられるギリギリのところで王子は魔力を使ってなんとか威力を弱め、態勢を持ち直した。


「くそ、なんで他国の王子がここに…。アウレイリア、あいつをやれ!」


 私は彼の指示通りアンドリアス様に向かって魔法を放つ。アンドリアス様は防御魔法で私の攻撃を防ぐ。…が、威力を殺しきれず押し負けた。


「…っ!なに、この威力…。このワタシが押し負けるなんて…。アウレイリア!目を覚ましなさい!こんなのアナタが望んでいることじゃないでしょ!」


 アンドリアス様がそう叫ぶ。でも、私の身体は攻撃の手を止めなかった。


「アウレイリア!後ろだ!…ぐ!」


「おっと、あんたは俺が相手だ」


 ラルフレッド王子の言葉に私は後ろを振り返る。そこにはメイシャン王女がいた。無数の氷のつぶてが私に向かってくる。私は咄嗟に炎で焼き尽くした。ラルフレッド王子にはリカルドが襲い掛かっていた。


「たく、アウレイリア相手に何負けてんのよ」

「悪いわね、助かったわ」


「さっさとアウレイリア様を元に戻せ!ラルフレッド王子!」

「はは!それは無理な相談だね。一度染めてしまったら、そう元には戻せないのさ。永遠に」

「くそっ!」


 ラルフレッド王子はリカルドを物凄い速さで蹴り上げた。魔力で威力も素早さも増幅できる彼は、リカルドより遥かに有利だ。


「ぐっ!」

 

 リカルドはお腹を抑え、地面に膝をつく。ラルフレッド王子はハッと息をこぼし、口角を上げた。


「可哀そうに。魔力を持たない君がボクに勝つなんて無理だよ」


「…はっ、確かにそうかもなっ!でも、俺が無理でも他は分からないだろ?」


「…何?」


 その瞬間、キイィンと剣のぶつかり合う激しい音が響いた。ギリギリと音を立てながら、ラルフレッド王子は己に向けられた剣を防いだ。


「チッ!…まだ騎士がいたのか。…くっ、なぜこんなに威力が強いんだ。お前から魔力は感じられないのに…ぐわっ!」


 ラルフレッド王子はミカエルの剣に弾き飛ばされた。バランスを崩し地面に倒れた王子をミカエルは素早く取り押さえる。すかさずリカルドがミカエルに駆け寄ると王子の手足を金属の枷で拘束した。王子は必死にもがくがミカエルはびくともしなかった。


「俺たちを敵に回すなど浅はかだったな。メルベルトシュタイン第一王子」


「…ちっ!全部お前の計算だったのかハンクレイン…」


 目の前に現れたハンクレイン王子を見て、ラルフレッド王子は悔しそうに顔を歪めた。ハンクレイン王子はしたり顔でラルフレッド王子を見た後、アウレイリアの方へと視線を向けた。


「さて、アウレイリアはこちらに返してもらうぞ。ミカエル、最後の作戦だ―「ふふふふ」…ん?」


「はははは!あっははは!」


「…急になんなんだ気味悪ぃ」


 突然、狂ったように笑い出したラルフレッド王子にリカルドは引いたように後ずさった。ハンクレイン王子も訝しげな表情でラルフレッド王子を見る。


「ハッハハハ!アハハハ!…はぁ。本当滑稽だね。君たち。まさか、まだアウレイリアを元に戻せると思ってるの?…無駄だよ。彼女は既にボクのもの。僕の操り人形さ。…さぁ、アウレイリア。君の真の力を君の愛しい人たちに見せてあげて」


 その瞬間、アウレイリアは苦しそうに唸り始めた。ミカエル達はすぐ彼女に駆けつけようとする。しかし、次の瞬間にはアウレイリアから強烈な衝撃派が発せられ、ミカエル達は近づくことができなかった。


「…なんですの?これは…」

「体から黒い煙が出てるわ…」


 ミカエル達の方に瞬間移動してきたアンドリアスとメイシャン王女は急変したアウレイリアの様子を見て眉を顰める。この場にいる者全員に緊張が走った。


―ギャァァアアア


 けたたましい女の叫び声があたりに響く。そこには可憐なアウレイリアの姿はなく、黒い刺青を全身にまとった4つ蛇の髪を持つ化け物のような女の姿があった。

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