ミカエルの帰還
「一体、どういうことですか!?アウレイリア様が攫われたとは本当ですか!?」
「…ミカエル」
バタンと大きな音を立てて扉が開かれた。リカルドが視線を向けると、そこには迷宮に行っていたはずのミカエルの姿があった。物凄い剣幕でリカルドにそう問い詰めたミカエルに、リカルドは頭を下げて言った。
「すまない。約束を守れなかった。アウレイリア様がメルトベルシュタイン帝国に拉致された」
「拉致?」
「アウレイリア様は第一王子ラルフレッドに連れ去られた。第一王子が毒に染められた白百合を探しているという噂を聞いて、俺たちは直ぐにアルレインにそのことを相談しに行ったんだ。その帰りの日、王宮に戻るとアウレイリア様の部屋の明かりがついていた。不審に思った俺は、アウレイリア様より先に部屋に入って確認した。すると、そこにはあの第一王子がいた。迂闊だった。まさか、あの王子がいるとは想像もしていなかったんだ。一瞬で俺はやつの魔法で眠らされてしまい、目覚めた時にはアウレイリア様は傍にいなかった」
「そんな…私がもう少し早く帰還していれば…。リカルドはアウレイリア様の呪いのことを既に聞いているのですか?」
「ああ。事情は全て聞いた」
「そうですか。なら話が早いですね。…それで今の現状は?」
ミカエルの言葉に、リカルドは目を伏せた。握りしめられた拳に再び強い力が入る。
「既に陛下はこのことをご存知だが、陛下はアウレイリア様を救うつもりはないそうだ。それどころか、万が一アウレイリア様が復讐しに国境へ来た場合は殺すようにとまでおっしゃられた」
「自分の娘でしょう?!陛下には血も涙もないのですか!?」
ダンッともの凄い音を立てながら、ミカエルは近くの壁を殴った。拳には太い血管が浮き上がっている。
「全くだ。今、アウレイリア様を救いたいという者とそうではない者でこの王宮は分かれている。なんとかしてアウレイリア様を救いたい者たちをかき集め、アウレイリア様を奪還できないか、アルレインと作戦を練っているところだ」
「…そうですか。…なら、私は一足先にアウレイリア様を助けに…」
そう言うとミカエルは、先ほど投げ捨てた荷物を拾いあげ、踵を返した。リカルドは慌ててそれを止める。
「待て。やみくもに動くな。相手は大国だ。準備をせずに行けばアウレイリア様を逆に危険にさらしかねない。それに、お前は長旅から帰ってきたばかりだろう。万全な状態ではないはずだ。既にアウレイリア様を慕う兵士を集めてある。それから、俺の伝手を使ってあちこちで、アウレイリア様奪還に協力してくれる人を集めている。近いうちに協力者と国境の町ハルセインで合流し奪還を実行する手筈だ。だから、今日は休め」
「…わかりました」
漸く冷静になったのか、ミカエルはリカルドの瞳をしっかり見つめ頷いた。その瞳に落ち着きが戻ったのを確認し、リカルドは反射的に取っていた彼の腕を放した。
「正直、お前が戻ってきてくれて助かった。アウレイリア様からお前の帰りは一年後だと聞いていたから、まさかお前がこのタイミングで姿を見せてくれるとは思わなかったよ」
「俺も驚きました。アウレイリア様のおかげで想像以上に早く攻略することができたんです。アウレイリア様から頂いたマントのおかげで、大きな傷を負うこともありませんでしたし。だから、アウレイリア様に早くお礼が言いたくて急いで帰って来たのに、まさかこんなことになっているなんて…」
「そうか。…絶対にアウレイリア様をお助けすんぞ」
「ええ、勿論です」
リカルドとミカエルはそう言って互いの拳をぶつけた。この時彼らはアウレイリア様の凄さを更に思い知ることになるとは思ってもいなかったのだった。




