シェードバルト王国にて
「陛下!大変でございます!」
その日、王宮は朝から騒がしさを見せていた。それもそのはず。第三王女が隣国メルベルトシュタイン帝国の第一王子に攫われたのだから。
業務開始時間と共に、王の執務室に飛び込んできたのはこの国の宰相ゲオルク。そんなゲオルクを怪訝そうな表情で国王は見つめた。
「何事じゃ。朝から騒々しい」
「アウレイリア様がメルトベルシュタイン帝国に拉致されました」
ゲオルクの言葉に、王は眉をひそめた。
「…何?護衛は何をしていた」
「それが、全員魔法で眠らされたようです」
第一王子の強さは王も知っている。一般の兵が守り切れないのも無理はないと納得した。
「それで向こうの要求は?」
「こちらの書類が送られてきました」
そう言ってゲオルクが王に渡したのは、第一王子からの手紙。王は眉間にしわを寄せながら、その手紙を開いた。手紙を読み終わった王は、くしゃりと手紙を握りつぶす。
「ふん、くだらん。あの王子、世を侮っておるな」
王はそう言うと手紙を投げ捨てた。ゲオルクは捨てられた手紙を静かに拾うと広げて目を通した。
「これは…」
「アウレイリアを婚約者にしたいのであれば、世にそう言えばよかったものを。あんなのでよければこちらは喜んで差し出すというのに。わざわざご丁寧に拉致して、こんな手紙を送ってくるとは」
王の言葉にゲオルクは悩まし気な表情で言った。
「アウレイリア様を助けに行けば、メルベルトシュタイン帝国との戦争になる。しかし、彼女を見捨てればこの国は彼女の恨みによって滅ぼされるだろう…陛下、いかがいたしましょうか?」
「ふん。アウレイリア一人の為にメルトベルシュタインと戦争を起こす余裕など、この国にはないわ。あんな娘、捨て置けばよい」
「しかし、この国が滅ぼされるというのは…」
ゲオルクがそういうと王は鼻で笑った。
「魔力すら持たぬアウレイリアにこの国を亡ぼせるわけがなかろう。放っておけばよい」
「…かしこまりました」
アウレイリアが隣国にさらわれたという事件はたちまち王宮に広がった。王位継承者争いのライバルが減ったことを喜ぶ者と、彼女を救おうと動き出す者、二つの派閥が王宮に産まれたのだった。
* * * *
「くそっ!」
リカルドは自室の壁を思いっきり叩いた。じんと拳が痛むが今はそんなことは気にならない。それよりも、アウレイリアを守れなかった悔しさが勝っていた。
「…守れなかった」
部屋に入ってすぐ、王子に魔法で眠らされてしまった。迂闊だった。もっと慎重に行動するべきだった。アウレイリア様を安全な場所に預けるとか、仲間を呼んでから行動するべきだった。単独で乗り込むべきではなかったのだ。しかし、アウレイリア様が連れ去られてしまった以上、反省したところでは遅い。今は一刻も早くあの方を取り戻す方法を探さなくては。
「どうかご無事でいてください。直ぐに助けに行きますから」
そう呟くとリカルドはアウレイリアを助けるべく、自分の部屋を出て行ったのだった。




