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白百合姫は毒に染まる  作者: 嘉ノ海祈(旧 九条聖羅)


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ミカエルの旅立ち

「遂に、この時が来てしまったのですね」


 あれから、あっという間に一か月という時間(とき)は過ぎた。私はマントに刺繍をほどこす傍ら、できるだけ迷宮に関する情報を集め、日々ミカエルと迷宮の対策を練った。おかげで、大分迷宮に対しての耐性はついたのではないかと思う。ミカエルは戦闘において、非常に気が利く。だから、これだけ基礎が把握できていれば、大抵のことは臨機応変に対応できるのではないかと私は思っている。


 今日は、遂にミカエルが迷宮へと旅立つ日。私は目立たない裏門に移動して、リカルドと共にミカエルの見送りに来ていた。リカルドには呪いのことは伏せたまま、ミカエルに迷宮の攻略を頼んだことだけ伝えた。リカルドは深く詮索することもなく、ミカエルの留守中の護衛は自分に任せてくれればいいと言ってくれた。


 時刻は夜。皆が寝静まる頃だ。ここは商人らが食料などを運びに来る場所。日中は様々な商人が行きかう場所だが、夜には人一人いない。門は閉まっているが、魔力で開閉する門なので魔力持ちなら誰でも開閉できる。全く問題ない。


「ミカエル、これを」


 私はそう言ってマントとハンカチをミカエルに渡した。彼はそれを大切そうに受け取る。


「ありがとうございます、アウレイリア様。…暗くて折角の刺繍がよく見えないのが残念ですね」


 心底残念そうにそう言うミカエルに、私はふっと笑った。


「感想は戻って来た時にでも聞かせてください。楽しみに待っていますから。ルリンネの糸で作りました。糸の魔力が切れない限りは貴方を守ってくれるはずです。特殊な魔法陣をいくつも掛け合わせておきましたから、大抵のことからは貴方を守ってくれると思います」


「お心遣いに感謝します。ええ、感想をお伝えする為にも、必ず帰ってこないとですね」


「ええ。そうしてください」


 ミカエルがハンカチを懐にしまい、マントを羽織ったのを確認すると、私は布に包んでいた剣を取り出し、ミカエルに差し出す。


「そして、これが約束の剣です」


「ありがとうございます。抜いてみても?」


「ええ」


 私からの同意を得て剣を抜いたミカエルは、月の光に照らされて光を放つ剣を眺めてほうっと息を吐いた。


「…とても美しい剣ですね。このようなものは初めて見ました」


 ミカエルの言葉に、私は剣について説明を入れる。


「私が用意できる中で最高品質の剣を用意しました。ゲリタルスを使い、名工に打ってもらった剣です。精霊石がはめ込まれていて、その剣ならどんな魔物も切ることができます。迷宮には普通の剣では切れない魔物もいますが、その剣なら大丈夫でしょう」


「ゲルタリス!?…そのような貴重なものを…ありがとうございます。この剣に誓って、必ず目的を達成してみせます」


 剣を鞘にしまい、胸に当てて片膝をつくミカエル。騎士が主に誓いをたてる時の仕草だ。私はそれに少し驚きながらも、ミカエルに言った。


「ありがとう、ミカエル。でも無理はしないでくださいね。戻ってくることを最優先にしてください」


 本当に無理はしてほしくない。迷宮は攻略するまで地上に出てくることが出来ないから、無理をするなというのも酷な話なのだが、戻ることを最優先にしてほしいと思う。自分の為にミカエルが死ぬ方が、聖水が手に入らないよりも辛いから。


 私は彼に色々詰め込んだバックを渡す。それは見た目は小さいけれど、実は魔法でどんなものも入る異空間収納の鞄だ。この世界では魔法が使える者には、意外とよく使われているものだ。


「こちらには非常食といくつか使えそうな魔道具を入れておきました。詳細は紙に書いておいたので後で読んでください」


「それからこれを…」


 そうやってミカエルの手を取り、そっとおいたのは片割れのイヤリングだった。


「イヤリングですか?」


「ええ。昔、とある王女が自分の護衛が戦争に行くことになった時、護衛の無事を祈願して、イヤリングの片割れを渡したのだそうです。イヤリングの効果があったのかどうかは分かりませんが、その騎士は無事に帰ってきたのだとか。だから、私もそれにあやかってみようと思いまして…。あ、勿論、ミカエルはそういうの普段つけていませんし、嫌なら持っているだけでいいですよ」


 私の言葉に、ミカエルは静かに首を振ると左耳にそれを装着した。月明りに深紅のその石がきらりと光る。ゆらりと揺れるその石はとても雅やかだ。


「いえ、アウレイリア様から頂いたものですから、喜んでつけさせて頂きますよ」


「ふふ、お揃いですね」


 そう言って私は髪をかき揚げ右耳を見せるようにする。ミカエルはそれを見てふっと息を漏らした。


「本当ですね。これは効果がありそうです。…では、私はそろそろ参ります。アウレイリア様、どうかお身体にお気をつけて。何かあれば一人で抱え込まず、リカルドかアルレインにでも相談なさってください。きっとアウレイリア様のお力になってくれるはずです」


「分かりました。ミカエルもどうか身体を大切に。貴方の無事を祈っています」


 私はぎゅっと胸の前で拳を握りしめて言った。これが最後の別れになってしまうのではないかと、何とも言えない不安に駆られる。そんな私の手にミカエルはそっと自分の手を重ね、その拳をそっと開いた。


「必ず戻って参ります。どうか、私、いや、俺を信じてください。俺のことは心配せず、アウレイリア様はご自身のなさるべきことを。その方が俺も安心して目的を遂行できます。…リカルド。アウレイリア様を頼みます」


 ミカエルの言葉に、リカルドは胸に拳を当てて言った。


「おうよ。任せときな。また飲みにいこうぜ」


 いつもと変わらないリカルドらしい挨拶に、ミカエルはフッと笑みを漏らす。


「クスッ、ええ。では」


 闇夜に消えていくミカエルの背中を、私はざわつく胸の内を抑えながら見送るのであった。

※イヤリングの色を深紅へと変更しました。

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