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白百合姫は毒に染まる  作者: 嘉ノ海祈(旧 九条聖羅)


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隣国の王子

「隣国の王子ですか……。何だか嫌な予感がするのは俺だけですかね?」


 壁に寄り掛かりながら、そう呟いたリカルド。私はナタリーに髪を整えて貰いながら、その呟きに答える。


「いえ、私も違和感を感じています」


 普段あまり着ることのない、社交界用の完全な貴族向けのドレスを身にまとった私。元々、様々な貴族の思惑が渦巻く社交界は好きではなかった。だが、今回はいつも以上に気が重い。


 ミカエルが迷宮へ向かってから、早一か月。私は今まで通り下町の方に出向き、国民の生活改善の助けをしながら生活を送っていた。変わったことと言えば、周囲に心を開けるようになったことだろうか。ミカエルやアルレイン、リカルドの三人に色々と相談に乗って貰ったり、助けて貰ったりしているうちに、自分が一人ではないということに気が付くことができた。


 今までの私は、周囲の人が向けてくれる純粋な好意に応えることができなかった。呪いのこともあり、人と深く関わることを恐れ、自分で壁を作ってしまっていた。でも、今は違う。人から自分に向けられる好意を素直に受け取れるようになった。下町の人と交流している時も、心の底から笑えるようになった気がする。一人で悩んでいたあの時とは違い、人に打ち明けたことで私の中の何かが確実に変わろうとしていた。 


 一方で、王宮はここ最近、不穏な雰囲気が漂っていた。原因は隣国からの見合いの打診だ。この国の東隣の大国、メルベルトシュタイン帝国から第一王子の婚約者をこの国の王女から選びたいという申し出があったのだ。メルトベルシュタイン帝国はこの世界でも有数の先進国だ。対するここシェードバルト王国は、世界でもあまり名の知れていない小国。それでも長い歴史の中でこの国が生き残っていたのは、単に歴代の王が隣国と上手くやっていたからである。特に、メルベルトシュタイン帝国とは協定を結び強力な後ろ盾になって貰っていた。


 そんなメルベルトシュタイン帝国の第一王子の婚約者がこの国の王女から選ばれるという話は、この国の行く末を大きく左右する重大な事項であった。この国の王女は全部で3人。貴族たちはどの王女の後ろ盾につき、いかに自分が支援する王女を第一王子の婚約者にするかで躍起になっていた。派閥同士が互いを監視しあい、貶めあう。そんな状況が王宮では続いていた。


「確か、男をも夢中にさせるほどの甘いフェイスを持つ、魅惑の貴公子でしたっけ」


「それだけじゃありません。相手は昏睡中の皇帝に変わり、帝国を支配する優秀な皇太子。帝国全体が彼を次期皇帝として推しているのだとか…」


 普通に考えてメルトベルシュタイン帝国がシェードバルト王国と手を結ぶメリットがない。第三王子とかならまだしも皇太子がわざわざシェードバルトと政略結婚をする理由が見つからなかった。


「そんな王子がこんな小国に一体何の用なんだか」


「ただのお見合いではないことは確かでしょうね…」


 私は鏡に映る自分を見つめた。ぐっと手に力を籠め、心にまとわりつくモヤモヤを振り払う。扉を開けようとした私に、リカルドはそっと近づき言った。


「気をつけてください。俺もできるだけ近くにいますけど」


 私はそれに力強く頷く。


「ええ、そうするわ。…さぁ、行きましょうか」


 床をしっかりと踏みしめながら、私は会場へと向かうのだった。


****


 来客をもてなす為に作られた大広間。壇上にはこの国の王と王妃が椅子に座っていた。王の目の前に隣国の王子がにこやかな表情で歩いてくる。彼は王の前までくると、優雅に腰を曲げて挨拶を述べた。


「はじめまして。私はメルベルトシュタイン帝国第一王子ラルフレッド=メルベルトと申します。本日はこのようなパーティーを催し頂き、王太子殿下並びに全ての王女殿下にお足をお運び頂き、心より感謝を申し上げます。是非、有意義な一時を共に過ごしましょう」


 十八歳くらいの爽やかな金髪の青年。男も魅了されるというのも納得の甘い端麗な顔だち。隣に並んでいる王女たちは、目を輝かせて彼を見ていた。彼らだけではない。広間にいる貴族や使用人の視線をも隣国の王子はかっさらっていた。


 王子が顔を上げた瞬間、深く染まる蒼い瞳が露になる。その底知れぬ蒼さに私は見ていられずさりげなく視線を外した。


 王子の挨拶が終わり、国王からざっと王太子・王女全員の紹介がされると、お見合いパーティーが始まった。第一王女は我先にと王子に声をかけ始める。第二王女は後れをとったのを焦るかのように二人の会話にさりげなく割って入っていた。


 もともと選ばれる気もない私は、彼との接触を避けるために、彼の視界に入らない場所に移動した。ただえさえ呪いのことで手がいっぱいだと言うのに、下手に王子に目をつけられて政治争いに巻き込まれるなどごめんである。彼との婚約に関しては上の二人の王女にお任せしたいところだ。私は目立たないように細心の注意を払いながら、提供されている食事に静かに口をつけた。流石は隣国の王子が来るとだけあって、料理にも気合が入っている。このまま食事を楽しみながら、壁の花として一日を終えたいところだ。


 大分時が経ち、そろそろ引きあがってもいい頃かと思った矢先、恐れていた事態が起きた。王子がこちらに向かってきたのである。私はどうしたものかと悩んだ。本当は逃げ出したいところだが、ここであからさまに逃げるのは彼に対して失礼である。隣国の王子相手に失礼をするわけにはいかない。私は諦めて王子の相手をすることにした。さりげなくリカルドに視線で合図をしてから、隣国の王子に余所行きの笑顔を向ける。王子はそんな私を見て微笑みを浮かべる。その微笑みに背筋がぞくっとした。


「こんにちは。貴方は確か第三王女、アウレイリア王女ですよね。お会いできて光栄です。貴方のお噂はこちらにも耳に入っていますよ。国民の生活をよくするために、自ら動いていらっしゃると。最近では平民の為の学校をお作りになったとか。是非一度、直接お話を伺いたいと思っていたのです」


 …一体、どういうつもりだろうか。シェードバルト王国はメルベルトシュタイン帝国に比べ、文明が遅れている。特に、教育に関しては向こうの方が遥かに優れているのだ。平民向けの学校だって、向こうには既にあるはずで、私はどちらかというと向こうの平民向けの学校を参考にこちらに学校を建てた。彼からすれば、こちらの学校はまだまだ遅れているように感じるはずだ。それくらいにこの国の教育制度はまだ完全ではない。彼にしてみれば、わざわざ聞きたいと思うような話などないはずである。


「ラルフレッド様自らお声をかけて頂けるとは、とても光栄に存じます。はい、私が第三王女アウレイリアです。まさかそのような事までご存じでいらっしゃるとは夢にも思いませんでしたわ。とても嬉しく存じます」


 完璧な営業スマイルを顔面に張り付けてそう言う私。向こうも完璧に作り上げた綺麗な笑顔だ。互いの腹を探り合っているような感覚が非常に居心地が悪い。そんな私の気持ちも知らず、上の王女二人は悔しそうな目をこちらに向けいた。…全く、変われるものなら是非とも変わって欲しいものだ。私はこの人に関わりたくないと言うのに…。


「知らないわけがありませんよ。あれはこの国の歴史を大きく変える功績ではありませんか。そのような立派な行いをなさっている方に、興味を持たないわけがありません」


「…ラルフレッド様程ではございませんよ。ラルフレッド様が残された功績はいくつも伺っておりますもの。ラルフレッド様が発表された研究論文、いくつか拝見いたしました。あのように目をつけたことがございませんでしたので、とても参考になりましたわ」


 悔しいことに私がこの国に取り入れた事業のいくつかはこの人の論文をもとに作ったものだ。隣国の様子を事細かに記してあったのが彼の論文だったのだ。王位継承者として自国の文明を振り返るために書き上げたらしい。


「そうですか。まさかこの国でも自分の論文を読んでくださる方がいるとは思っていなかったので、それはとても嬉しいですね。是非とも色々とご意見をお伺いしたいものです」


「意見だなんて恐れ多いですわ。どれもシェードバルトにはない文明で、非常に勉強になりました」


 …ああ、早く帰りたい。内心そんなことを思っているとリカルドがそっと私に近寄り耳元で囁いてきた。わざと少し王子に聞こえるボリュームで。


「王女様。お取りこみ中に失礼いたします。王妃様が王女様を呼ぶようにと…」


「まぁ。それは早く参りませんと。…ラルフレッド様、申し訳ございませんが急用が入りましたので御前を失礼させて頂きます。まだまだパーティーは続きますので、どうぞごゆっくりなさってください」


 申し訳なさそうに私がそう言うと、ラルフレッドは眉を下げながら爽やかな表情で言う。


「ええ、私のことはお気になさらず早く行って差し上げてください。少しでも貴方とお話できて私は嬉しかったです。話の続きは、次お会いした時にでも」


 笑顔で送り出してくれた王子に頭を下げると、私はその場を後にした。やっと彼から解放されたことに安堵していた私は、この時王子がどんな視線で私を見送っていたのか気づかなかった。


「みーつけた♪」


 獲物を見つけたような鋭い眼光で、王女の後ろ姿を見ながらそう吐き出されたラルフレッドの小さな呟きは、会場に鳴り響く音楽によってかき消されたのだった。

※王女の数を3名に減らしました。

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